井の頭歯科

「ロスト・レオナルド」を観ました    The Lost Leonardo

2025年6月17日 (火) 08:51

アンドレア・コーフォード監督     ソニーピクチャーズ   Youtube
2025年公開映画/2025年に観た映画   目標52/120   17/52
山田五郎さんのオトナの教養講座でお話しされていた映画がYoutubeで無料公開されていたので観ました。
レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画かもしれないという発見を巡るいきさつを描いた作品です。
で、まぁアートの話しかと思いきや、政治と、金の話しでした。
まず、2005年に2名の美術関係者がもしかすると、というこの「世界の救世主(サルバトール・ムンディ)」を1175ドルで落札。非常に損傷が激しく、修復士のダイアン・モデスティーニに依頼して修復を行うのですが、とにかく重ね塗りやそもそもの画材の木の問題が大きく、これまた観る人によると思いますが、修復なのか、もはや修繕なのか、あるいは書き足した、もっと創造した、という様々なレベルで取り上げられる「修復」をして、真贋の鑑定をしようとします。
ここに当時のイギリスのナショナルギャラリー・キュレーターのルーク・サイソンが修繕室という中立の場で専門家を3名ほど呼んで絵画を観る企画をします。
ところが、このキュレーターは美術館のキュレーターで、集められた3名の専門家に対して、真贋については何も聞いていないのです・・・なんとなく、その場の雰囲気で、判断した、と言ってしまっています・・・これが大問題になるとは思うのですが、全然別の大問題になって行きます・・・ま、この人の目の泳ぎ方は凄いです、一見の価値あり。
だってこのキュレーターはその後にレオナルドの回顧展を行おうとして、しかもその目玉として、この作品を展示しようとしているのです・・・まぁ普通に既にそうであって欲しい、というバイアスありますよね。
このように、この後もいろいろな事が起こるのですが、真贋の事に対しては、正直誰にも分らないし、絶対的な証拠を科学的に見つけられるか?は不明です。来歴という、誰が所持してきたか?もかなり不明な状態で、確かに本物かも知れませんが、偽物の可能性もある。
で、正確に分からなくとも、その価値を高めたり、個人の恣意的な都合で、その価値を変えようとする、ホモサピエンスの思惑で、どんどん状況が変化していきます・・・
鑑定をある程度時間をかけて行おう、という人が所有者に、全然出てこないんですよね・・・あくまでお金がある、つまり、多少絵が怪しくとも、こちらの政治的な圧力をかけて、国家的な美術館に、真作として扱うように命じられる、と思った人が購入者として手を挙げる・・・なんならオークション側も、煽れるだけ、煽る。
すっごくホモサピエンス的(負の)ふるまいに満ちた映画でした・・・もはやここまで来てしまうと(最初1175ドルが、結局4億ドル越え・・・)投機とか、金額も個人で扱うには無理です・・・ま、それを出せる人が、国内でどのような振る舞いをしていて、その国でどのような立場にいるのか?を知れただけでも、良かったです。だって皇太子ってことは・・・
凄くいろいろ考えさせられる絵画に纏わるドキュメンタリーでした。
アートが好きな方、もしくはお金に興味のある方、そしてホモサピエンスの行動に興味のある方にオススメします。

