井の頭歯科

「望郷」を読みました

2017年7月28日 (金) 09:45

湊 かなえ著        文春文庫

同業者の知り合いの方からオススメされたので読みました。ミステリーとして、どうでしょう?というお話しだったので早速読みました。ミステリはそれほど詳しいわけではありませんが、子供の頃から読書が好きになるきっかけのひとつではあると思います。そのころはみんな「ホームズ」とか「エルキュール・ポアロ」とかいわゆる名探偵が輝いて見えていました。何がどうなっているのか?分からない『謎』に明確な動機や証拠、そして容疑者を集めたうえで一つ一つ解決していくのが、カッコよく見えたのです。同じ本を読んで犯人に何処で気が付けたか?を考えたり、エラリー・クイーンだったら『読者への挑戦!』と煽られて犯人を推理したものです。まぁ全然当たらないんですが・・・でもとにかく面白かったのでいろいろ読みましたし、大人になってからでも時々は読んだりしますし、事によってはハードボイルド系もある種のミステリーだと思います、サスペンス溢れるミステリ風1人称事件簿、という感じでしょうか?

個人的な、あくまで今のところのベストですが、

「占星術殺人事件」 島田荘司著

「虚無への供物」 中井英夫著

「三重露出」  都筑道夫著

「十角館の殺人」  綾辻行人

「翼ある闇」   麻耶雄嵩

この辺が私の中では上がってきます。もちろん海外ミステリはまた別格でいろいろありますけど。

そんな中で今回読んだのは短編集でした。瀬戸内海にある白綱島を舞台にした6つの短編です。どの作品もフーダニットとかではなく、ミステリ色は弱めだと感じました。そしてとても女性的な因習にこだわりのある方なんだと理解しました。

とても女性的な視点から「いじめ」、「田舎と都会」、「因習」というモチーフを描いた短編集です。

トリックはあまり出てきませんし、1人称の物語の中に事件が起こるというか想起される、といった感じです。個人的にはもう少しひねりが欲しいとは思いましたが、女性からしたらとても共感出来る話かもしれません。あまり論理的だったり検証される場面が少ないので、あくまで『そうだったかも』という思い付きが、実は真実かも、というニュアンスで語られますので、モヤモヤした感じにはなります。スッキリと何もかもが解決するというカタストロフィは少ないかも知れませんが、その分読者が想像する範囲を残してくれているようにも感じられました。

6つの短編集の中では1番最初の「みかんの花」が良く出来ていると思います。

女性的なミステリが好きな方にオススメ致します。

「マクベス」を見ました

2017年7月21日 (金) 09:42

ジャスティン・カーゼル監督    スタジオカナル

恥ずかしながら、シェイクスピアの戯曲を読んだこともなく、演劇も観たことありません。ただ、バレエだったら見た事あります、非常に古典的なストーリィだと思ってます。なので、それほど気に留めてなかったのですが、シェイクスピアは何人かの合作なのでは?という『シェイクスピア別人説』というのを知った事で俄然興味が湧いてきました。たしかに膨大な数の本を書いていますし、専門性ある様々な分野を扱っているのに、手紙が一通も残ってなかったり、署名が4種類ほどあるのも不思議ですし、遺言に製本化されていない戯曲(死後に出版されている)についての記述が全くない点があって、そういう説があっても不思議じゃないと思いました。生年が1564年(?)で没年が1616年、わずか400年ほど前の人なのに不思議です。

でも、私はシェイクスピア4大悲劇のどれも見た事ないですし、見ている作品だと「プロスペローの本」ピーター・グリナウェイ監督作品なので、ちょっとどうかと思いますし、もう一つ見ているのが「タイタス」ジュリー・テイモア監督作品なのですが、こちらはなかなか斬新な映画でしたけど、かなり描写は惨いシーンが多めでした、そういう話しなんだとも思いますが・・・

そんなわけで、少し見てみようと思ってTSUTAYAに行ったのですが、なかなかDVDになっている作品が少ないんですね・・・その中で唯一借りられたのがマクベスだったのです。

