井の頭歯科

「羅生門」を見ました

2011年1月14日 (金) 12:52

黒澤 明監督             大映

芥川龍之介の原作「藪の中」は短い短編で、読んだことは憶えていますが、詳しい内容は忘れていました。が、非常に面白い作りの映画、そしてスタイリッシュな作品だと思いました。

時は平安時代、朽ちかけた大きな門(羅生門)に激しい雨が降る中、農夫と僧侶が不思議な顔をして雨宿りをしながらも、放心状態でいます。そこへ新たに雨宿りに来た1人の男が、ちょうど良い退屈しのぎとばかりに、2人に放心状態に陥った顛末を話して聞かせろ、とせっつきます。2人が体験した、その不思議な事件とは・・・というのが冒頭です。

とても有名な作品ですが、ネタバレ少しありますので、未見の方はご注意くださいませ。

映像として、演出として、もの凄く斬新な手法が取られて、それは『ある決定的な出来事をめぐる、3人の視点によってそれぞれ捕らえ方が異なる』ということです。それを(もしかすると現実、という世界はすべからくそうである、という認識もできますし、哲学者廣松 渉の本でも読んだように思いますし、私の「現実」は私の「脳内妄想」かもしれないという疑念を完全に払拭することは出来ないという映画『マトリックス』と同じです)、それぞれの視点から繰り返し受け手に見せて、しかも最後は・・・という展開、斬新です。なるほど、これを1950年にやる黒澤監督はスゴイです、納得。今まで見たどの作品も完成度が高かったですが、この作品の斬新さと緻密さにはとてもびっくりしました。衝撃度で言えばなんとなく面白そうだからと事前情報を全く無しで見た「ユージュアル・サスペクツ」の衝撃と似てます。

ストーリィも非常に練りこまれている、と思いました。誰の視点で見るかで、同じ『事実』であっても『真実』が違ってくる、というその差異の妙を、受け手にとっては『何を信じれば良いのか分からなくなる』という効果が多層的になって面白いです。盗賊の、武士の妻の、武士が乗り移った巫女の、それぞれの証言が揃ったときの、そしてその上での新たな証言と、その新たな証言者にもある隠された嘘を暴くもう1人の聞き手、構造としても面白すぎます。

役者さんもまた素晴らしいです。かなり難しい演技だと思うのですが、特に不可思議な体験を消化する志村 喬さんと千秋 実さんは凄かったです。また、雨宿りをする、という設定とその雨の激しさが、とてもリアルに感じられました。

映画的手法に興味のある方にオススメ致します。

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