井の頭歯科

「剣客商売」を読みました

2018年10月5日 (金) 09:13

池波正太郎著      新潮社文庫

ある先輩の先生からオススメいただいて手に取りました。

そういえば、新潮社と言えば、新潮45が休刊になりましたね。私は今回の騒動については雑誌を買ってないんで、あくまで新潮45という雑誌についての私の感覚でしかないんですけれど、すっごくオジサン目線に沿った雑誌だったなぁと理解しています。たしか佐野眞一著の「東電OL殺人事件」も山崎永幸著の「共犯者」もそうなんですけれど、ノンフィクションの形を採った俺(作者)語り、な作品が多いという印象です。ノンフィクションの驚きの部分を誇張する傾向が強いのは昔からそうでしたし、そもそもそういう雑誌でしたし、そんなに驚く話しじゃない気がします。でもオジサンな目線が好きな方、ルポライター記事で記者が前面に出るのが好きな方には向いた雑誌だったと思います。とはいえ何某議員の擁護の文章が、流布されている文章なのだとすると、ちょっと釈明できないでしょうね・・・編集能力が無い雑誌は淘汰されるべき雑誌だと思いますけど。

閑話休題

オススメしてくれた先生方お2人はとても文学にも歴史にも造詣が深い方だったので、大変楽しく読めました。まず私は池波さんの著作は「男の作法」くらいしか読んだ事が無かったので、大変驚いたのですが、とてもヒロガリのある文章で、情景が頭に描きやすく、その上リズムがあって読みやすいです。このリーダビリティが高いという点はとても重要だと思います。その上でヒロガリがあって、さらに歴史的な事実に即している部分が、とても面白く感じました。どうやら雑誌の連載のようですし、時系列が一直線で季節の変わり目も、風情豊かに描かれています。

主人公は秋山小兵衛59歳。無外流の老人なれど剣の達人、その息子で道場を開いたばかりの大治郎は25歳。この2名を主人公に据えていて、老獪で達人ではありますけど、年齢の影を感じている父と、生き生きとしてはいるが一本調子でまだ青いがまっすぐな息子という対比が面白く、これは男性読者に大変受けたであろうと思います。老境に入っていく方に感情移入するも善し、若い息子に感情移入するも善しで、大変上手い設定であるし、時代がちょうど1770年辺りだとおもいますけど、老中田沼意次の時代です。この時は町人文化も華やかで、でも、田沼に対する評価は本当に両極端と言ってよいくらいに分かれていますけれど、私はどちらかと言えば、朱子学を避け、蘭学を庇護して、町人文化のよい部分を伸ばそうとし、だからこそ、平賀源内との親交もあったわけですし、さらに蝦夷地開発を行い(この中の最後の1人が、あの最上徳内ですよね!まぁ土山宗次郎他のメンバーは大変惨い最後になってしまうのですけれど・・・)、果ては赤蝦夷との交易を考えていたのではないか?という評価に与する方です。つまり改革派であったのではないか、と。

また何と言ってもこの時代にちょうど前野良沢、杉田玄白、中川淳庵がまさに『ターヘル・アナトミア』を翻訳しているのです!!辞書が無い中での翻訳作業というのは本当にスゴイ出来事だと思います。「解体新書」刊行に際しての様々に関わった人物たち(小田野直武とか司馬江漢とか桂川甫周とか大槻玄沢とかツンベリーとか、もし高山彦九郎や林子平も出てきたら嬉しいなぁ!)が果たしてこの剣客商売に出てくるのか?不明ですけれど、大変興味湧きます。

そんな時代のドラマですので、大変面白く、今後の田沼意次との関連(田沼の娘が準主役!)がどのように影響してくるのか?も気になります。

とりあえず、第1巻読み終わりました。

「日本沈没 第2部」を読みました

2018年9月26日 (水) 09:40

小松 左京 谷 甲州 著     小学館文庫

日本沈没の第2部を読みました。おそらく小松左京さんが本当に書きたかったのはこちらなのかな?と感じる部分も大きかったです。

あの、どうしてもネタバレに繋がってしまう部分があります、なので、日本沈没をまだ読まれていない方はご遠慮ください、なにしろ続編作品ですので、1部のネタバレあります。

日本沈没から25年後の世界、国土を持たない国民、流浪の民、入植者、として世界各国に散らばった国民の苦難を描く作品です。D計画に携わった人物が幾人か出てきます。

主題として、日本そして日本人とは何か?を扱っています。ですので、おそらくこの第2部を主題に置いていたのではないか?と私は感じました。国土を失ってなお、同族としての意識をどう持ち続けるのか?国土の再建はあるのか?日本性とはどういう事か?を時に比喩的に、時に直接的に言及しています。