恐らく自身の子どもの葬儀をしているマクベス(マイケル・ファスベンダー)。沈痛の極みな場面から、戦闘シーンになり・・・というのが冒頭です。

魔女、というか預言者というか、とにかく不確かな存在である4人の女の予言から、マクベスの心がかき乱されて・・・というストーリィです。何かしら、何処かしら、何かで観た、と思わせるんですが、当たり前ですがシェイクスピアの方が先なんですよね。

マクベス夫人役のマリオン・コティヤールが初めて合ってると思いました、この人腹黒い役をやらせたらいいのに!と「インセプション」や「ダークナイトライジング」の時から見るたびに思ってました。やっと個人的なマリオン・コティヤールの当たり役を見た気になりました。マクベス夫人の置かれている状況は良くわからないんですが、魔女に焚きつけられたマクベスをさらに焚きつけるのがマクベス夫人で、貪欲さに、自らの事しか考えない人間に見えて怖かったです。また退場の仕方がなんとも納得できなかったんで、この部分はもう少しどんな解釈があるのか知りたいと思いました。

しかし素晴らしかったのがマイケル・ファスベンダー演じるマクベスです!何と言いますか、憂鬱な頭痛持ちの、その癇癪が何時起こるのか?という緊張感、その心の弱さや猜疑心の強さ、信念があった頃と全然輝き方が違う瞳、本当に素晴らしかったです。一種の狂気をちゃんと感じられます。

バンクォーとかマクダフとか脇のキャラクターのエッジも効いていますし、何処までも、何も信じられなくなった男の悲劇として良かったです。

そして映像がまた素晴らしかったです。

白と黒のコントラスト、赤と黒のは本当に素晴らしかったですし、遠景で見れるスコットランドの沼地の風景がまた素晴らしかったです。

なるほど、シェイクスピア面白いですね。演劇は舞台をどのように見せる事も可能な世界、映画とはまた違った芸術なんだと思いますが、戯曲としても読んでみたくなりました。

マイケル・ファスベンダーが好きな方に、オススメ致します。

「藁の楯」を見ました

2017年7月7日 (金) 09:41

三池崇史監督    ワーナーブラザーズ

「ハクソー・リッジ」を最近見たのですが、その事から先輩にオススメしてもらったのがこの「藁の楯」です。まだハクソー・リッジとの繋がりが不明なんですが、なかなか面白い思考実験のような映画でした。どういうモチベーションで、いや、もしかしたら複雑な意図があるのかも知れませんが、まだその辺が分からず・・・でもなかなか凄い映画でした。まだ私にはしっくりと来てないので、その先輩といろいろ話してみたいです。

三池崇史監督、よく考えたら初めて見る事になりました。

幼女殺害で服役、仮釈放中にさらなる幼女殺害事件を起こした清丸(藤原竜也)。殺害された子どもの祖父である蜷川(山崎努)は経団連の会長などを歴任された大富豪であった事から、清丸殺害に10億円という懸賞金を賭け、さらに広く周知させるために新聞や広告やネットにまで大々的に宣伝させます、普通は法に触れる行為なのですが、ルールを破った人間に報酬という形でお金を渡して辞職させるという方法で、です。清丸は博多で警察に出頭しますが、その清丸を博多から警視庁に護送するために、spの銘苅(大沢たかお)、同じくspの白岩(松嶋菜々子)、捜査一課から奥村(岸谷五朗)、神箸(永山絢斗)がその任務に就くのですが・・・というのが冒頭です。

役者さんの気に入ったのは永山さんです!チンピラ感が、割合瞬間的に熱くなるのに、仕事は冷静、おまけに腕が経ち、詫びる事が出来るというキャラクターを見事に演じていると感じました。

見終わった直後に考えたのは「理不尽を飲み込む事」と「法治国家で生活する事」の2つでした。正直、ご都合主義的な展開も否めませんし、感情と理性の戦いを見せたいのであろうと思いましたが、それをアクション映画で魅せるのはなかなか難しいのではないか?と感じてしまいました。でも、思考実験として、非常に面白いと思います。

私は報酬に負けて、社会の法を破って、ある一般人の(確かにヒドイ男ですが、それを裁くのが司法だと思うのです)命の危険をいたずらに増加させた新聞やネットの規制を破って辞職した人々の罪が結構重いのではないか?と思います。ここが最初のポイントなんですが、割合あっさりとした描写でした。まぁ設定という事なんだとは思いますが。

思考実験が好きな方にオススメ致します。

アテンション・プリーズ!

