井の頭歯科

「ザリガニの鳴くところ」を観ました

2023年10月3日 (火) 08:22

オリヴィア・ニューマン監督     ソニー・ピクチャーズ     U-NEXT

昨年公開作品ですが、U-NEXTさんで観られるので、原作も気になってて、未読なんですけれど、観てみました。弟の友人も良かったって言ってたような・・・

1969年、ノースカロライナの湿地で街の人気者チェイスが亡くなっているのが発見されます。その容疑は湿地で1人で生活しているキャサリン・クラーク(デイジー・エドガー=ジョーンズ)に向けられるのですが・・・というのが冒頭です。

んんん・・・映画として決して欠点の多い映画ではありませんし、嫌いな作品でもないです。ですが、パンチ力に欠けると言いますか、もっといろいろ出来たんじゃ、という気持ちになります。

まず、この淡々とした物語のフックになるのは、当然、殺人容疑がかかるというミステリ要素なんですけれど、確かに重要なんですけれど、なんか、途中から、もう仕方ないか、みたいな感覚になるんですね・・・

これは小説であれば問題ないのでしょうけれど、まず、主役のキャサリン・クラークを演じるデイジー・エドガー=ジョーンズが、整い過ぎている、という大問題があります・・・

キャサリン・クラークさんは、湿地で幼い頃から暮らさなければならなくなった、児童虐待体験ありの上で、さらに育児放棄のネグレクト状態から恐らく、小学生低学年のうちから生活者になった、そして近親者がいない湿地で育った女性です。

この人の魅力、キャラクターの魅力が重要なんですけれど、そしてその人が整った容姿であっても全く問題ないのですが、あまりに整い過ぎていると、物語の説得力が落ちてしまいかねないんです、そんな美人が居たら目立つ、という事になってしまうんです・・・

この映画の中に出てくる街の人、名もない街の人のどの人物、ちらりとしか映らない人々含めても、圧倒的に、無慈悲なくらいに圧倒的に、整っています。湿地で1人で暮らしているのに、何らかの邪な人物を呼び寄せかねないくらいです。

ですので、映画の本筋に関係してきてしまうのですよね・・・映画の説得力、リアリティラインと言っても良いですが、それを出来るだけ高めるのであれば、デイジー・エドガー=ジョーンズさんは整い過ぎているので、問題になるし、観客を呼びたい、それも俳優でも呼びたいとなれば、容姿端麗な俳優を使わなければならない・・・ジレンマですけれど、この映画の場合は、後者を選択した。

ので、私には、あまりにキャサリン・クラークが整い過ぎていて、映画の説得力が下がったな、と感じてしまいました。

でも、映画としてはなかなか美しい場面も多いですし、悪くはない。

正直、ミステリ部分よりも、ネグレクトの親の方が心配になりました・・・でも多分、ホモ・サピエンスも動物なので、恐らく、言語を尊ばない、あるいは感情に身を任せる人の中には、暴力を使うホモ・サピエンスもまだ結構いるんじゃないか?と思います。

自然の美しさを愛でるのが好きな、基本的には女性の方に、オススメ致します。

「ヌレエフ 世界を変えたバレエ界の異端児」を観ました

2023年9月29日 (金) 08:49

 

デヴィッド・モリス ジャッキー・モリス監督   ユニバーサル    U-NEXT

ヌレエフの一生涯を追いかけるドキュメンタリーの部分、フッテージされた映像を使う部分と、そのヌレエフにとっての重要な場面を切り取った創作バレエで成り立っている映画です。

ルドルフ・ヌレエフというダンサーであり、振付家でもある人物の、わずか54歳の生涯で、精力的に踊り、若いダンサーを発掘し、振付をしたのですが、この影響があった世代もついに舞台からは去りつつありますね。

1961年にパリで亡命をした際の出来事を映画化している作品もありますが、ダンサーとしても凄いですが、与えた影響の大きさ、その波の余波が本当に絶大。

特に個人的には、パリ・オペラ座での芸術監督になった事で、マニュエル・ルグリやシルヴィー・ギエムを物凄く若い段階で引き上げて経験を積ませるというのが凄いと思います。先見性の高さはちょっと異常です・・・

そんなヌレエフのある種のパートナーでもあったエリック・ブルーンについて、全然知らなかったので、これは凄く良かったです。

「シンドラーのリスト」

2023年9月26日 (火) 09:10

 