1部、2部通して、太平洋戦争(呼称問題があるのを承知していて、私の感覚としては、この表記を使用したい)に負け、ただの負けではなく、国体の護持のただ1点を守りたかった中、まだまだ議論があってしかるべきですが、負けた事実はいかようにも代えがたく、その失敗の本質をいまだ自国民からなかなか清算できず、東京裁判を含めて、敗戦国というどのようにも、どうしようもない状況に置かれた事への反省もなく、高度成長期を味わって浮かれている日本国民に、それでいいのか?という憤慨と驚愕をもって書かれたのかな?と感じています。

第2部では、国土に深く繋がりのあるパトリオティズムと、国家という概念に基づくナショナリズム、さらに思い切って言えば文化に根付くコスモポリタニズムの対比の部分がこの物語の真骨頂であろうと思います。ここで面白かったのは鳥飼外相のコスモポリタニズムを唱える側は海外渡航経験が浅く理想論的に聞こえるのに対して、現実主義的に見えてかなり窮屈で保守的というより封建的に見えるナショナリズムを唱える中田首相の海外経験とのギャップです。大変興味深い話しで、自分が如何なる存在なのか?を計るのに他者という「ものさし」を求める事と同義な気がしましたし、説得力あります。

ただ、少々冗長な部分もありますし、1部に出てくるあの人がアレで、え??てなったりしますけど、その後の物語が描かれる興奮は確かにあります。

国土が失われたからこそなんでしょうけれど、郷愁に駆られ過ぎる人の描写が多くてその辺は少し鼻白むのは仕方ないかもですけれど、まぁ1部を読まれた方であれば、決して損のない読書体験になると思います。

私は小松左京さんは日本という国を愛しているからこそ、警鐘を鳴らすために、この物語を描こうと思ったのかな?と感じてしまいます。理想的な日本像な描写も多く、時に理想的過ぎて最早ファンタジックに見えさえします。大変エモーショナルだと感じます。

それでも、東日本大震災も記憶に新しい、災害の多い国日本に住む人にオススメ致します。

「日本沈没」を読みました。

2018年8月17日 (金) 09:46

小松左京著     小学館文庫

新たに歯科医師会の仕事として、災害対策委員会に配属されました。そこで災害小説の古典、いつかは読まなければ、と思っていた作品に手が出ました。刊行当時は関東大震災から50周年の時だったようです。関東大震災についてはまだまだ知らない事が多いのですが、様々な問題や疑心暗鬼もあったと思いますし、東日本大震災の時も流言や誹謗中傷が目立った事もありますし、我々一人ひとりが備え知らなければならない事がたくさんあると思います。

また、私は小松左京さんの著作は「ゴルディアスの結び目」(の感想は こちら )しか読んでなかったんですけれど、本当に読みでのある作品でした。「日本沈没」はタイトルからして出オチ感があり、その辺から手を出せていなかったんですけれど、そういった行為を恥じ入るべき、くらいに面白かったです。

潜水艦技師で操縦者でもある小野寺は、南の島の異変を調査するべく東京都から500㌔ほど離れた南海の孤島である鳥島付近の島の調査に、友人で助教授の幸長と向かうのだが・・・というのが冒頭です。

災害小説でSF小説でポリティカルな側面もあり、という事になっていますけど、本質的には「日本」論小説ではないかと感じました。真っ先に思い出したのは山本七平著「空気の研究」とイザヤ・ベンダサン著「日本人とユダヤ人」です。

ディザスター(災害)小説として、もちろん大変に大きな事象を扱っていますし、日本全土が沈没するわけですから、かなり詳細な科学的事象の説明があります。プレートテクトニクス(私はプレート理論として習った気がします)や、全然知らなかった、海底乱泥流や、重力以異常帯や、マルコフ過程や、エルグという単位や、チャンドラセカールなど、専門用語が大変多く、しかも73年発表ですから、物凄く早かったであろう横文字も大変多く使用されていて、今でも十分通用すると思います。

途中で調べた単語は本当にたくさんありました。中でもヴェゲナー仮説というのが大陸移動説を唱えた学者でしかも気候学が専攻だった事は特に調べて良かった点です、全然知らなかったです。小説の中で1番動悸が激しくなった部分