今回はネタバレ有の感想です。いろいろとツッコミどころがあるのですが、それは映画をこうしたい!という強い意志の結果ではないか?とも思わされました。

既にこの映画を見た方に読んでいただけたらと思います。未見の方はネタバレがある事をご了承下さい。

とんでもなく救いどころの無い人間=清丸を法的に守る側に立つ主人公とその仲間は、様々なゆさぶりをかけられます。5人の仲間の中にも裏切り者がいるのではないか?という猜疑心も掻き立てられます。さらに守るに値しないのではないか?という人から危害を加えられた事がある、というような身に覚えがある人間が、それこそ救いどころがないような人間を守る理由があるのか?を何度も何度も問いかけてきます。

感情的にはなるほど、自ら手を下したくなる人が居てもオカシクナイようなふるまいを続ける清丸に同情的な人は皆無に近いと思います。

が、ここは理不尽な出来事が起こりうる現実社会で、日本国という法治国家である事を考えると、おのずと結論が出てくるような気がします。

主人公の行動は、理性的に映りますし、なによりある嘘を自身に信じ込ませる事で生活を成り立たせている事からも分かりますが、感情を抑える論理があります。

感情の発露、スッキリする事を目的としているとなかなか窮屈な世界ではありますが、それも現実だと思うのです。

国家権力の下にある警察組織の一員であれば、職務を全うする事は仕方ない事ですし、法治国家であるのですから、裁判を経ない暴行は処罰の対象になります。

複雑に感じたのは清丸が服役する事になった発端の事件の被害者の父親(まぁ非常にご都合主義的に出会うんですけれどね・・・)を見て、白岩が言う「この人こそ清丸に危害を加えるに値する」という趣旨の発言をすることです。確かにその通りなんですが、これは報復権という問題を孕んでいると思います。法治国家であるならば、個人の復讐という感情発露よりも、法の基による平等な統治の方が重要であると理解されています。法の下の平等を得るためにはある種の理不尽を、出口のない厄介な感情を抱えなければならなくなります。

被害者が報復する自由は国家に奪われている、と考える事も出来ますね。

とは言え、もし、このような私刑を認める事は、かなり危険な事です。裁判という中立性を認めないことになりますし、誤認をどちらがどのように証明するのか?など問題が大きすぎますよね。ある種の自由を捨てても、さらなる自由が脅かされるよりは、私は今の法治国家を維持したいを思います。

個人的には、理不尽な事がたくさん起こる現実世界では仕方のないことだとも思います、その時、その当事者になってみなければ本当にどういう感情が湧いてくるか分かりませんけれど。

私が少し冷めてしまったのは、割合唸る人が多かった点ですね、演出として大きい感じがしました。漫画的とも言えるような気がしますけど。でも、思考実験として、加害者がいて、被害者が近くにいて、また懸賞金をかけた場合、およそすべての人間から危害を加えられる可能性がある時、どのような行動を起こすのか?を見せたかったんだと感じました。そういう意味では仕方ないのかも。

さて、タクシー運転手は何故消えてしまったんでしょうか?また検問が杜撰過ぎるのもちょっと・・・

あと、敏腕的な扱いを受けていますけど、白岩さんはちょっと油断し過ぎだと思います、流石に2回も逃げられるのは腰ひもまでつけているのに・・・

また、白岩が撃たれる理由が良く分からなかったです、実母の報道の差し込み方は上手いとは思うんですが、それによって泣き崩れるっていうのがまた清丸の分からない部分ですね。銘苅も車を止める必要なんてなかったと思いますけどね・・・

10億円というのがリアルな数字だも思いますけど、その辺が最も上手いと感じた部分です。

最期、割合簡単に山崎努が懸賞金を取り下げてしまったのが、少々納得出来ませんでした。それにしても、藤原竜也さん、最近の映画でも確か犯罪者役を演じていたと思うのですが、こんな顔の整っている人のに、それなりの説得力があるのが凄いです。

なんだか「新幹線大爆破」が見たくなってきました。

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