井の頭歯科

「善医の罪」を読みました

2021年5月7日 (金) 09:47

久坂部 羊著   文藝春秋
いわゆる、尊厳死、安楽死問題を小説にして描いた作品です。ACPアドバンス・ケア・プランニングが裏側のテーマとして扱われているので興味を持ったので手に取りました。
ACPの定義は、東京都医師会のHPの文章を見ると、『将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、患者さんを主体に、そのご家族や親しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセスの事』となっています。これに人生会議という意訳をつけているのには、非常に違和感を覚えますし、何らかの欺瞞性も感じますが、仕方ない事なのかも知れません。あくまでプロセスを大事にする事だと思います。
カテーテル医でオランダ国籍の母と日本国籍の父のダブルとして育った娘である白石ルネは、大きな系列病院で働く新人ではありませんが中堅とは言えない医師です。担当患者が救急搬送され、脳死状態に陥ってしまった事から終末医療に関わる事になるのですが・・・というのが冒頭です。
医療者は患者さんの命や健康を守る存在ですし、専門性に優れ、難しい判断を求められる技術者であり、且つ清廉潔白なイメージを求められやすいと思います。生涯をかけて取り組み仕事ですし、なかなかに自分の時間を持てない、とてもやりがいも多いでしょうけれどハードな仕事だと思います。
あくまでフィクションですけれど、かなりきわどい部分について書かれています。
凄く近い作品に『終の信託』という原作がある映画(の感想は こちら )があって、ほぼ、似たような疑問も同じですけれど、より現代的に、そして俯瞰して見せる作品になっていると思います。最後が愛の話しにならない部分が、よりこの本の方に徹底度を感じました。
私は子供の頃から読書が趣味だったので、しかし、そうはいってもそれほどたくさんの本を読んできたわけではありませんが、基本的に小説の扱うジャンルを強引にまとめると、そのほとんどが「死」と「愛」で片づくと思いますし、それくらい魅力のあるテーマだと思います。
ですので、普通に、みんなある程度死を考えた事があると思っているのですが、それほどでもないのかも知れない、と最近は思うようになってきました。みんな凄く忙しいですし、死についてばかり考えても楽しい事には繋がりにくいですから。私は根がネガティブなので、普通に考えてしまいますけれど、どうしても、愚行権や自死を止める、いや論理的に止める理論にまだ納得がいかないのです。
それでも、ACPの重要性は揺るがないと思いますし、結局のところ、不死になる事は出来ないので、それぞれ個々人が、自分の場合を考えておく事は必要だと思います。
安楽死と尊厳死の違いくらいは知っておいた方が良いと思いますし、自己の欲求の為に他者に自殺ほう助の疑いを抱かせるのは、とても傲慢な事だと思います。最近亡くなられた著名な演出家の著作のタイトルには安楽死を認めて欲しいという趣旨の言葉が明記されてあったと記憶していますが、何でもかんでもセリフで説明する事で得られる分かりやすさを善しとする事には、私は傲慢さを感じますし、それよりも受け手に考えさせる事が重要なんじゃないかな、と思う次第です。誰かに、特に命を救う重大で責任の重い仕事に従事されている人間に、自殺ほう助まで取り組ませるのは、私は傲慢だと思います。
そしてこの問題は、恐らく自死をどう扱うか?というとても難しい問題に近づかないといけないので、大変困難な道になると思っています。
もっとACPの理解が進むと滅んでしまう医療サスペンスではありますが、それでも今の現状(と言っても、私は今の医療の現状は知らないわけですけれど・・・)が気になる方にオススメ致します。
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