井の頭歯科

「『世間とは何か』」を読みました

2020年2月15日 (土) 08:54
阿部 謹也 著   講談社現代新書
やはり師匠のオススメだったのと、山本七平著「空気の研究」、河合隼雄著「母性社会日本の病理」と繋がる話しだったので興味があり、手に取りました。
世間という事象に対して研究されている人が居る事も知らなかったのですが、この本は1995年に発行されていまして、割合最近じゃないか!と驚いた次第です。ま、今から25年も前なんですけれど、山本七平著「空気の研究」は1977年、河合隼雄著「母性社会日本の病理」が1976年と比べると、本当に最近という感じがします。
世界、社会という単語と、世間の違いを感じる事は今までもありましたが、この本ほど詳しく考えた事はありませんでしたし、実際には私も世間の中に生きているわけです。つまり世間の掟が個人に優先している、と感じる事は多々あります。自分に責任や非が無かったとしても、世間を騒がせた事をお詫びしたい、というセリフを何度聞いているか?と思うと、2020年の現在でさえ、繰り返されています。それをオカシイと思うと同時に、世間の掟によって守られてもいるわけです、暗黙の了解の上に。
カントの「啓蒙とは何か」を例に挙げて論じている、この非言語系の知について、著者の阿部さんの論旨は大変わかりやすく、そして腑に落ちます。そう、我々は、個人の責任を負っているのではなく、我々が所属する世間の責任を負っているにすぎず、世間に生かされている、とさえ言えるという結論は、かなりショッキングでもあります。
その後、日本における世間の成り立ちを見ていく過程で、大変面白かったのは、世間から離れようとする人物は隠者になるしか道が無く、そういう意味でこの本で扱っている、吉田兼好という人物には、大変興味が湧きました。古文を全く得意としなかったので、特に日本の古典文学については何も知らないに等しい私としては、大変驚きました。かなり好きになれそうな人物です。
また、鎌倉時代辺りの裁判というか審判における神判、いわゆる刑事事件の被疑者が身の潔白を証明するのに起請文を書いて奉納し、その後一定期間の間に、鼻血を出したり、鼠に衣服をかじられたり、病気になったり、食事をむせたりしなければ、嫌疑を払拭できなかったという事実も、大変に驚きました。なおかつ、盟神探湯(くかたち)と呼ばれる、神に誓って熱湯のなかにある小石を拾う者の手は火傷しない、邪悪な者の手は火傷する、という判断にもびっくりします。しかし、世間の掟として、この行為が行われていた、とすると、大変に恐ろしい事だと思います。
また、夏目漱石の個人主義、永井荷風の気質としての厭世、そして、その間を生きたような金子光晴の個人主義には、まさに共感としか言いようのない感覚があります。特に永井荷風は、大変偏屈で、しかもお金があったからこそ出来た非常識人としての矜持やふるまいに、憧憬さえ感じます。断腸亭日乗を読んだ時も思いましたが、個人としての、その生き方には尊敬すら感じます。
個人という主体が存在するのか?という事を、考えた事がある日本人の方に、オススメ致します。