スティーブン・スピルバーグ監督     ユニバーサル・ピクチャーズ     U-NEXT
コテンラジオで聞いたオスカー・シンドラーの話しに興味が湧いたので、重い腰をあげて、観る事が出来ました。コテンラジオさんに感謝です。
どうしても、個人的な体験を思い出してしまうホロコーストの話しです。もちろん私はユダヤ人ではないし、ホロコーストが事実である証明は出来ないけれど、どう考えても、無かった、とは思えないのですが、とある飲み屋で、全然知らない若いカップルと話しをしていた時に、カップルの男が私に投げかけた「ホロコーストって無かったみたいですね」という問いかけに曖昧な答えをしてしまった事を後悔しています・・・歴史的な出来事ですし、否定派がどんな意図でなかった事にしたいのか?分かりませんけれど、様々な事象を鑑みても無かったとは言えないと思います。
そう相手に言うべきだった、けれど、お互いに酒が入った状況だったし、どういった方が良かったのか?今でも悩みます。
オスカー・シンドラーという人物がどのような人物であったのか?ホモ・サピエンスの善性(と言ったのはコテンラジオの深井さん)とはどういったモノであるのか?を考察するのに非常に興味深い人物であると思います。犯罪者の美術作品をどう評価するのか?という事に似ていると思いますし、吉野朔実著「ピリオド」でも言及されていましたが、殺人を犯す人は殺人の事ばかり考えている訳じゃない、明日の食事の事を考えたりして、生きているわけです。
ナチの党員であり、金儲け主義で、女にだらしがなく、そしてユダヤ人を救ったという事に、興味があったので。
1939年9月、ポーランドを占拠したナチスドイツが首都クラクフでユダヤ人を迫害していくのですが・・・というのが冒頭です。
全然知らなかったので驚愕したのですが、オスカー・シンドラーをリーアム・クワイ・ガン・ジン・リーソンが演じています・・・なんか圧倒的な存在感!!
そして、そのシンドラーの理解者とも違うし、同志とも違うのだけれど、利害関係がゆるい一致を見せるイザーク・シュターンがいる事の物語上の意味が良く分かりましたし、現実はもう少し違ったのでしょうけれど、とても良い関係だと思いました。
オスカー・シンドラーという人の心の移ろい、映画の中のキャラクターとして、史実と違ったとしても、ですけれど、よく分かる理解出来るキャラクターになっていたと思います。
同時に、アーモン・ゲートという人物についても、凄く考えさせられました。人はなんで残虐な行為を行えるのか?それこそホモ・サピエンスの悪性についても考えが及びます。そのアーモン・ゲートでさえ、オスカー・シンドラーの人柄にある意味惚れている感覚があります。
モノクロで良かったと思いますし、様々な建物についても、よくこんな事が出来るな、と感心します・・・
多分としか言えないのですが、無条件降伏の報告があった後の工場でのスピーチは、史実では無かったと思われるけれど、とても良かった。
逆に、車の前での独白は、ちょっとやり過ぎな感じもしましたが、本当にどういう人なのか?余計に分からなくなります、コテンラジオのその後のオスカー・シンドラーについてを聞くと・・・でも、それが、ホモ・サピエンスなのかな、とも思うのです。その時の気分で変わる生き物。
それにしても、久しぶりにスピルバーグの映画を観ましたけれど、本当に上手いというか手慣れている。そして、手堅くて、見事な映画化だと感じました。

「あしたの少女」を観ました

2023年9月19日 (火) 09:22

 

チョン・ジュリ監督   RIGHTSCUBE    吉祥寺アップリンク

台風が近づいた為に、仕事のキャンセルがあって、しかもレイトショーはやってた!ので間に合いました。映画好きな友人から、「観た方が良いですし、多分好きな作品ですよ~」との事で、翌日鑑賞出来ました。

全く何も知らないで、監督も調べない、出てる人も知らない状態で観ましたが、かなりヘヴィーな作品。

社会構造を描いた作品なんですけれど、それ以外の、ダンス、の意味がちょっと理解出来なかったです。多分非常に重要な示唆なんだという事は分かるんですけれど、それが何を指しているのか?推察が至らなかったです、未だに謎。なので自分の考えをまとめた後、いろいろなヒトの感想や批評を読みに行きたいです。