田所博士「地球上における、温度の違う流体団塊のふるまいがもっともはっきり分かっているのはどんな分野だ?」

幸長助教授「気象です・・・」

の説明の時に、この事を知り、さらにびっくりしました。

老人渡の呼んでくる京都の学者が、まさに私の想像する京都学派的な善の側面を体現出来ている印象を受けました。近代の超越とか言い出す前、西洋と東洋の融合にこそ意味を見出していたような印象を受けるので、詳しくは全然知らないんですけれど。

災害小説として捕えると、その論理的メカニズムを説明してくれるリーダーのようでいてマッドサイエンティストのような田所博士のキャラがまずエッジが効いていて素晴らしいです。日本の置かれた当時の状況、敗戦の影響と、その事で自覚された民族や国家についての言及も、ある種手垢のついた表現とは言え、そこを乗り越えた先を目指しているからこそ、なのがとても分かり易く理解出来た気がします。

ポリティカル小説としてもまるでシン・ゴジラの巨災対のような(もちろんこちらの方が全然早いんですが)D-1チームの面々も多彩でチーム感がイイです。中でも幸長と中田のコンビはとても良かった。さらにフィクサーのような老人・渡とのやりとりも印象深かった。最後に出てくる渡と田所博士の会話にこそ、この小説のテーマだと思います。もう少し総理大臣の演説っぽいものがあっても良かったかもしれないですが、個人的には、私は田所博士のある種の心中の吐露に、意味を感じてしまいました。この部分は誰かと議論してみたい気がします。果たして日本民族として、土地を追われた人間に何処までの尊厳が守れるのか?

地震や災害はまさに理不尽な、人知の及ばない、どうしようもない事象だからこそ、そこに何らかの意味を見出そうとすると、非常に抽象的で、概念的で、観念的で、宗教的な部分が出てくると思います。自然科学はあくまでデータを基にしたアプローチで、出来うる限り観念的なモノを排除した上での、冷静な判断が求められるわけですが、田所博士の論理的説明の最後のピースを埋めるのが『直観』と『イマジネーション』というのも、そこまでは論理的に反証可能な言葉やデータを使って行っていたからこそ飲み込める部分でもあると思います。

この直観とイマジネーションを補足することが私には出来ないのですが、ヒントというかそういうのもあったな?で思い出すのは数学者・岡 潔 と 批評家・小林 秀雄 の共著「人間の建設」(の感想は こちら )です。私が読んだ小林秀雄本の中で10分の1くらい理解出来たかな?という本でしたけど、数学者岡も批評家小林も、とても直観を大事にしていた、と記憶しています。この本を読んでいなかったら、多分飲み込みにくかった部分ではあります、今でも少し違和感はありますけれど・・・

またストーリィのエンジンとも言うべき、愛される主人公である小野寺のストーリィもなかなかな展開でして、玲子の行動が少々理解しずらい部分はありますけれど、まさかこんな展開になるとは思えなかったですし、友人を超えたような存在である結城との繋がりは、ある種の嗜好をお持ちの方であれば大変味わい深い部分だと思います。部長とのやりとりもとてもイイですし、そこから逗子での識者の内輪のパーティの、ハイソな感覚も秀逸だと思いました。

個人的には、小松左京さんの言いたかった事の舞台を整えるため、の小説なんじゃないか?というのが最も強く感じたので、第2部(小説の終わりに、第1部 完の記載あり!)を読もうと思います!

東日本大震災を経験された、その他の災害を経験されたすべての日本国籍をお持ちの方、自然災害を経験されたすべての人に、オススメ致します。

「高橋ヨシキのサタニック人生相談」を読みました

2018年7月12日 (木) 09:58

高橋 ヨシキ著       スモール出版

高橋ヨシキさんはアートディレクターで映画ライターでデザイナーという肩書ですが、とても理知的な方で、文字通りに受け止めると眉を顰めそうですが、サタニストでもあります。とは言え私もこの本を読むまではサタニストという言葉の定義が理解出来ていませんでした。無知である事は恥ずべき事でもありますし、実際害も多いと思います。文字が読めても、文脈が読めない、ユーモアのセンスが理解されない事も多くありますし、尊敬出来る作家・金井美恵子を評して言われる「悪口・辛辣」という言葉も、私からするとユーモアを交えた上での、辛辣に聞こえる、しかし正確に表そうとしているだけ、のような気がします。悪口を言いたいのではなく、正確さ、言葉の表記であったり、定義に沿うという非常に重要で必要な事柄に厳しいだけだと思うのです。文脈を読もうと思えば理解出来ると思うのですが、文字を読む練習はしても文脈を読む習慣(特に読書ですね)が無くなりつつあるので、自戒も込めて気をつけようと思います。特にテレビのニュースでは、まさに文脈が発生しない状態でしか接する事が出来ませんから。