「鬼の筆:戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折」を読みました

2025年6月14日 (土) 08:44
春日太一著     文藝春秋
橋本忍脚本作品で観ているもの、観ていないもの、いろいろありますが、何を持って戦後最大とするか?にもいろいろ疑義はあろうかと思いますが、最大級というのは間違いないでしょうし、春日太一さんの解説、鋭く面白いので読もうと思っていました。
が、なかなか手に入らない・・・リアル本屋さんにあまり並んでいません・・・または少数しかリアル本屋さんに回ってこないのかも知れません。ちなみに新宿紀伊国屋で購入出来ました。
橋本忍脚本の映画の最初って、いきなり羅生門なんですよね!驚愕!とてつもないスタートです。その前に伊丹十三監督のお父さんで脚本家の伊丹万作に師事しています。これも驚愕です。全然知らなかったです。
脚本家として職業にするまでも少し時間がありますし、その後も黒沢作品の重要な「生きる」と「七人の侍」を書いていまして、まぁ凄いです。
しかし橋本氏本人は、伊丹万作に師事、黒沢作品に脚本を書いているのに、評価が低い、と感じていたそうです。これも驚愕。ある程度理解はしますけれど、まだ全然駆け出しの頃であっても、非常に強気でプライドが高く、ギャンブル性があり、山師的な感覚を持っている事が分かります。
数字に強くて、そしてどちらかと言えば、興行を優先して考えていた、というのも意外でした。でもだからこそ、脚本家、だけでなく、プロデューサーや監督作品もある人なんですね。
春日さんもかなりの回数、時間、インタビューされた模様で、確かに素晴らしいインタビュー、資料を基にした、脚本家だけではない橋本忍像が分かりました。
そして、春日さんの目を通しての、橋本忍像が理解出来て、何となく、この時代だから受けたのではないか?と感じてしまいました・・・今までの脚本だけで観てきた橋本像から感じていたのとは全然違いました。だからこそなのかも、ここまで売れて、作品を生み出せたのだと思いますけど。
そして春日さんが橋本忍本人から語られ、示された資料の数字、その予想、全部とは言わないまでも、全然根拠が感じられない、それこそ空想の域を出ない数字でもある可能性、そして時流を掴み損ねた、というかそもそもの本人の志向が時流と合っていればヒットしていたかのようにも感じられます。
そもそもの志向が、この時代の大衆に響いていて、だからこそ新しい、本人のやりたい事をまとめて入れた「幻の湖」が、トンデモな作品になってしまったのではないか?と個人的には感じました。体力や年齢ではない、私は数字に強いとかヒットさせてきたという自負が、目を見えなくさせて時代の流れも掴みそこなってしまったんじゃないか?と。そうでないと、ここまでの大作で変作にならないですよ・・・どんなに強がって見せても、これはダメ過ぎます。つまり、徳に「幻の湖」に意匠は無かった、という事になります。
この事を持って、私はたった1作の失敗、ではなく、非常に運のよい、もちろん脚本の仕事で素晴らしい作品はあるモノの、橋本忍本人の資質に興味が無くなってしまいました・・・
作品で言えば、「羅生門」、「生きる」、「七人の侍」、「隠し砦の三悪人」など黒沢作品、残るでしょうし、小林正樹監督作品「切腹」も本当に素晴らしい。しかし、確かに超大作ですけれど「八甲田山」や「日本沈没」は当時の時代的価値、文化を残す側面や素晴らしさはあれど、作品としては、やや劣りますし、流石に「幻の湖」については、これは反論出来ないここまでの作品を作ってしまったとなると、いかに時流を捕まえるのが上手かったか?の方が強く感じられます。
それでも本当に凄い脚本家ではあります。そして確かに腕力、勢いの作家性はあると思います。そしてもちろん、その脚本の腕力が無ければ成立しないかも知れませんが、それを完成させる監督や演者、スタッフが揃ってこそ、腕力が可視化される。
脚本は私は映画を構成する要素の中で最も重要だと考えていますし好みなんですけれど、やはり脚本家としては山田太一さんの方が好みです。
「幻の湖」「羅生門」「七人の侍」「私は貝になりたい」を観ている方にオススメします。

「エル」を観ました     EL

2025年6月13日 (金) 09:15

 