「母性社会日本の病理」を読みました

2020年1月24日 (金) 09:41
河合隼雄著    講談社+α文庫
師匠のオススメ本だったので。ちょっとした会話の中で、前々から思っている、ナンシー関が言う所の日本は何処を切ってもヤンキーとファンシーという名言がありますが、私に言わせると、日本男性はだいたいにおいてマザーコンプレックスとロリータコンプレックスしかいないと思っています。で、マザーコンプレックスというのは、基本的になるものではなく、作られていると思っているわけです。ロリータコンプレックスも犯罪ですけれど(ペドフィリア含む)、だいたいにおいて『若い』事に価値を置いているのはロリータコンプレックスでもあると思います。もちろん、若さ、というかけがえのない時間に美が宿る事もある訳ですが。なにしろ古代ギリシャくらいからずっと、男女ともに若くて美しいものに対して、文章やら彫刻やらで賛美してきた歴史もありますし。それこそ文化として刷り込まれているとも言えます。が、その度合いが、海外と比べても、強いように感じている、という事です。儒教的な考え方も、その考えを後押ししているとも思います。
そんな話の中で出てきた師匠のオススメですし、河合隼男さんをちゃんと読んだ事が無かったので手に取りました。
基本情報としては、ユング派の臨床心理学者、箱庭療法を行った人、くらいしか知りませんでした。
まず、母性社会である事の理由は宗教的な事と思って良いと思います。古事記から続く神話民話昔話含む伝承的な話しから、日本がいかに母性社会であるかを説き、第二次大戦以降にプロテスタント的、アメリカ文化の波を受けた事から、母性社会を基盤とした上での権利施行者としての家父長制である、という考え方です。これは非常に膝を打つ、納得できる考えだと感じました。
さらに卓見だったのが、場の倫理という考えです。
河合さんの言及されていますけれど、これはイザヤ・ベンダサンというか山本七平著「空気の研究」の事だと思います。まさに山本七平の言う水を差す議論です。その後には文芸評論家の斎藤美奈子さんの「それってどうなの主義」くらいしか私は知りませんけれど、もう少し研究が進んでいい考え方だと思いますけれど。あ、あとはたしか劇作家の鴻上尚史さんも「空気と世間」を書いていましたね。
母性社会では、個の倫理という考え方は無く、あくまで場の倫理において、日本社会は回っている。その為に、どんな立場の人も、被害者であり、責任を負わない、いや、負えない、とおっしゃっています。まさにその通りだと思いますね。
もちろんその利点もあり、またアメリカではプロテスタント的父性社会であるからこその母性との調和の難しさにも言及されていて、平衡感覚が素晴らしいと思いました。
最近読んだ酒井順子さんの本では、臆面もなく、我が子(男児)をマザコンに育て上げて、且つそれを周囲にも隠さない、という事態が起こっていると書いてありましたけれど(例として挙げられているのが、大学【!】ラグビーの卒業記念に、息子であるラグビー選手にお姫様抱っこをしてもらう事を、喜んでいる、という私からすると驚愕の事態・・・)、この本が書かれたのが1976年ですから、なんという先見の明、と感じると同時に、あまりにあまりな隔世の感ですね・・・
日本社会における父性と母性について考えてみたい方、山本七平著「空気の研究」を読まれた方にオススメ致します。

あけましておめでとうございます

2020年1月7日 (火) 08:55

今年もよろしくお願い致します。

最近、ピアニストの中村紘子さんの本を手に取りました。

なかなか読みやすく、その上知らなかった事を知る楽しみがあります。

私が読んだのは「コンクールでお会いしましょう」と「ピアニストという蛮族がいる」です。

特に「コンクールでお会いしましょう」は映画「蜜蜂と遠雷」(の感想は こちら )の原作なのでは?と思うくらい近しい感じで面白かったです。

ピアノも弾けて、文才があるってスゴイですね。

コンクールについて、あくまで順位を決めるものではあるけれど、それでも、な部分についての言及が素晴らしかったです。私も順位はあまり関係ないんじゃないかな?個々人がどう感じるかなのでは?と思っていたので、その辺の機微を言葉にされていて良かったです。

今年もよろしくお願い致します。

「お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門」を読みました

2019年7月26日 (金) 09:36

北村 紗衣著     書肆侃侃房

ラジオで知った北村紗衣さん、その独特の喋り方、そして圧倒的な知識量!さらに特異な雰囲気も相まって、大変気になっていました。そんなところに新刊のお知らせがあったので、手に取りました。フェミニストについては全然詳しくなかったんですけれど、これは何か新しい概念を知る事でまた違った見方が出来るようになるヤツだ、と感じております。物事を見る視座の私にとっての新たな視点です。死角は無くならないけれど、それでも多様な見方が出来るようになる楽しみのひとつになると思います、もちろん全くの反対側にもそういう見方の視座があるはずですし、その事も含めて、視座が増えるのは楽しい事です。