サタニストとは(あくまで本書を読んだ私の個人的解釈です)、徹底的な個人主義的な思考を持って、来世やスピリチュアル等の戯言を排し、自らを鏡として現世をより自由に楽しく生きる為の哲学、自己宗教という事かと思いました。そして、これはとても理知的で論理的で整合性があり、不条理な現世を生きる上でとても重要かつ必要な視点ではないか?と感じました。なんかすごくぐるっと回って、リチャード・ドーキンス(「利己的な遺伝子」とか「神は妄想である」とか9.11以降はかなり強い口調で「宗教」を批判するようになった生物学者ですね)の思想に近い気がします。ドーキンスは宗教を信じるには値しないし危険な妄想、と断じていますが、多分サタニストはニヤっと笑いながら、その滑稽さを指し示したり、矛盾を指摘したりするんでしょうね。

そんなサタニストである高橋ヨシキさんが回答する人生相談です。まぁいつも、人生相談をいう単語を聞くと、PUFFYの曲の「夢のために」の歌詞である「人生相談は子供だまし」というフレーズを思い出してしまいます。しかし、そうでない人生相談も時にあるような気がします。それは頭ごなしでなく、自ら考える道筋を示すようなモノであれば、理解出来るように感じます。そして高橋ヨシキさんの回答はなかなかに考えさせるのです。まぁ、そうは言っても高橋ヨシキさんくらい考えを徹底させる方の回答ですと、ある一定確立で同じような場所に立たされることにはなってしまうのですが。

中でも私が面白かった問いかけと回答ですが、回答は書籍を読んでいただくとして(とても哲学的な回答だと思いますし、ユーモアのセンスも良いので笑えます!)、列記します。

『夫との価値観の違いに悩まされています』

『社会をサバイブする為の心構えを教えてください』

『友達が「自分は異星人だ」と思い込んでいます』

『絶対にいないと思っているのに幽霊が怖いんです』

『事故物件ってどう思いますか?』

この回答は本当に膝を叩き、そして胸がすきました。考え方そのものに、その哲学に、真面目さを感じずにはいられませんでした。

チャーチ・オブ・サタン創立者のアントン・サンダー・ラヴェイ師の著作「サタニック・バイブル」をとても読んでみたくなりました。

自己を豊かにする学問、文化、音楽、美術、文学、哲学に今後も、残り少ないであろう時間を使って行きたいです。

「僕の姉ちゃん」を読みました

2018年6月29日 (金) 09:24

益田 ミリ著         幻冬舎文庫

友人にオススメしてもらったのですが、これが非常に面白かったです。というか、本当に男と女は別の生き物だと、痛感してはいますけど、改めて考えさせられました。

私は3人兄弟の長男で、弟が二人いますけど、家族内というか成長期に女性が家に居なかった(母は女性とは少し違う感じがします)事がこれほど違いを生むのか、といつも考えさせられます。

女性の姉妹がいる男性は、本当に何処か違って眩しく見えるものですが、普段から鍛えられているのでしょうね。

そこへいくと男性だけ兄弟の残念な事といったらないですね・・・

しかし、こういう体験があったら、もう少し人間としてまともな生活を送れたかも知れません。

ネタバレは避けての感想ですけど、私多分、2万円のブツを見た事ないですね。それと、指に注目したこともなかったです。手は割合好きなパーツなんですけど、まさか、指のアレを気にしてるって本当に凄い・・・いやスゴイのか凄くないのか分からなくなって頭の中がクラクラしてきます。

この家庭的感をアピール、果たしてこれでアピールになっているのか?問題は置いておいても、話し相手出なかったとしても、嫌な感じにとられてるのかと思うと、会話を成立させたくない気持ちになってきますね、男性は黙ってるのが美徳とされた時代もありましたし・・・

そしてこの後の漫画の展開が斜め上を行くんですけど、本当に驚愕です・・・さっきまで話していたのとは全く別の判断基準が発生しているのに、論理として破たんしているのに、全然自分は変ではない、と確信している、その自信が全然分かりません・・・彼女の中の整合性が取れている、という点では軸がある、という事に驚いてしまいます。

お姉ちゃんが存在しなかった全ての男性に、強くオススメしたいです。

ブログカレンダー
2019年5月
« 4月    
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  
ブログページトップへ
地図
ケータイサイト
井の頭歯科ドクターブログ