井の頭歯科

「悪は存在しない」を観ました

2024年5月17日 (金) 09:16

 

 

濱口竜介監督     Incline     ル・シネマ渋谷宮下
2024年公開映画/2024年に観た映画  目標 36/100です。 現在は11/44
前作「偶然と想像」がなかなかの衝撃作だったので。
森の中を真上を向いている視点で木々を下から眺める映像が流れる中、非常にドラマティックな音楽が流れていて・・・というのが冒頭です。
これは、何も知らないで劇場で楽しむタイプの映画。そして、非常にヨーロピアンな感覚を楽しめる人向き。もっと言うと能動的に楽しめる人向き。
GW最終日に朝一の回を渋谷で鑑賞しましたが、前夜にネットで空席だらけだったので、余裕かまして10時過ぎに着いたら、長蛇の列・・・つまり、普段ネットで席を予約し慣れていない映画ファンが大挙してくるような作品。例えば日比谷シャンテでかかりそうな作品と言えば分かっていただけると思います。
でも、凄く直球な作品とも言えます。
私はタイトルの意味は自然の事だと理解しました。
ラストについて、誰かと語り合いたい作品。
本当は「GIFT」と呼ばれる対になる作品を観ないとちょっと簡単に何も言えなくなるのではないか?とも感じましたけれど、非常に心に残る作品。
まず役者さん、それも主演者の巧役は実のところ役者さんではない、というのが衝撃でした・・・でも、とても、とても何かを抱えている感じが出ていますし、まさに自然の中の生活者に見えるのです。でも、何かしらの問題も抱えている感じ。それも決定的な何か・・・
都会から来る2人組も不思議で、実在感、まさにこれは会話劇における濱口監督の得意技ですけれど、凄く現実との地続き感があります。これは既にメソッド化されてて、こういう部分はとても演劇的と言えるかもしれませんけれど、上手いです。
もう1つの主役は、間違いなく音楽。劇伴の石橋英子さんの素晴らしさでしょう。物凄く雄大に感じます。現代音楽に詳しくないので分からないのですが、「ドライブマイカー」の時に組まれた方で、この映画は石橋さんのミュージックビデオの製作がきっかけとなって生まれている作品なので、音楽ありき、は当然なのかも知れません。
是枝監督とはまた違った、巨匠になりつつある人を見続ける面白さに興味がある方にオススメ致します。
予告編でも観れますけれど、あの湖のあるポイントだけ丸く氷が張らない事の不思議さとか美しさとかをロケーションで探してくるのとか、本当に凄いと思います。大変美しい。
アテンション・プリーズ!
ここからはネタバレありの感想です。未見の方ご遠慮くださいませ。
なんでも忘れてしまう開拓移民三世で何でも屋の主人公・巧とその娘・花。は自然の中で生活する人間で、大変狭い村に住んでいますし、うどん屋を営む夫婦も都会からの移住者で、そんな村に芸能事務所がコロナ禍の政府からの助成金を目当てにキャンピング場を作ろうと説明会を開いて、その説明に来た東京の芸能事務所の人間で立場が上で男性の高橋と立場は下で女性の黛。その2人が事務所と村人代表のような巧との関係を築きつつ、花が行方不明になる話し。と要約しようと思えば出来るのですが、それだとこの映画の何も観てない感覚に陥ります。
これは様々な立場の人間が自然の中で、悪意はないけれど、生活する上で起こる出来事を描いた作品だと思いました。
人の存在は、善にも悪にもなれるのでしょうけれど、都会に近づけばより悪意を感じやすいです。ですが、それでも生活しなければならないし、生きて行かないと。でもだからと言って、補助金をあてにするのは本当にどうかと思うし、もっと言えば政府が仕事していないのと同じで、助けられてない・・・でも、人間は生きるためにお金が必要で、組織である以上は、上の命令に完全に逆らう事は難しいわけです。人間の側にも(私も人間なので)様々ですが、それなりの理屈があり、それを悪と簡単には言えないし、とてもグラデーションがある。
(とは言え、あのコンサルタントは完全な悪の存在に見えますね)
でも自然には、理屈も無ければ悪も存在しない。
悪とか善とかは人間の理屈であって、自然はそのままで、それだけ。
だから、巧の最期の行動はビックリはするけど、自然との対比では悪になる。少なくとも善ではない。
で、現実の出来事なのか?なんなのか?はそれぞれの解釈だと思いますけれど、個人的には、現実だと感じました。巧から見た高橋の軽さのようなモノ、その時その時の判断で揺れ動き軸の無い存在だからこそ、巧からすると信用置けないからなのではないか?と思いました。それに、おそらく似たような形で奥さんを亡くされた、それも自然災害系だと感じました。だから生贄みたいな感覚が起こったんじゃないかな、と思いました。だいぶ飛躍しますけれど、それくらい自由な解釈も許される自由度があると思います。

