2025年6月27日 (金) 09:06
ヴェルナー・ヘルツォーク監督 Amazonprime
2025年公開映画/2025年に観た映画 目標52/120 17/55
インカ帝国がスペインに占領された後にエルドラド伝説が生まれた・・・という字幕が流れ・・・というのが冒頭です。
1560年12月25日にアンデス山脈の尾根を歩いているエルドラドの探索隊は実際に居た事実だそうで、主人公のアギーレも実際の人物の様です、あくまでwiki情報ですけれど。
ええっと、まず何気なくAmazonprimeに最近追加されて観れるようになった作品として挙がってて、全然知らないタイトルですし、監督だったので、観て見たわけですが、これはある種、ウィリアム・フリードキンの「恐怖の報酬」くらい狂っている(褒めています)映画でした・・・1972年の映画ですけれど、しかもドイツ語で発話されているのが、凄く気になるんですけれど、とにかく撮影が頭がオカシイ(凄く褒めています)事に挑戦し続けていますし、このロケーションをどうやって見つけてきたのか?恐ろしいほどの苦労があった事でしょう・・・そして、製作者側の苦労、出演者側の苦労、並大抵のことではないと思います。もしかすると何人か亡くなられてないか?不安になります。
冒頭のシーンも恐ろしいのですが、スペインの兵士、インディオ奴隷、貴族、神父、高貴な女性、飼育されている動物、馬、ラバ、装飾品もそうですけれど美術関連を施して、高地の山脈の尾根を、実際に長蛇の列で歩いているのです・・・ちょっとびっくりするほどのお金と労力がかかっていると思います。
恐怖の報酬フリードキン版もそうでしたが、マジック・リアリズムの傑作だと思いますけれど、本作も、相当なマジック・リアリズムの傑作、恐怖の報酬に負けず劣らずな作品。
これがドイツの映画監督に撮られているとは・・・
地獄の黙示録もそうですけれど、監督の持つ目指した方向以上のモノが出来上がった作品に触れる興奮は確実に感じます。稀な体験です。
特に撮影、美術、その過程も含めての過酷であろう撮影を想像すると、ちょっと驚きです。あと、音楽が素晴らしい。要所でしかかからない劇伴が凄い完成度で、これがよりマジック・リアリズムの面を補強していると思います。全然知らなかったけど、ポポル・ヴ―名前を覚えておこう。ちょうど同時期のドイツのバンドCANを知ったのもここ数日なんだけど、変なシンクロニシティだけど、覚えやすくなった。
あ、確かにクラウス・キンスキーの凄さもあるけど、まぁこの映画では映画そのものが凄すぎる。
マジック・リアリズムが好きな方、恐怖の報酬フリードキン版が好きな方にオススメします。
2025年6月25日 (水) 09:41
カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳 早川書房
いろいろ読んではいますが、読めなかった作品もある方。「充たされざる者」は途中で挫折しました・・・あと「わたしたちが孤児だったころ」はスルーしてしまっていましたが、久しぶりに読みたくなり手に取りました。
AFという子供むけロボット(?)であるクララは最新鋭機では無いものの高い洞察力を備えています。そのAFであるクララの一人称で語られる、病弱なジョジ―との物語です。
流石、カズオイシグロ作品。ある種徐々に分かる様になっているので「私を離さないで」「日の名残り」に近い構造にはなっていますが、ついに人物ではない語り手になって、さらに想像する余地を広げる感覚があって、なるほど、と感じました。
様々なテーマを織り込んでいますし、凄く多層で多様な作品。ざっと感じたままに挙げると、共感、機械と命の境目、分断、遺伝子コントロールの制限、過去との関わり、エゴ、宗教、信仰、崇拝、倫理、本当に様々です。
恐らく、近未来の世界を描いていますけれど、もしかすると、この世界では無い世界を描いている可能性すらあると思います。
そしてあまり踏み込んで説明されない部分に、より読者が考える、能動的に取りに行く仕掛けが素晴らしいと思います。誰にでも分かる様に、も理解はしますけれど、ホモサピエンスなので、自分の解釈があって然るべきだと思うのです。そういう意味でホモサピエンスに、テレビのインパクトは大きかったけれど、罪の部分も大きいなぁ、と思います。とても分かりやすさを目指してしまったのは、結構罪深い。説明される事に慣れ過ぎてしまった。
クララの行きついた場所。その悲しみを考えてしまいます。
宗教についても、かなり深く考えさせられる書籍。アニミズムの発祥についても考えさせられますし、なんというか、結果が全く違った場合であっても、恐らく、周囲を含むクララの行動は変わらなかったのではないか?とも思うのです。
ここからは、少しだけネタバレに繋がる感想も。出来れば未読の方は控えていただきたいですが。