ルイス・ブニュエル監督     Amazonprime
2025年公開映画/2025年に観た映画   目標52/120   17/51
少し間が空いて急にルイス・ブニュエルが観たくなり、探して最初に見つかったのが、こちらだったので観ました。こういう説明しない、ある程度解釈が開かれている、という作品について、ああだこうだ、と頭の中で考えるのが楽しいです。もしかすると私は会話相手がいなくてもいいのかも知れないと思う事があります。もちろん好きな事が同じ人と話すのは楽しいですけれど、議論を楽しむ事が出来るのって、絶対的信頼関係が成り立たないと難しいですし、絶対的な信頼関係であっても、崩れるかも知れないという緊張感も必要ですから。
教会の信徒の足を洗う神父が・・・というのが冒頭です。
私はロマン・ポランスキー監督「反撥」を思い出しました。男女の違いはありますけれど、いわゆる、強迫観念症のお話しです。
それをロマンティックにも、ドライにも、そしてシュルレアリズムにも撮っている作品。あと、アルフレッド・ヒッチコックの「めまい」のラストカット、この映画のオマージュなんじゃないか?と感じています。誰か言及して調べている人いないのでしょうか?
どんなにお金持ちでも、どんなに敬虔な信徒でも、どんなに周囲の人から尊敬されていても、夫婦関係についてははかり知る事が出来ません。そして本当の所、一緒に生活してみなければ理解出来ない何かがあるかも知れません。
恋愛状態の脳内は、基本的にアッパーにクスリが決まった状態、あるいは酩酊している状態なので、視野狭窄が極まった状態にあるので、大変心地が良く、中毒性が高いわけです。
でも、それこそ歴史的に見たら、うちの国で恋愛結婚が、ロマンティックラブイデオロギーが流行ったのって割合最近、昭和になってから、なんなら先の大戦以降のお話しだと思います、一般的になったのって。
ヨーロッパだって18世紀後半ですよね。それまでのホモサピエンスの長い歴史の中では、割合少数派だと思います。ま、だからこそ、悲劇性も特異性も高まります。物語の、小説のチカラは大きいです。
閑話休題
という部分から、急にカットバックして、過去が語られるのですが、凄く構成がイイですね。というか今観ても新しさを、古びた感じがしない、センスを感じます。
ま、私がこういう話しが好きだから、というだけかもしれません。
もし、感情に身を任せ、判断を直観に頼り、思った通りにしないと不満を溜め込む、というのが如何に困った存在であるか?を見せる作品であると同時に、私にも、あなたにも、何時でも訪れる可能性のある物語とも言えます。特に精神疾患としては、高齢であっても、発症する可能性はあります。
そして凄い強い男尊女卑といいますか男性の優位性が、担保される事で男性の尊厳が保たれているという規範、が描かれています。そして、そういう文化という事も、その方が適材適所だった時代だという事も理解出来ます。が、決してフェアではない。
私の今のところの最も根源的なものさしはフェアであろうとする、という事だと、やっと最近気づきました。完全な結果のフェアではもちろんなく、かといってアファーマティブアクションが不必要だとも言えない。しかし程度には揺らぎもあると思いますし、そもそも完全なフェアはあり得ないけれど、ジョン・ロールズの言う未知のベールの考えは重要な気がします。もし、完全な公平性を目指すなら、相続税は100%にするべきで、もちろんそんなことはなかなか出来ないし、出来たとて、必ず抜け道や、金銭では無い基盤を残したりすることになる。でも、現在の状況の中で、フェアである事を重要な点である事を、せめて共通認識持てたら、という夢を見ている、という事です。だって、どんなに正しくとも、ホモサピエンスはそれだけでは、全員が納得するなんてことは無いし、万人の闘争状態に逆戻りする事を厭わない人もいる。本当に世界って不思議です。
この映画の中の時代、そこでは女性の役割が、恐らく宗教的にも、そして文化的にも、非常に厳しい状況であった事は理解出来ます。かなりキツイ生活になりそうです。
ルイス・ブニュエル監督のセンスを感じてみたい方、エンターテイメント性だけが映画だと思わない人にオススメします。