鏡の前でイヤホンで音楽を聴いているために、無音の中で無心にダンスするソヒ(キム・シウン)は高校生です。しかし、研修という名で、所属高校の担任から派遣される会社へ働きに出る事になり・・・というのが冒頭です。

ネタバレは無しの感想ですけれど、公式HPにも書かれていますが、実際にあった事件を基にしたフィクションです。ですが、非常にヘヴィーな案件を扱っていますし、恐らく韓国の状況は普通にうちの国でも似たような状況にあると思われます・・・

それと、時々電話で聞く事がある、

対応品質、サービス向上の為にこの会話は録音されております

という一文が何故必要なのか?凄く身につまされる言葉として響きます・・・

お客とサービス提供者の2者関係が閉鎖された空間であれば、何が起こるのか?それも過酷な競争の中で、何が起こるのか?を描いてもいます・・・とは言え、その客も、かなりの時間待機させられ繋がりにくい環境に置かれている、しかも会社の都合で、となると、弱者にしわ寄せが来るのが当然です・・・

社会構造の話しなので、この結果、改善されたようですけれど、よりアンダーグラウンドな世界があって、そこでは変わらず、ヒドイ事が起こっていないか?少し不安になりました。

演者の主役2名の女性は非常に良かったですし、1名は有名な方が出演されているのですが、観てビックリしました・・・あの映画の時と同じなのでは?という既視感があったからです。

野生の動物の食物連鎖、大変厳しいですし、それと比べたら、人間社会はとても、とても理性的で、社会制度として、恐らく2~3000年くらいの歴史により、洗練された構造を持ち、人権の概念があるフランス革命が起こったからこそ、よりよくなっているにもかかわらず、やっぱり今でも、大変厳しいと言わざるを得ないですね・・・

すべての人が幸福になれる、というのは幻想なのかも知れないです・・・

ですが、より良くするための努力、より進化する為の、さらに救われる為の協力はしたい。

あの光の演出、良かったです。

なんだか結構な確率で、邦画タイトルに文句をつけている感じで申し訳ないのだけれど、いくら何でも、あしたの少女 は伝わりにくい・・・多分監督の前作(私は未見)のタイトルにひっかけているんだろうけれど、「次のソヒ」で良かったんじゃないかな・・・

社会性に興味のある方に、オススメ致します。

「福田村事件」を観ました

2023年9月15日 (金) 09:21

 

森達也監督   太秦   吉祥寺アップリンク

公開7日目の朝一で観てきましたが、物凄く混んでいいましたが、もっと混んでいたのが、山田洋二監督作品『こんにちは、母さん』で、高齢女性が大挙して押しかけていて、誰が観るのだろう?と思っていた作品でしたが、ちゃんと受容はあるんだな、と確認出来たのは良かった。びっくりしたけど。

ネタバレ無しの感想です。出来れば多くの人が観た方が良いのですが、でも観た方が良い人には届かず、何となく、観て溜飲を下げたい層に響くであろう作品になってしまったのではないか?と思ったのが観終わった後の最初の印象です・・・

小池都知事(私は東京都民なので責任がある・・・)や松野官房長官(選挙区は千葉3区)のような人物が現在に存在するうちの国で、非常に重要な事件を扱った、劇映画であり、実際の事件を基にした映画です。

過去の過ちから学ぼうという姿勢が無い、という事が恐ろしいですし、私含むうちの国の集団心理や同調圧力を考えると、本当に恐ろしいのですが、自国民を殺害しているという事実は変わらないわけで、本当に恐ろしです。

もっと言うと、過去から学ぶよりも、自国の良い部分、心地よいものしか見たくない、という姿勢を保守とは呼ばないと思いますし、なんなら無かった事にしてしまう、というのが恐ろしい。心地よい方を選んだ、とも言えるし、ゲッペルスのいう『しつこく同じように繰り返せば、嘘でも信じる』というプロパガンダが今でも十分通用する、という事を現在の国家レベルで行っているのが恐ろしい。しかも報道があっても問題視すらされていないし、既に手遅れな感覚がある。

立場的に、アメリカにおける黒人差別の歴史と同じ構造もあると思います。差別していないという事にしていても、内心恐れているからこそ、そして迫害している自覚があるからこそ、恐れているわけで、それが大きな災害時に、冷静さや事実確認を疎かにしてしまいかねない状況の時に、今でも起こる事件だと思います。