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凄く、今を予言していたとも言えますね・・・2017年の作品ですけれど、強い分断を、というか分断の仕組みがどのように成り立って行くのか?を描いた作品でもあります。
ホモサピエンスに、しかも人的に、後天的に、能力を付与する事で、得られたのは向上もあるけれど、より強い選民意識が生じ、それが分断を呼ぶわけです。人的にも力を付与する事で、確実に選民意識が生まれる、しかもそこに貧富の差の中で、能力の付与に一定のラインが生まれている。これは既に、貧富の差があるだけでも、学習に差が生まれている今の社会と何ら変わらないわけです。
そんな中でホモサピエンスではない、つまり人権すら与えられていないロボットの立場も、ロボットというだけで差別されたりしていますけれど、これ移民だったりの暗喩にも取れますし、何なら最も命令に忠実で親切心があるのは、この登場人物たちの中ではAFだったりします。母親もジョジ―も出てくる登場人物の人間は、とてもワガママで自己中心的です。
ロボットではあるものの、個性がある。そこに意識がある。プログラミングされているとはいえ、動き出した、経験を積む時間的経過が存在するこの意識を、私は生命としかとらえられなかったです。
そのAFの信仰、そして祈り。私はこの祈りなり崇拝と自己犠牲を厭わない行為が、まさに利他というホモサピエンスの行動に見えました。だから、奇跡が生じたこの物語の道筋は美しく見えるし、その結果のクララの行き着いた先の落差に悲しみます。
本当は奇跡が起こらなくとも、祈りと自己犠牲の行為の尊さに遜色はないと思うのです。
とは言え、祈る姿勢そのものは理解出来るのですが、本当の所、祈るのは最後で、その前に、出来る事をすべてやり切ったかどうか?が重要だとも思うのです。感情としては祈りに理解はあるけれど、祈る事だけで成就する事はあまり無い事も理解出来るからです。
それでも、内発的に、どうしようもなく、祈る事はあるけれど。
クララの幸せがジョジ―の成長であったのならば、クララは幸せだと思う。しかし、その境遇はあまりにも厳しく、何を命と考えるか?で私は複製や代謝や進化や次世代に繋げられるという定義よりも、利他の動きが取れるモノを生命と感じてしまう事を理解出来た気がします。
2025年6月24日 (火) 09:13
ミロシュ・フォアマン監督 コロンビアピクチャーズ Netflix
2025年公開映画/2025年に観た映画 目標52/120 17/54
何気なく、久しぶりにNetflixを開けたのですが、最近のNetflixはドラマ形態を優先している感じで、それは構わないけれど。新着に入ってて見た事が無い作品だったので。あと、監督がミロシュ・フォアマンだったから間違いないと思って。
ケンタッキー州でまだ10歳にも満たない子供2人が、密造酒を売る仕事をしているのですが・・・というのが冒頭です。
原題「The People vs. Larry Flynt」で、これは実在の人物ラリー・フリントの伝記映画と言って良いと思います。そう、名作映画「アマデウス」と一緒ですね。
で、ラリー・フリントがどういった人物なのか?不勉強ながら全く知らなかったです。でも仕方ないかも。何故なら、まさにアメリカ人って感じの人物ですし、そして、映画「アマデウス」のウォルフガング・アマデウス・モーツアルトのような、失礼極まりない人物です。
最初は密造酒製作販売、その次は性風俗産業、そしてポルノ誌「ハスラー」の発刊人です。眉を顰める方も多い職業ですし、ラリー・フリントも、だからどうした、という態度です。とても挑発的ですし、煽情的で、いわゆるトラブルメーカーです。
ですが、劇中にジョージ・オーウェルの言葉を引用しているのも非常にくすぐられますし、私はこの考え方が好きです。
何が猥褻か?を国家が決めるのは構わないが、その判断に抵抗するのも権利の一つですよね?お上が決めたら無批判に追従する事の恐ろしさは、独裁国家を見れば一目瞭然だと思いますが、まぁうちの国ではこういう人はあまり出てこないと思います。そういう意味で凄くアメリカ的だけど、なんかもう少ししたらアメリカでは見られなくなる映画の一つじゃないか?とも思います。
ウディ・ハレルソン、めちゃくちゃ合ってますね。巨漢の説得力を感じましたし、少し普通と違う、強権的なのに愛嬌ある一面もあって良かったですし、妻になるアリシアをコートニー・ラブが演じているのですが、私この人役者をやってるの初めて観ましたが、めっちゃそういう人に見えました。
それと若き日のエドワード・ノートンがカッコイイ。そしてこの映画、伝記映画でもあるけれど法廷モノでもあるのですが、本当に法廷シーンが面白いです。
流石ミロシュ・フォアマン!