「夜の来訪者」を読みました

2025年6月11日 (水) 09:26
プリーストリー著     岩波文庫
とある配信を観ていて、良い文学作品の例のひとつに挙げられていて、しかも全く知らなかったので、手に取りました。そして、読み終わって非常に素晴らしい作品に触れられて感謝しています。1912年の戯曲ですけれど、本当に凄い。やや、やり過ぎに感じるかも知れませんし、今観ると演劇的な予見は出来るかも知れませんが、当時は非常にセンセーショナルに迎えられたと思います。
またこの作者や態度を左翼的という批判はあるだろうと思いますが、何をもって左翼的なのか、かなり微妙に感じましたし、階級社会の中で、しかもイギリスで、紳士的な事を善しとする文化の中で描かれている事を考えると、単に左翼的とは言えないのではないか?と思いました。もっと大きな事について、実際に警部に言わせていますし、そここそがテーマ。と私は感じました。
アーサー・バーリング邸ではその娘シーラと、アーサー・バーリングとは同業者であり同じく工場主で階級社会ではより上のサー・ジョージ・クロフトの息子であるジェラルドの婚約の宴が、父バーリング、妻シビル、娘シーラ、息子エリック、そしてジェラルドの5人参加して開かれています。食事も終わり給仕であるエドナが食器を片付けている所に・・・というのが冒頭なんですが、非常に演劇的で上手いです。
私はどんでん返しが強すぎると、どんでん返しという刺激に麻痺してしまい、もっと強いモノを!という傾向に強い危機感を感じます。何故なら、どんでん返しの為の、どんでん返しが多すぎるようになってきていると感じるからです。あくまで、どんでん返しは結果であって、作為的に作られると、それは作者の都合で組み込まれているだけじゃないか、と感じてしまいやすいと思うからです。
どんでん返しの、為の作品は、志が低い、という事です。もっとテーマやキャラクターが生きて、その上そのテーマやキャラクターに関連がある出来事や事柄が、ひいてはどんでん返しに見える、というモノが望ましいのではないか?と思うのです。
この1921年の作品はそういう作為を、感じにくいです。もちろんテーマに沿って展開していますし、驚きがありますけれど、おそらくそれよりも、警部の退場の際の言葉を言いたいが為に作られた作品。
これ、現代に設定変えられないですかね。凄く面白そう。で、多分家族の話しにするのは難しいし、SNSも絡めたいです。
何となく、学会、それも社会科学的な学会で集まった世界各国の代表的な5名に対して、とすると面白そうなんだけど、捜査権的な存在が難しい。
結局国家を超える統治権力は存在しないが、その国家の統治の限界は露呈していて、企業資本は恐らく国家よりも強く、国家を超えて資本を移動できる。その事だけでもどうにもならないのに、国際的な枠組み、に拒否権がある状態で、そもそも常任理事国の権利が強すぎる問題も解決できてないので難しいですかね。
それにしても見事な脚本でした。
善性について考えてみたい方にオススメします。
それと、この来訪者って言葉、私がタイトルに出てくる作品で知ってるのってもう1つしか無くて。という事は当然、この作品のタイトルから取られているんでしょうね。

「幻の湖」を観ました

2025年6月10日 (火) 09:14

 

 

橋本忍監督     東映     Amazonprime
2025年公開映画/2025年に観た映画   目標52/120   17/50
噂にたがわず、な作品でした・・・これはどう感じればよいのでしょうか?
私は何か重要なポイントを見逃したのかも知れません・・・
道子(南條玲子)は愛犬シロと琵琶湖畔を走っているのですが・・・というのが冒頭です。
シュールレアリズムなのか?不条理劇なのか?もしかすると、壮大な実験なのか?と言う感じで、正直、全然理解出来たとは思えません。
しかし、しかし、です。監督脚本演出で橋本忍、演者も主演はオーディションのようですが、脇はかなりの実力者で固められています。特に、室田日出男(あの山田太一脚本の不揃いの林檎Ⅱの仲手川の上司!)、大滝秀治、菅井きん、北王子欣也、高橋惠子、かたせ梨乃、長谷川初範(ウルトラマン先生!)とても豪華です。
使われている曲で言えば、F・リストのレ・プレリュードが非常に効果的。この曲好きです、吹奏楽でもやったな。
撮影機関は1年間!これは莫大なお金が費やされた事を意味します。ちょっと普通じゃないです。
で、ただの失敗作とは言えない熱量は感じられますし、絵面も非常に強いし、確かに1年間通しているので四季を感じる事が出来る非常に稀な映画。
だから、なにがしかの、意図、もしくは目指したものが理解出来る片鱗があれば、と思いましたが、全然わからなかったです。
これ、私あらすじも言えないくらい、です。複雑で難しいのではなく、上手く言葉にしても文章として何を言っているのか?伝わる気がしないです。
あ、それと、浅井満福丸、あの絵は無い・・・あの両手は、無い。
さて、春日太一先生のインタビュー書籍「鬼の筆」でどこまで理解出来る話しになるか、今から楽しみです。
でも完成して封切して、劇場でかかった事がある映画。でもそれすら凄い事実・・・
ある種の壮大な失敗作なんですけれど、それをも楽しめる方にオススメします。
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