井の頭歯科

「別離」を観ました

2012年5月8日 (火) 09:23

アスガル・ファルハーディー監督       マジックアワー

イラン映画、初体験でしたが、かなりヤラレマシタ。映画の完成度や素晴らしさに国籍や撮影された地域監督の国籍などは全然関係ないですけれど、文化の違いから、ニュアンスとして、あるいは刷り込みみたいなものを含めてアラブ圏の文化を知らないことでの浅い理解の可能性があることを認めた上でも、とても素晴らしい作品に仕上がっていると感じました。製作と脚本と監督を勤めたアスガル・ファルハーディー監督の腕は確かなのではないか?とこの1作だけで思えました。また、主演する2人妻シミン役のレイラ・ハタミ、夫ナデル役のペイマン・モアディの演技と存在感も特筆すべきだと感じました。演技はかなり難しい、緊張感ある場面の連続なんですが、しかし見事に演じきっていて、しかも本当にリアルに見えるのです、凄い。

イランの中流家庭である銀行に勤める夫ナデル(ペイマン・モアディ)と大学で英語を教える妻シミン(レイラ・ハタミ)は家庭裁判所にいます。裁判官に向かっていかに自分達が何をすべきなのか?を問いかけています。妻シミンはイランという社会の限界を感じ、異例ではあるものの1年半の時間と費用と手間を費やして娘であるテルメーと共に国外で生活したいと考え、夫ナデルは最初はその計画に同意したものの、父親がアルツハイマーを患ってしまい、そんな父親を残して国外に出ることは出来ないと反論します。さらに娘テルメーは父と共にありたいと考えているのです・・・というのが冒頭です。

非常に脚本が練られたものであって、完成度が高く、またその見せ方が、演出が素晴らしく、とても見応えある作品です。もちろん役者さん方の演技も最高です。この役者さん方の生活する姿のリアリティが、そこを滲み出させる部分が素晴らしいと感じました。

本作が扱っているテーマは非常に多岐にわたっていて、夫婦関係、親子(3代含む)関係、家族間の問題、病気の問題、介護の問題、信仰心の有無、格差ある社会、暴力の恐ろしさ、嘘偽りを行ってしまう人間の弱さ、等等、様々なテーマに対して、フェアでどちらかに【正解】があるようなものではない系の問題を扱っています。そう、すべて生活の中で起こってくる切実な問題を扱っているので、受け手である観客に鋭くその問いを投げかけてきます。

この後、ある裁判が行われていくのですが、その過程で露わにされる真実が、もしくは家族間で話される公的ではない場面の中で明らかになる真実を、観客が徐々に知ることでのサスペンス的な面白さも加わって、エンターテイメント作品としても仕上がっている、素晴らしい映画だと感じました。

単純な爽快感だけを映画に求める方には不向きかもしれませんが、ドラマが好きな方や考えることが好きな方に、ホラー作品を危機管理の訓練と捉える事、出来うると私も思いますが、そういう意味で言えば生活の場の危機管理の訓練が行える映画、とも言えます。

映画「ブルー・バレンタイン」(の感想はこちら)は名作(ポジティブか?ネガティブか?とか、男か?女か?は置いておいて)、と考えていらっしゃる方に、映画が好きな方にオススメ致します。とりあえず今年観た映画でトップの出来栄えです。是非劇場で!

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