井の頭歯科

「マリッジストーリー」を観ました

2019年12月20日 (金) 09:06

ノア・バームバック監督       Netflix

アイリッシュマンとはまた全然違った作品ですが、これはかなり良かったです。ノア・バームバック監督はそんなに追いかけてる監督じゃないですけれど、最近だとやはりNetflixの「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」(の感想は こちら )がかなりよかったので期待しましたが、期待値をはるかに超える良作でした。そもそもこういう男女の関係性を扱った作品、それもかなりシビアに扱った作品を好む傾向があるので、ある程度の期待をしましたが、映画として、脚本として、役者の演技も、音楽も良かったです。

ニコール(スカーレット・ヨハンソン)とチャーリー(アダム・ドライバー)はNYに住んでいます、子供は8歳のヘンリー(美形)です。ニコールは劇団の看板女優でしたが退団を決めLAに向かう予定です。LAではテレビの仕事が決まっています。チャーリーは劇団の演出家、NYに残って生活する予定です。だから、どちらも子供を引き取りたいし、争いたくないと考えてる、今まさに離婚しようとしている夫婦です。その離婚の為に、それぞれの美点を述べ合う機会を持つのですが・・・というのが冒頭です。

まず、脚本が非常に練られています。何かの為の、という部分がありません。しかも離婚する事は容認出来ている夫婦であるのに、親権となるとお互いが相手を尊重出来ない、そんな2人の離婚を扱った作品、大変ヘヴィーな作品だと思います。恐らく、離婚をしたくて結婚する人はいないであろうに、しかし離婚をする人がいなくなった話しは聞きません。そしてこの手のタイプの映画は大変議論を呼び、且つ話題になります。古くはロベルト・ロッセリーニ監督「イタリア旅行」(恥ずかしながら未見)、イングマール・ベルイマン監督「ある結婚の風景」(の感想は こちら )、ロバート・ベントン監督「クレイマー、クレイマー」、サム・メンデス監督「レボリューショナリー・ロード」、リチャード・リンクエイター監督「ビフォア3部作」(特にミッドナイトですね)、アスガル・ファルハディ監督「別離」(の感想は こちら )、そして何より私にとっては最も恐ろしい映画であるデレク・シアンフランス監督「ブルーバレンタイン」という系譜の流れの、新たな傑作だと思います。

毎回そうなんですけれど、この手の映画は、男とは、女とは、仕事とは、子供との時間とは、等々、絶対に正解が無い事柄についてを争う事になります。だから、ある種のケーススタディとしての、映画の登場人物たちの背景を飲み込んでの、ディティールにこそに、その真骨頂があると思います。完璧な人間なんていませんし。そして、その細部にこそ、様々な人の普遍性、あるある、という共感がリアルを焚きつけてきます。まるで映画の登場人物が、あなたの生活を非難しているが如くに、響くのです。

完璧な人間なんていない、確かにそうなんだけれど、しかし、どの程度の不完全性を相手が許容してくれるのか?は不明ですし、そして時間の経過、生活の積み重ねと共に、すべてが色褪せていきます。新鮮味がなくなって、気にならなかった物事が気になりだし、たいした事じゃない事が、些細ではなくなり、その事柄を起こしている人に注意しているつもりが、糾弾になり、そしてある日を境に、嫌悪へと至る道へと向かってしまう人は多いと思います。いやむしろ自然な流れなのかも知れません。それでも、最初は違ったはずなんです。でも、そういった事を思い出させてくれる、という意味でも、この手の映画は大変勉強になります。

今作はそうした今までの傑作に勝るとも劣らない出来栄えですし、女優の妻から母という職業を手にしている女性という意味で「レボリューショナリー・ロード」をアップデートしていますし、時間経過をリアルに描いているけれど「ビフォア3部作」ほど時間をかけないという部分をアップデートしていたり、と、かなり現代に寄せた作りになっています。ある種、離婚を同意しているが、それと親権は別、という「クレイマー・クレイマー」をアップデートさせているというのが分かり易い部分かも知れません。あの時は女性の自己承認と社会進出、というサブテーマがありましたけれど、今作ではさらに進んで、キャリア、という部分に進化しています。

女性にとって、これらの映画は共感する部分も大きいと思いますし、これまでの不遇を考えると、当然の権利を手にするという、大変ポジティブな面が、映画の推進力にもなっていて、ニコール(スカーレット・ヨハンソン)に寄り添って見ていると、あの時なんで!といった過去の自分に起こった出来事にカタストロフィを与える事にも繋がり易く、大変エモーショナルとも言えます。

反面、チャーリー(アダム・ドライバー)の、自覚はなくとも不公平に優遇されていたわけで(下駄をはかせてもらっていたし、それが自然でさえあり、文化でさえあった)仕方がない、失われていくネガティブな面も描かれています。ただ、まぁそこが失っていく事を認める自分への憐憫としての甘さもあるように感じられるのですが。

アダム・ドライバー、イイ役者さんですね!凄く自然に見えます。また声がとてもいいのも特徴だと思います。とにかく自然に、憤ったり、嘆いたり、涙を流す姿が、胸を打ちます。良い作品に出ている感じもしますし、これはライアン・ゴズリングとも、ジョセフ。ゴードン=レヴィットとも違う、イイ役者さんですね。

また、私が知ったのはソフィア・コッポラ監督の「ロスト・イン・トランスレーション」と、テリー・ツワイゴフ監督「ゴースト・ワールド」で知ったのですが、美人であり、ブロンドで、あっという間に大スターになりましたけど、私は眉を顰める困惑な感情が入りつつも怒っている時の顔が、非常に印象深い人、として認識してます。この顔の時って、ゴースト・ワールドの時から全然変わってない気がします。今作でも何度も、困惑の入り混じった怒った表情が観られますが、演技も凄くイイと思います。声もハスキーで、特徴ありますし。でも怒ると怖い顔ですよね。

脚本が本当に素晴らしかったです。そして、やはり女性と男性は、というか人と人とは分かり合えない存在だと思います。分かり合えないから、どうでもいいや、にしない部分が大事だと思います。分かり合えないからこそ、ちょっとでも、もしかして、という瞬間が光り輝き、貴重な瞬間なんじゃないかな?と思うのです。

で、ダメだったところもあって、タイトルに言及はしていませんけれど、間違いなく、マーティン・スコセッシ監督「George Harrison: Living in the Material World」におけるオリヴィア・ハリスンを批判しているのですが、オリヴィアをここで批判するのは全然違うと思います。まるでオリヴィアが自らのキャリアを喜んで捨てたかのように聞こえます。彼女はキャリアを捨てたつもりもないと思いますし、自らが選んでいると思います。こういう批判の仕方は、まず、オリヴィアの事も、ジョージの事もよく知らないで、批判の対象にあげている点でダメですし、さも専業主婦の代表のように扱っているのも良くありません。オリヴィアの表に出ない活動だってあったと思うし、現に映画「George Harrison: Living in the Material World」の制作に関わっていますし。まぁ知らないからこそ言えるんですけれどね。

でも全体的には素晴らしい作品だと思います。

「クレイマー、クレイマー」が好きな方に、すべての男女に、オススメ致します。

“「マリッジストーリー」を観ました” への2件のフィードバック

  1. […] 3位 「マリッジ ストーリー」  (の詳しい感想は こちら ) […]

  2. […] ノア・バームバック監督の「マリッジ・ストーリー」(の感想は こちら )が面白かったですし「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」(の感想は こちら )も好きな映画だったの […]

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