井の頭歯科

「自生の夢」を読みました

2017年5月8日 (月) 09:50

飛 浩隆著       河出書房新社

大学生の友人が、ある場所でオススメしていたので手に取りました。大学生なのに、非常に多趣多才な方で、本、映画、思想、哲学とほぼなんでも理解出来る人で、年齢は関係なく楽しい会話が出来る方です。しかし大学生でこんなにいろいろな事を考え経験しているって本当に凄いなぁと思います。もちろん頭のキレも良くて人柄もよく、なんでこんなオジサンと遊んでいるかなぁ、と思わずにはいられないです。

そんな彼が面白かった、と言われているので手に取ったのですが、これがかなり凄い作品でした。SF関連もそんなに詳しいわけではないにしても、ディストピアモノは結構好きですし、何と言っても未来を見せてくれる上に、現代の社会へのある種の批評にもすることが出来るわけで、読んでいて頭がいろいろ考えさせられるのが楽しいです。

で、全然知らなかった、名前を聞いたことも無かったこの飛 浩隆さん、非常に大げさに聞こえるかも知れませんが、私は伊藤 計劃に匹敵する才能の持ち主だと感じました。伊藤 計劃作品2作「虐殺器官」(の感想は こちら )と「ハーモニー」(の感想は こちら )は時系列ですが、3作目で合作になり遺作になった「死者の帝国」も凄いのですけれど、当然合作者の円城 塔さんの成分が混入されているわけで(いやほぼ主成分が円城さんなのかもですが)すし、時系列としては過去作にあたるわけで、純粋な伊藤計劃作品である「ハーモニー」のその先を魅せてくれるのがこの本だと感じました。

SF短編集なのです。そのどれも素晴らしい完成度でしたし、着想が凄いです。

中でも私が気になったのは「海の指」というある種のカタルシスが起こった後の世界を見せ、これは映画にしたら、アニメーションにしたらいいのに!と強く思わせるほど情景が浮かんでくる作品で文章にも、描写にもとてもヒロガリがあります。それでいて恋愛要素をうまく取り込みつつミステリー仕立てにもなっている完成度としては1番高い作品です。

しかし、完成度よりももっと思考の枠を超えてくるのがアリス・ウォンを主人公とする連作短編「#銀の匙」、「曠野にて」、「自生の夢」、「野生の詩藻」です。私にとっては伊藤 計劃のハーモニーという作品のさらに先を魅せてくれた稀有な驚きがありました。未完成とは言いませんが「海の指」ほど起承転結がはっきりしているわけではないのに(つまり映画作品には向いていないような作り)、とてつもなく「文字」で表す文化のある種の行き着く先、をみせてくれます。これはもうちょっと想像できないくらいのモノでした、抽象的概念の文字化でここまで行くとは!という驚きなんですが、とにかく何も知らない状況で多くの方に読んでいただきたい作品。

世界観を作り上げ、そのシステムを構築し、さらに驚きをもってそのシステムを崩したカタストロフィを味わわせてくれる連作短編です。まさに、文字で出来たマジック。

もうすぐ公開される映画「メッセージ」ですが、非常に期待していますし、まず間違いなく面白いと思ってます(原作の短編だけ読み終えましたが、なかなかです、1冊全部読み終えたら感想にしたいです、映画を見て。)が、私は正直それ以上のモノを感じました。

まだ観てないのにこんな事言うのは良くないと分かっているのですが、それぐらい衝撃を受けました。だって、この連作短編が映画化(物凄く難しいと思いますが、この映画「メッセージ」も同じくらい難しい事に挑戦しています、で原作を読んでの比較として、スケールが違うと感じました)出来たら、凄い事になるだろうな、10年後くらいにハリウッドで映画化されても可笑しくない作品だと感じたからです。

SFが好きな方に、文字を読むのが好きな方にオススメ致します。

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