春日 太一著 文春文庫
仲代さん、本当に素敵な俳優さんです。何しろ出演されている映画の数、しかも様々な監督に呼ばれています。その事だけとっても凄いです。黒澤明、成瀬己喜男、岡本喜八、小林正樹、そうそうたるお名前です。
そんな仲代さんに時代劇評論家の春日太一さんがインタビューした本です。とにかく刺激的な本でした。
監督や共演者について様々に語ってくれています。特に個人的には岡本喜八作品についての記述が大変面白かったです。
当然黒澤作品についても言及されています。かなり若い時代の話しですが記憶力が凄いですね。良く考えると主役である三船敏郎の相手役を2度も演じているのが凄い。それも「用心棒」と「椿三十郎」ですよ!特に「椿三十郎」のラストシーンの凄さについての言及が面白かったです。
また後輩の山崎努への言及、もちろん名作「天国と地獄」の話しも面白かったです、そうか、そういう事もあったんだ、と。
残念だったのは「金環食」について、もう少し言及してもらいたかったです、金環食の官房長官役は、ちょっと仲代さんのキャリアの中でも(いや、全然見れてないんですが)異色だったんではないか?と。
そして「切腹」についての話しも素晴らしかったです。本当に見て良かった映画でした。
あと1つも見た事が無い五社英雄の映画も見なければ、と思いました。どうにもとっつきにくい感じがしていて手を出していなかったのですが、早めに見ようと思います。
確かに黄金時代を生きて、しかも今も現役!無名塾の演劇を見に行ってみたい気持ちになりました。
仲代さんの映画は今まで少しは観ていますが、中でも岡本喜八監督作品「殺人狂時代」が個人的には最高だと思ってます。もちろん「切腹」とか他にも素晴らしい作品多いですけど、好みとして、です。
日本映画に興味のある方にオススメ致します。
小林 正樹監督 松竹
今、仲代達也さんが個人的に気になっています。時代劇研究家の春日太一さんが仲代さんにインタビューした書籍も読んでいるのですが、その中に仲代さん自らが自分の出演作を1本を選ぶなら「切腹」です、とおっしゃっている部分を読んで興味が湧きました。
天下分け目の決戦、関ヶ原の戦いから30年後の江戸。赤備えとして武勇の誉れ名高い井伊家の武家屋敷に、一人の武士、津雲半四郎(仲代達也)が戸を叩きます。関ヶ原の戦いの後に主家が没落改易となり、浪人に身を落とし、生活もままならぬ貧窮極めた事から、このまま生き恥を晒すよりは潔く切腹したい、つきましては庭先を貸してはいただけぬか、と。この時代に浪人となった武士のゆすりの手段として横行していた行為ではありますが、井伊家でお目通りが叶い・・・というのが冒頭です。
オープニングの不穏感と重厚感はすさまじいものがあります!武家屋敷でみかける鎧をライトアップしているだけなのですが、不穏感しか感じません・・・タイトルもすさまじいですが、その題字の書にも重々しいものしか感じません。
津雲半四郎の声が最初は聞き取りにくいと思いましたが、聞きなれるとその低い声の迫力、痩せこけた頬とは裏腹に鋭く眼光が光る大きな目がぎょろりとしているだけで圧力があります。生半可の覚悟ではない、生死を賭けた覚悟を感じさせます、なにしろ切腹ですから・・・
津雲半四郎=仲代 達也に相対する井伊家の家老に、全然見ていて気が付かなかったけど、三國 連太郎、その部下にも丹波 哲郎という布陣です。ある若い侍に石濱 朗という方は知らなかったですが、凄く良かったです。
三国さんの演技の老獪さ、非常にクールに見え、いわゆる喰えない感じの人物像なんですが、ここからの変化が素晴らしいです。
丹波さんの非常に鍛錬を受けた剣の使い手だからこその、冷徹な感じがまたイイです。途中にはさまれるとある決闘シーンの、風景もすさまじいですが、すべての侍の決闘シーンの完成形がここにある!と感じてしまいました。それくらい、オーソドックス化されたイメージの原型で完成形だと感じました。
切腹、という概念まで考えさせられるこの重厚な脚本、素晴らしいです。様々な事を考えさせられます。私は単純に江戸時代が素晴らしかったなんて全然思えないのですが、それでも、とても考えさせられます。
苛烈な身分制度、切腹という行為に興味のある方に,、仲代達也さんに興味ある方に、オススメ致します。
アテンション・プリーズ
少しだけネタバレありの感想をまとめたくなりました。映画を未見の形はネタバレがありますのでご注意下さい。
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ある程度、本当に僅かですが、切腹について、武士道については理解しているつもりですが、西洋的価値観からはまず生まれない発想だと思っています。潔い最後、武士の矜持を保つために死に際にさえ様式美を持つ(もちろん、私の理解の範囲であって『本当のところ』は違うのかも知れませんが、行為を考えると、いわゆる罪や罰ではなく『恥』を嫌い立場を重んじる事なのでは?と理解しています)わけですし。
武士道の素晴らしい部分もあれば、現代の価値観では理解しえない、そぐわない側面もあるわけで、この辺が全面的な礼賛する事が出来ない部分でもあります。