「蛇の道」を観ました

2024年5月14日 (火) 09:10

 

黒沢清監督     大映     U-NEXT
2024年公開映画/2024年に観た映画  目標 36/100です。 現在は9/40
リメイクされる、という話を聞いたのと、今U-NEXTで観られます、傑作ですよ!という話しを聞いたので、短いし行ける!で勢いで観ました。
車に乗っている2人宮下(香川照之)と新島(哀川翔)は計画について話し合っているのですが・・・というのが冒頭です。
なるほど、これはリメイクしたくなる感覚分かります。
非常にいろいろなアイディアが織り込まれていて、いや、もっと正確に言えば、低予算でも撮れる努力に満ちていますが、それをもう少しお金かけたら、もっと良くなるのでは?と思える作品でした。
しかも、哀川翔さん、私はあまり見かけない役者さんなんですけれど、凄く良かった!何この人!凄く感覚が死んでる演技!この人の存在で成り立ってる映画。そう言っても過言ではない。
ネタバレ無しの感想なのですが、クライムサスペンスとしてはとにかく低予算でも出来る内容で、サスペンスもありますし、まぁある程度、というか黒沢清監督作品として読めてしまう部分は大きいのですけれど、面白いと感じました。
これはネタが割れても、黒沢清監督作品として面白いですし、感情の機微を読み取ろう、能動的に画面内で起こっている状況から推察する楽しさを楽しめる人向きな作品だと言えると思います。
黒沢清監督作品はあまり観れていないのですが、何と言っても「Cure」が断トツの最高傑作だと思っています。本当にトラウマ級の映画ですし、会話劇としても、役者のキャスティングと演技も1級品で、大好きな作品です。
リメイク、どうやらフランスで撮られているようで、楽しみです。リメイクするからには、何かしらの改変をしてくるでしょうし。それと、フランス版になるとして、タイトルをどう変えたのか?も気になります。このままでも日本なら問題ないでしょうけれど。
黒沢清監督作品が好きで見逃している人にオススメします。

「死なれちゃったあとで」を読みました

2024年5月10日 (金) 09:09
前田隆弘著     中央公論新社
タイトルで手に取りました。
非常にライトな語り口で、するすると読めます。しかし、なかなかにヘヴィーな案件を扱っています、何しろコンタクトが取れなくなる相手の話しですから。
死について考える事は、おそらく、世界の文学上の最も大きなテーマでしょう、あとの半分近くが愛でしょうし。そして、哲学においても最も大きなテーマの1つだと思います。そして憑りつかれている人も多い。
私も親和性が高い感覚がありますし、単純に興味があります。謎ですから。
著者は初めて知りましたけれど、かなり誠実に向き合っていると思います。もっと頻繁に書籍に触れていた頃なら1日で読めたと思いますが、今は3日くらいかかりました、本当に読書から距離をとってしまったなぁ・・・昔はもっと読書に身体性的親和性があったのに・・・やはり能動的な趣味には常に怠らない訓練が必要です。
どの話しも素晴らしいけれど、後輩Dの話しがやはり軸ですし、大きい。
凄く読んで良かった。
これを、深夜にストレートの強めのお酒をちびちびやりながら蛍光灯の下で読んだ感覚がとても良かった。

「異人たち」を観ました 

2024年5月7日 (火) 09:17

 

