井の頭歯科

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」を見ました

2017年2月17日 (金) 13:04

アダム・マッケイ監督       パラマウント

お金に関する映画「マネー・モンスター」は面白かったんですが、どちらかと言えばこのマネー・ショートの方がより面白かったです、なかなかに凄い映画です。もちろんサブプライムローンに端を発するリーマンショック及び金融危機の話しです。

マイケル(クリスチャン・ベール)は投資ファンドのトップであり、過去に医師免許を取得している天才ですが、左目を病気で失い義眼であった事から人付き合いに難のあるトレーダーです。部下からも変人扱いされているのですが金融業界の小さな異変に気が付きます。そこから数字のみを頼りにとある結論を得ます。また全然別の大手金融業モルガン・スタンレーの傘下にあるチームを束ねるマーク(スティーブ・カレル)の基にジャレド(ライアン・ゴズリング)が現れて途方もない投資を持ちかけられるのですが・・・というのが冒頭です。

実際に起こってしまった出来事である金融危機がどのようなものであったのか?を描くのですが、正直全部理解出来たとは言えない非常に難解な仕組みの話しです。が、難解ですが理解できないのではなく、難解に見せかけて相手の思考力や判断力を停止させる事をある種目的化して儲けていたという事実に即している作り方になっている事に、映画を見ながら気が付くとよりスリリングになって面白いです。こういう事を思いつくのが流石ですね、アメリカ。でも儲けという拝金主義的なところまで進んでしまうのもとてもアメリカ的だと思います。

俳優陣がものすごく豪華です。クリスチャン・ダークナイト・ベール、スティーブ・カレル(ずっとコメディの人でしたが、最近は「フォックスキャッチャー」など渋い役も演じてますが、私は「エンド・オブ・ザ・ワールド」が好きです)、そしてライアン・ブルーバレンタインのディーン・ゴズリングまで!さらにブラッド・ピットも出てきます。ものすごく豪華ですが、扱っている内容は極めてシビアでヘヴィーな内容なんですが、不謹慎にも、あまりの現実のひどさに、笑いさえ誘う映画です。

この中ではスティーブ・カレルの怒れる男が最も気になりましたが、それ以外の出演者が非常に良い感じでした。特に調子に乗っている若者2人組を演じているフィン・ウィットロック(下部写真左)とジョン・マガロ(同写真右)のコンビが見ていて飽きないんです。あまりに子どもじみた感じなんですね。でも金融という世界で莫大なお金を扱っています。この2人のセリフにある「誰もいないね」「そりゃそうだ」「いや、大人がさ」という掛け合いが最高に素晴らしいシーンだと感じてしまいました、凄く良いシーンでした。

都合3つのチーム(うちクリスチャン・ベールのみ個人的な扱いをしておりますが、基本的にはチーム。でもクリスチャン・ベールの孤独を描くにはこの演出が最高です!)クリスチャン・ベールの数字だけを頼りに金融に詳しいからこそ破たんする未来を知ってしまう個人、偶然見つけたほころびをリーダーであるスティーブ・カレルが怒りの原動力で矛先を決めて実地で解析していくチーム、ふとした偶然から人生の一大の賭けを欲して行動する儲けに特化したコンビ+師匠のブラッド・ピット、この三者三様が描かれています。

なんとなくですが、怒れるスティーブ・カレルはその相手を見つけようともがいているのに対して(節度ある人間であるからこそ、根拠を基に事態を招いた元凶を探している)、クリスチャン・ベールは怒りが自分の中に向いているように感じます。だからこそ激しいメタルミュージックを聞いているような印象を受けました。特にメタリカのマスターのドラムをたたくんですが、このシーン、それにクリスチャン・ベールの演技も相まって非常に孤独感が増します。

中でもブラッド・ピットが演じているやんちゃコンビの師匠が、コンビを諭すセリフに、この映画のすべてが詰まっていると感じました。システムが巨大すぎると善悪とか公平性とか個人の価値はほぼ意味をなさないと思います。だからこそ、私は現実にこの世界がどうなったのか?が知りたいですね、デリバティブの話しも非常に胡散臭く感じますし。

また、私はアメリカの現代に詳しいわけでもないですが、いちいち年号を出す部分と、象徴的なスナップ写真で年を分からせる演出がさえてます。まぁワカラナイ部分も多いんですが、ブルースブラザーズで分からせてくれると気持ちがグッとあがります。

結果はみんなが知っています。金融業界の破たんです。しかし、どのようにそれが起こっていったのか?またどうして防げなかったのか?を考えさせられる話しです。私は金融について全然分かりませんし、でも金融システムを取り込んだ社会に生きているので、とても怖いです。この中のひとつの会社を描いた作品が「マージン・コール」(の感想はこちら)なのだとするととても大きな規模を扱った作品なんだと思います。

途中に出てくる印象的な示唆の一文が数回差し込まれるんですが、マーク・トゥエインがとてもアメリカらしかったのに、突然村上春樹が出てくるとびっくりしますね。「1Q84」からの引用みたいでしたが、もし私に引用させてもらえるなら「ダンス・ダンス・ダンス」から引用したいです。高度資本主義社会は無駄な消費によって回っている、とかいう文章があったと思います。

でも今のところ、アメリカ経済は強い事になっていて、バンカーが大量に刑務所送りになったわけではない部分も恐ろしい。そして何より現在の大統領のポスト・トゥルースとかオルタナ・ファクトとか本当にジョージ・オーウェルの「1984」(の感想はこちら)並の世界になってて恐ろしいです。

現代に生きているすべてのお金を扱う人にオススメ致します。

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