というような事を観る前までは考えていたのですが、実際は本当にすさまじい映画でした。
厳しい身分階級制度については、社会科で習った知識しか無かった私が、吉村昭や司馬遼太郎の歴史小説を読むことで少し分かりかけてきたところに出会ったのが、みなもと太郎著「風雲児たち」という漫画でした。
正直、江戸時代の歴史を学ぶなら、この漫画を読めば、軸は出来上がるので、後は好きなものをインプットする事で肉付けも比較も出来る優れた歴史漫画です。しかもギャグで行っているわけで、その点も素晴らしいのです。
中でも「宝暦治水事件」の薩摩藩家老・平田靭負の事件を思い起こさせます。
非常に苛烈な身分制度を敷いて、いわゆる封建社会を築き上げた徳川幕府の徹底した管理の結果、何が行われたのか?という事を理解させられますし、正直現代にも通じる問題を扱っていると思います。
そして重要なのが、津雲半四郎の言い分も理解出来るが、家老の判断にも一定の理解すべき部分がある、という事です。津雲は、自らが天涯孤独になった事で、この行動が取れる部分が大きく、だからこその最期なのですが、家老の立場であれば、津雲を認める訳には絶対にできません。
死を持って償う、という重いテーマを扱いつつ、考えさせられる作品に仕上がっています、見て良かったですし、もっと仲代達也を見たくなりました。
岩切 一空監督 MOOSIC LAB2017
友人に教えてもらった音楽と映画の融合を目指した若手映像×音楽のコラボレーション作品を集めた映画祭で観ました。昨年に続いてみた首藤 凛監督作品も早稲田映画研究会の出身の方でしたが、この岩切監督も同じく早稲田映画研究会出身・・・早稲田スゴイです。
MOOSIC LABの中には短編や長編作品も含まれていますし、正直、個人的にはあまり好きになれない作品や、もう少し見られるという事に配慮があった方が良かったのではないか?と思える作品もありましたが(とてもストレートに、言葉で、説明されると割合醒めてしまいますし、そここそ、映像×音楽で魅せて欲しいと思いますが、あくまで個人の感想ですし、私は映画なんて撮れませんし)、首藤監督作品「なっちゃんはまだ新宿」とこの岩切監督「聖なるもの」はずば抜けて完成度が高いと感じました。
映画研究会に所属する岩切くん(岩切 一空)は3年間も映画が1本も撮れていませんし、先輩からは厳しい言葉を投げかけられるばかりです。そんな中、先輩に借りたハンディカムで日常を撮れ、と言われてひたすらカメラを回していきます。映画研究会の新入生歓迎会で4年に1回現れる幽霊の女の子と映画を作ると傑作になるという噂を聞いたのですが・・・というのが冒頭です。
いわゆるモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)な作りで、岩切監督が岩切さんを演じている事からも分かりますが、とてもメタ構造な作品になっています。ストーリィを追えばなんだか幽霊って?え?となってしまいやすいとは思いますが、この映画に出てくるモノ、映し出されるモノ、かかる音楽、関わるもの全てが「ああ、これ絶対岩切監督が好きな事しか出てこないんだな」と妙に納得させるチカラがあります。
主演の岩切さんの身体を張った演技、その自分の好きなモノをさらけ出す勇気とてらいの無さ、その自分のセンスを微塵も疑わない(もちろんその様に見えるだけで本当は違うのかも、とか思考がぐるぐる回りはじめますが)度胸の良さと、育ちの良さを感じました。ある種暴力的なのに、その暴力性に全然気が付いていない育ちの良さを、です。
Wヒロインシステム(いや、実はさらにここにもう1人絡んでくるんですが・・・監督さん、ホントに好きねぇ~)なんですが、長髪黒髪で幽霊役 南 を演じる南 美櫻さん、人形のような、ちょっと人じゃない感漂わすのが上手すぎる静かな美人さんです。またもう1人、後輩映画監督でもあり女優の小川さん役を演じる小川 沙良さん、激しく言葉を扱い、監督のエゴを引き受けつつも、その事をフラットに戻すかのようなアクティブな美人さん、2人もヒロインがいるなんて、スゴイです。そしてその対比を含めて、映画への強い想いが感じられます。
私は正直監督主演作と相性悪い部分があって、どうしても監督のエゴイズム、作家性が強すぎると、そのアクの強さが気になって映画に集中できなくなってしまう傾向があるのですが、ここまで昇華されると、その世界観に没入させられるフックの多さと緻密さにとても引き込まれました。岩切さん、才能があるって(もちろん努力されてるんでしょうけど)スゴイ!と単純にヤラレテてしまいました。
ちょっとあんまり見た事ない作品、とはいえ様々な影響下にある、元ネタ探す楽しさも十分に感じられる作品。もちろんその先を魅せてくれるわけで、ああ、この人アレやコレが好きなんだろうなぁ、と想像せずにはいられません。しかもこの作風でまだ20代ですよ・・・若くて才能ある、って本当に眩しいです。
音楽のボンジュール鈴木さん、全然知らなかったですが、とてもキャッチーでポップです。そして、だからこその毒さえも感じさせる歌い手、とてもこの作品に合っていると思います。岩切さんの毒も十二分に感じられましたし。
次回作が楽しみです。