そう言う意味で作られた意義はことのほか大きい。特に邦画では珍しいからこそ、意義は大きい。

大きいんだけど、そして、時系列が必要だし、それなりの時間がかかるのも十分理解出来るんだけど、劇映画としてのテンポの悪さ、136分は、流石に長すぎるし、テンポの悪さが余計に目立ってしまっているのが本当に残念。

役者は総じて良いキャスティングで、中でも東出昌大、田中麗奈、永山瑛太の3名は非常に良い演技で(演出に問題があるとしても)満足です。中でもキャラクターと演者の違和感が最もなかったのが、初めて観る杉田雷麟さんです。凄く存在感含めて、キャラクターに合っている。今後この人が出演する作品なら見てみたいと思わせるに十分な魅力を感じました。

過去の、というか今でもネットが遮断されるような、混乱時に起きかねない惨事について学びたい方にオススメします。

もっと劇映画として、完成度が高かったら、観た方が良い友人の分までお金を払ってでも連れて行きたい作品になってたらなぁ・・・

 

 

アテンションプリーズ!

 

 

ココからネタバレありの感想です。

 

未見の方はご注意くださいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレありの感想だと、まず、主人公の帰国夫婦の話し、カットできたんじゃないかなぁ・・・新聞記者の話しも、基本カット出来ると思う・・・そして出来ればモノクロでもよかったんじゃなかろうか・・・

 

 

 

 

それで100分くらいにまとまってたら・・・と妄想します。

 

 

 

 

村の緊急事態を告げる鐘を鳴らす、というシーンで、私は増村保造監督作品「清作の妻」を思い出さずにはいられなかった・・・そう言う意味で、増村保造監督はやはり偉大。天才的な監督だと改めて実感してしまった。本作で描かれている問題を、既に照射している作品と言える。

 

 

 

 

恐らく「朝鮮人なら殺してもいいのか?」という永山瑛太のセリフが本作を表しています。緊急時なら、とかいろいろ条件を付ければ、私も当然含んで、起こしかねない状況を描いています。

 

 

 

 

それを無かった事にしない為に、本作が作られた意義は大きいのですが、様々な事象を入れる為に長尺になり、かつ演出が鈍重になってしまったのが、個人的には悔やまれます・・・

 

 

 

 

柄本さんの件も、確かに閉鎖的な大正時代の村社会を理解させるために入れるべきだったのは理解するけれど、個人的には切って良い部分なのではないか?と思います(そう言う意味でも「清作の妻」は凄い!)。

 

 

 

 

もっと映画として興味深く出来るんじゃないか?と、増村保造監督作品、そしてスパイク・リー作品を観ていると感じてしまった、というのが実情です。

 

 

 

 

軍人でもないのに軍服を着ている、自尊心を満たすために国家とか軍隊とかより大きな存在に依存している人間がどれほど危険か?を表しているのだけれど、そういう人は見に行かないだろうと思われるので、主義は正しくとも、手法をもっと考慮しても良かった気はするけれど、製作者側の想いもあるだろうし、これはこれで仕方ないのかも。

 

 

 

 

結局のところ、映画化しているフィクションなので、仕方ないのかも知れませんけれど、今作の殺害シーンももっとリアルでも良かったのではないか?とも思うし、何と言っても、その後の加害者がどう罰せられたのか?恩赦があった事実含めて、そこまでは描いて欲しかった。

 

 

 

 

本当の所、女性が最初に手を出したのであろうか?

 

 

 

 

それと、帰国夫婦の夫、村長、そして村民たちの止められなかった、という罪は、個人的にはキツイけれど重いと感じます。傍観し、時流に流されやすいうちの国だからこそ、こういう場合の対処法が知りたい。恐らく、これ以上体制派や主流派に抵抗すると、村八分や実被害を受ける事が分かっているからこそ、みんな傍観する事を覚えたと思うし、そこには空気の支配が発生する個人の無い世界、世間があると思うので・・・

 

 

 

 

だらだらとした感想になってしまったけれど、それでも、作られた事に意義がある作品。 しかし東出くんは、なんだかアダム・ドライバーみたいな立ち位置になっていきそうで、それはそれで凄い。

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