でも、ホントに近いうちに、上映禁止とかにされそうな映画ですねぇ・・・アメリカさんだと。
権利について興味がある方にオススメします。
2025年6月20日 (金) 09:04
ロバート・ハーメル監督 コズミックピクチャーズ Amazonprime
2025年公開映画/2025年に観た映画 目標52/120 17/53
あまり懐古厨にはなりたくないものですが、何と言っても甘美な美しさはありますね。
1952年の映画。SNSでどなたかがオススメしていたので観たのですが、素晴らしかったです。
駅の雑踏の中を歩く男を追跡する男。追跡していた男は電話で、ラウザーに報告をします。「デイビッドソンがケイトに向かいます」と。そして・・・というのが冒頭です。
いわゆるノワール映画と言って良いと思います。そして犯罪モノでもあるし、復讐モノでもあります。
非常に荒んだ状況に置かれている男の心情の移ろいが見事に描かれていて、ちょっとヒッチコックを思い出しました。でもヒッチコックの方が先に映画撮影しているので、影響されているのはこちらの作品かも。
観客は状況を神の視点で観ていくので、とてもスリリング。そしてシンプルながらも考え抜かれた脚本の良さがあります。時代が時代だけに、新聞記者、警察、浮浪者など、かなりの社会の形が今とは違うのですが、ホモサピエンスの利他性、これがはっきり善き事として描かれているのも特徴ですし、だからこその温かみを感じさせることに成功しています。
そして見事な円環構造。
タイトルのどろ沼、ですけれど、確かに遠い記憶みたいな直訳ではなく、暗喩として、現実とのどろ沼、舞台となる湿地、船を居住にしているどろ地の感覚は上手いと思います。
主演の4名も素晴らしかったですし、特に結構な立場に置かれる男の、うすうす感づいていた、という人、非常に上手いと思いました。この人を主人公にしても面白くなる気がします。葛藤という意味と仕事の使命感という意味で、凄く苦しい。
ぜんぜん知らなかった監督ですし、全然名前も聞いた事無かった作品、それでもここまで面白く完成度高く、役者もテンポも良くて、描写も演出もイイ。やはり古い映画の中にも、古典として生き残っている作品はありますし、そういう作品を知れるのは嬉しいですね。
モノクロムービーに抵抗が無く、90分でここまでの完成度、という作品を見て見たい方にオススメします。
2025年6月17日 (火) 08:51
アンドレア・コーフォード監督 ソニーピクチャーズ Youtube
2025年公開映画/2025年に観た映画 目標52/120 17/52
山田五郎さんのオトナの教養講座でお話しされていた映画がYoutubeで無料公開されていたので観ました。
レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画かもしれないという発見を巡るいきさつを描いた作品です。
で、まぁアートの話しかと思いきや、政治と、金の話しでした。
まず、2005年に2名の美術関係者がもしかすると、というこの「世界の救世主(サルバトール・ムンディ)」を1175ドルで落札。非常に損傷が激しく、修復士のダイアン・モデスティーニに依頼して修復を行うのですが、とにかく重ね塗りやそもそもの画材の木の問題が大きく、これまた観る人によると思いますが、修復なのか、もはや修繕なのか、あるいは書き足した、もっと創造した、という様々なレベルで取り上げられる「修復」をして、真贋の鑑定をしようとします。
ここに当時のイギリスのナショナルギャラリー・キュレーターのルーク・サイソンが修繕室という中立の場で専門家を3名ほど呼んで絵画を観る企画をします。
ところが、このキュレーターは美術館のキュレーターで、集められた3名の専門家に対して、真贋については何も聞いていないのです・・・なんとなく、その場の雰囲気で、判断した、と言ってしまっています・・・これが大問題になるとは思うのですが、全然別の大問題になって行きます・・・ま、この人の目の泳ぎ方は凄いです、一見の価値あり。
だってこのキュレーターはその後にレオナルドの回顧展を行おうとして、しかもその目玉として、この作品を展示しようとしているのです・・・まぁ普通に既にそうであって欲しい、というバイアスありますよね。
このように、この後もいろいろな事が起こるのですが、真贋の事に対しては、正直誰にも分らないし、絶対的な証拠を科学的に見つけられるか?は不明です。来歴という、誰が所持してきたか?もかなり不明な状態で、確かに本物かも知れませんが、偽物の可能性もある。
で、正確に分からなくとも、その価値を高めたり、個人の恣意的な都合で、その価値を変えようとする、ホモサピエンスの思惑で、どんどん状況が変化していきます・・・
鑑定をある程度時間をかけて行おう、という人が所有者に、全然出てこないんですよね・・・あくまでお金がある、つまり、多少絵が怪しくとも、こちらの政治的な圧力をかけて、国家的な美術館に、真作として扱うように命じられる、と思った人が購入者として手を挙げる・・・なんならオークション側も、煽れるだけ、煽る。
すっごくホモサピエンス的(負の)ふるまいに満ちた映画でした・・・もはやここまで来てしまうと(最初1175ドルが、結局4億ドル越え・・・)投機とか、金額も個人で扱うには無理です・・・ま、それを出せる人が、国内でどのような振る舞いをしていて、その国でどのような立場にいるのか?を知れただけでも、良かったです。だって皇太子ってことは・・・
凄くいろいろ考えさせられる絵画に纏わるドキュメンタリーでした。
アートが好きな方、もしくはお金に興味のある方、そしてホモサピエンスの行動に興味のある方にオススメします。