アンドリュー・ヘイ監督     サーチライトピクチャーズ     シネクイント渋谷
2024年公開映画/2024年に観た映画  目標 36/100です。 現在は9/39
2023年に亡くなれれた個人的に好きな脚本家の1人である山田太一さんの小説「異人たちとの夏」を原作にしたイギリス映画です。個人的には原案、とした方が素直に観れると思います。山田太一さんにとってこの小説が個人的な感覚のモノであったのと同じように、この映画は監督であるアンドリュー・ヘイの個人的な映画だと、観終わって感じました。
原題は All of us Strangers 確かにちょっと山田太一さんの原作とは違うテイストを感じます。
ロンドン市内のマンション高層階に住むアダム(アンドリュー・スコット)は脚本家で、自身の両親の話しを基に脚本を書こうとしているのですが・・・というのが冒頭です。
まず、大変に美しい映画です。流石アンドリュー・ヘイ監督です。とにかく風景が美しい。オープニングのカットはもう最高に美しい。多分一生覚えていられる。
それと主演者2名の両方が素晴らしい演技。抑えつつも、何かを抱えている感じが醸し出されているけれど、そこまで演出も強くなくて、自然。で、当たり前なんだけれど、ポール・メスカルが、本当に上手い・・・なんというかこの人、精神的な不安定感に驚くほど親和性が高い気がする・・・この人そのものが心配になるレベル。伏し目がちなのも、悪くない。が、これは後で言及するけれど、ちょっと行き過ぎな感覚もあった・・・でも、それが自然なんでしょうけれど・・・
原作未読ですが、大林亘彦監督作品は観ています。で、結構な改変点がいくつかあるのですが、ネタバレ無しの感想なんであまり言えない・・・
ただ、非常に個人的な、それも監督にとっての、個人的な映画なんだと思います。それを、原作者に許可を取り、映画化するっていう事が凄い。
主人公の名前はアダム。それだけでも、それなりの含意を感じるけれど、演じる役者がアンドリュー・スコットで、監督の名前もアンドリューで、職業は脚本家。もう監督の分身としか思えないです。流石に監督の個人的な背景がどうなのか?とかは調べないですけれど、まぁ、色々そうであったとしても、そうでしょうね、としか感じないです。でも、それぐらいの感覚、魂込めました、みたいな感覚もありました。
それと、音楽もかなり良かった。それに、懐かしさもある。知らない曲もあったけれど、美しい、という共通項は感じられました。
とてもファンタジックな話し、だと思いますし、個人的なある種の感情の吐露、と捉える人が居てもオカシクナイ脚本。それを、さらにアンドリュー・ヘイ監督の個人的な要素、あるいは傾向を入れて、当たり前ですけれど、ロンドンの映画に、現代にアップデートして見せている訳です。なんか、徐々に、思い返して、評価が高まる作品だと思います。
で、どうしても考えさせられたのが、セクシュアルな場面のリアルさ、という事です。仮に、男女カップルのセクシュアルな場面は、これまでの映画の中でも、結構リアルに描かれてきていますし、それを楽しんできた、とまでは行かないけれど、まぁそれなりに観てきたわけです。けれど、女性側から見て、どうだったんでしょうね・・・同性の裸を見る、という事に関して、何も考えていなかったんですけれど、結構なリアルさで見せられると、それなりに来るモノがありました・・・でも、監督としては必要だったんでしょうし、まぁ大人になって生活していて、パートナーがいるという事は、別に普通にセクシュアルな関係を結んでいるでしょうし、それが当たり前なんだけれど、隠す前提だと、他者のセクシュアルに対して全くの無知なわけで、センシティブなことだから、それでもいいけれど、もう少し開かれてても良い気がします。そうじゃないと結構な誤解を生むと思うし。
それと、どうしても、監督も脚本もカメラマンも男性が圧倒的に多いので、女性を写す事に躊躇いがない。でも、それが文化の進化してきたベクトルの基の方というだけなのかも知れない。今まで割合無意識でしたけれど、これからはもっとはっきり意識してしまうだろうな・・・という事は没入感は得られなくなる、という事になるし、例えとして例に出す事何回目かだけれど、記者会見をしている側からの視点、今後絶対必要になると思う。放送側もその事を自覚した方が良いし、男性目線をカメラだけが追うのではなく、女性側の視点をカメラが追うと、もう少しフラットになると思う。まぁ映画は娯楽だから難しでしょうけれど。
あと、クレア・フォイが頑張っているんだけれど、映像って残酷なまでに肌の質感とかくぼみというか皺を見せるんですけれど、これがかなり来てる。もう少しメイクとかしてても良かった気もするんだけれど・・・それと、この母親の立ち位置が、大林監督版との違い、かなり大きく感じました。まぁ仕方ないのかも、だけれど・・・
あと、お父さん役のジェイミー・ベルの演技も良かったと思います。葛藤を抱える人物の、それも外交的な、体育会系男の性格の人の苦悩、かなり表現として難しいと思うけれど、良かった。
ポール・メスカルの今後は凄く気になる。
勝手な私の解釈だけれど、孤独を埋める事は、神にも出来ないと思うし、どんなに家族や恋愛関係であっても、人は孤独だし、100%の意思疎通は出来ない。でも、それでも、コミュニケーションをとる価値はある。何故なら、それこそが希望だからだと思う。
ラストにかかる曲を私は知らなかったけれど、歌詞の単語でドラキュラとか入ってたから、これは間違いなく監督にとって思い入れのある曲なんだろう。
どちらかと言えば、山田太一原作、という事よりも、アンドリュー・ヘイ監督作品を観た事がある人に、オススメします。
アテンション・プリーズ!
ここからは、ネタバレありの感想ですので、未見の方はご遠慮くださいませ。
ネタバレありとしては、やはり、ファンタジックな話しなんだけれど、これ、もしかして、全員死んでるのでは?と思わずにはいられなかった。
両親、死んでる
ハリー、死んでる
アダム、死んでる、もしくは死にかけている、または、これから身投げして死んでしまう
のアダムの見た夢
だとすると、悲しいけれど美しい映画という事になると思う。
叶わないからロマンスが生まれるし、そのロマンスは強烈なものになる。
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