批評、について何かで学んだ事はありませんが、私の知識の中だと間違いなく最初に浮かんでくるのは、筒井 康隆著『文学部唯野教授』です。こんなに面白い批評本を読んだ事は無かったですし、批評には数限りなく様々なやり方、スタイル、があろうかと思いますが『知る』というそれだけでも十分面白い事ですし、これに、自分の知って来た様々な事柄があり、そこに新たな何かが繋がる瞬間に、驚くほどの喜びがあったりします。私の場合は、ですけれど。例えば、歴史モノが好きだった人が幕末吉田松陰を調べていて、その少し前の時代も知りたくなって、実は松陰という̪諡は、寛政の三奇人の一人、高山彦九郎の諡である事を、後から知った時の喜びと言えば分かり易く繋がるかも、です。そういった面白さを、さらに批評は教えてくれると思います。

今回扱っている書籍、映画、演劇、の中では私が全然通っていないトピックばかりで、僅かに知っているのはデビッド・フィンチャー監督作品「ファイト・クラブ」、カズオ・イシグロ著「私を離さないで」、ジェーン・オースティン著「高慢と偏見」の3つだけでした。ですので、テクストを味わっていないで批評を聞いているわけで、これはちょっと難しいかも、とも思ったのですが、かなり興味を惹かれる解釈の話しでとても面白かったです。

恥ずかしいのであまりカミングアウトしたくないけれど(と言いつつまぁ言いますけど)、私はヴァージニア・ウルフを読んだ事がありません、そしてエミリー・ブロンテ「嵐が丘」も読んだ事がありません・・・かなり有名作品なので恥ずかしいですが、その辺の知識が全くないのに、北村先生はそういう読者にもある程度配慮しつつ、面白い、ここがヘンだ、という部分を、何故面白いのか?何故ヘンなのか?を教えてくれるのです。

そして、かなり身につまされるのが男性性の話し。しかも北村先生はネット社会やネット用語にも詳しくて、いわゆるひがんでいる男(ネットスラング的には「キモくて金の無いオッサン」の事)をキチンと定義するところから始まります(異性愛者で仕事も私生活もうまくいかず、金銭的に問題を抱えた中年以上の男性、という見事な定義・・・身につまされます・・・)。しかしこの手の人は文学上非常に主人公になりやすいタイプとも言えると私は思います。だいたいにおいて、ハードボイルドの世界は(という事は裏返しのハーレクインロマンスの世界でもきっと)この手の人が主人公ですし。そういう点を指摘してくれて、それも面白おかしくなのが、とても面白いです。中でも「プリンセスは男のロマン!」は目から鱗の批評です、私もすっごくそう思ってました。例えば「ローマの休日」(観た事無いのですが、なんとなく知ってる)の結ばれぬ関係を我慢した(飲み込んだ、受け入れた、しかし希望は残っている と勘違いする余地がある でも感情移入するなら気にならない)オレに陶酔、という事だと思います。これはもちろん女性にもあると思いますけど。でも本当に注意が必要な案件だと思います、他者の目線が入るだけで結構違いますし。

そしてやはりこの本の中でも肝はシェイクスピアだと思います。北村先生はシェイクスピア観劇された人の研究者ですし、今個人的に最も気になる漫画の中のひとつが「7人のシェイクスピア」なので、より面白いと思いました。私はまだシェイクスピアをそれほど読んだ事が無く、しかし、かなり面白そう、と感じています、つまり、古典を楽しむ事が出来るように、やっとなった、という事なんだろうと思います。書籍でも、古典的作品を手に取る事には結構な決断が必要です。映画でも、やっと、その手のオールドムービーの良さが理解出来るようになってきました。で、戯曲でも、少しは理解出来るようになったかな?と思える、かも知れない、と言う程度には、関心あります。

それと、北村先生もおっしゃっているので便乗してしまいますけど、私もあんまりディズニーが好きじゃなくて・・・映画もなんですけれど、なんか、あまり、乗れないんですね。だからあまり作品を観てなくて。もちろんイイ作品もたくさんあると思いますけど。

でも、どうしえも乗れない批評もあって・・・性格批評については、キャラクターへの自己投影、同一化の話しに繋がってしまい、ここはあまり共感出来なかったです。なんとなく、場の形成を意識するあまりに、批判的な言動を避ける形に繋がり易い感じがします。

また、「華麗なるギャツビー」の、バス・ラーマン監督作品は観てないんですけど、ジャック・クレイトン監督作品と、原作既読ですけれど、デイジーは、この物語の中では『華やかで愛くるしく、でも何も考えない流されやすい女』でしかない、と思ってて、ギャツビーからすれば、ミューズなんだろうけど、ニックから見たら、その価値が無い、という所が肝なわけで、そのノスタルジーを含んだまさに叶わぬ夢だからこそのロマンティシズムなんだと思っているので、ここも譲れなかったなぁ。美人でないヒロインに一般女性が共感できる、という話しは、まさに自己陶酔的なナルシズムに直結してて、だからこそ男性にとってのハードボイルド的なものと同じ構造な気がしますけど、これはもう少し考えてみたいテーマですね。

でも、『私を離さないで』批評は、全く気が付かなかった点を鋭く分析されていて、素晴らしかったです。確かに言われて見ると、そうかも!って思います。この視点はまず無かったし自分では考え付きもしなかったです。

新たな視点を、自分の死角(絶対になくならないけど、でも減らしたい)を見てみたい人に、特に男性に、オススメ致します。

「ひらいて」を読みました

2019年7月9日 (火) 08:47

綿矢 りさ著       新潮文庫

映画「勝手にふるえてろ」の原作者、しかもかなり売れている作家さん、という事で手に取りました。基本的には気になった作家さんは処女作を読んで、その後追いかけるのか?を決めるのですが、たまたまその作品が無く、手に取り易かったので。

女子高生の愛はスクールカーストで言えば上の下、もしくは中の上、辺りのごく普通な生徒なのですが、クラスメイトのさえない男子生徒、地味で見た目もそれほどでもなく、しかも友人が少ない、その人が気になって仕方がありません。しかし、その男子生徒は・・・というのが冒頭です。

正直、文体は普通で、とても読みやすいです。主人公・愛のモノローグで進む青春(?)小説です、未だに青春小説というジャンルがあるのであるならば。ですけど。そしてもちろん、これは現代風に仕上がっていると思います、もう若者の感覚が分からない歳になったので、あくまで想像ですけれど。

で、この主人公の愛さんが、特殊。いや、こういう男子なら昔からいましたけど、女子で、というのが特殊。だけれど、こういう特殊さって昔もきっと思うだけなら、いたと思う。そして、その当時だと、そういう女子がいるかも、という部分が思考の枠内、想像の範囲内に無いのが男子の特徴とも言えると思います。それだけ多様性に開かれた社会になったのだとも言える。

が、私はこの愛さん、文庫の後ろの解説でも、宣伝でも、カースト上位という事になってるけど、それってこの子が自分で思ってるだけで、そんなに上位じゃなかったのかも?とも思います。あくまでポジションとしては保持しているのかも知れませんが、モノローグなんで何とも言えない感じがします。

しかし、女性の世界は本当に厳しいし、大変。やはり別の生き物に見えます。確かに繊細で感受性が高いかも知れませんけれど、こじらせてしまえば、より機能不全に陥るのは、と思ってしまいます。

何と言いますか、パンキッシュなんですね・・・

女性の作家さんで言いますと、金井美恵子さん、山崎豊子さん、山田詠美さん、桐野夏生さん、江国香織さん、宮部みゆきさん、角田光代さん、絲山秋子さん、特異な人だと山本文緒さん、辺りを何作か、は読んできましたけど、1番近いのは、山本文緒さんかも、というくらいに異質、私の読書遍歴ですと、ですが。まだ1作しか読んでいないので、何とも言えませんけど。

現代(もう古くなってるかも)青春小説を読んでみたい方に、オススメ致します。

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