井の頭歯科

「アメリカン・スナイパー」を観ました

2015年4月3日 (金) 09:10

クリント・イーストウッド監督   ワーナーブラザーズ

イーストウッド監督作品、とても高水準な作品が多いですが、今回もとても良かったです。少し前に見た「ローン・サバイバー」ととても良く似た作品だと感じましたが、こちらの方が終盤の重みがより際立った作品と言えると思います。

カウボーイに憧れ、とても保守的でマッチョな父親に育てられたクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)は自分が何をすべきなのか?を見つけられないまま自堕落な生活をしていたのですが、ケニアのアメリカ大使館爆破テロ事件をテレビで見る事で軍隊に入り・・・というのが冒頭です。

予告編でも流されてますが、女性や子供までも銃で撃たねばならない状況に苦悩するクリス。その判断を任されることの重みを、終始一貫考えさせられる作品です。

戦闘行為に従事する、という事が人間にどのような影響を及ぼすのか?を考えさせられる作品、決して単純な戦争翼賛ではないですし、単純な戦闘回避を願う作品でもなく、淡々とした事実を魅せる作品です。

私は観た直後にリドリー・スコット監督作品「ブラックホーク・ダウン」を思い出しました。この作品もアメリカン・スナイパーを観た後のような論争が巻き起こりました。

重いものを引き取る覚悟を持つ方に、オススメ致します。

アテンション・プリーズ!
ある程度ネタバレに触れてしまいます、決定的なネタバレはありませんが出来れば映画を観た方に読んでいただきたいです。

その決断が良かったのか?悪かったのか?をある程度の理解で自分に納得させる事が出来たクリスでさえ、その納得の中にある種の欺瞞が含まれている事に気が付いているからこそ、悩みが発生するのだと思います。当然戦争、というか戦闘行為を経験するという事が、本当は、どういうことなのか?を「プライベート・ライアン」以上に語ってくれます。

救えなかった仲間を想う事で、4回もの派兵に従軍するクリスを、英雄視するような印象を持つ人もいらっしゃるでしょうけれど、そうであると何もかもを置いて家へ帰る選択をするクリスを考えねばならなくなりますし、何より私は弟の存在も大きいと思うのです。また、単純に戦闘を避ける事を是とする作品では無いのも事実です。どうすれば良かったのか?を深く考えさせる作品だと思います。特にイラクの、一般民である人々の生活と置かれた状況、さらに狂信的にアメリカを敵対視する人々の行動は、どうしてココまで来てしまったのか?を考えないわけには行かなくなります。

サダム・フセインやアルカイダが全面的な善ではないですし、それこそ独裁的な支配だったのでしょうけれど、イラク派兵の正当性が崩れてしまった事を考えると、その責任の一端は間違いなくアメリカとその同盟国にあるでしょうし、まだ誰も責任を取っていない、そして総括もされていないと感じます。

途中に出てくるザルカウイの右腕と称される男(ドリル)の振る舞い、手段、目的があまりに酷くて救いが無いです。同じ人間とは思えないんですが、そこまで人間性を破壊してしまうのがこの現実世界なのか?と思うと非常に恐ろしくなります。だからこのような人間を排除すれば良い、とは思えないのです、それこそ、ある種の選別と殲滅を行う事になるのですから。しかしではどうすれば良いのか?という代案が出せない、考えが及ばないです。

。信長しかり、チェーザレしかり(「君主論」のマキャベリですね)ですけれど、新たな破壊の技術や破壊の発想を持ち出すと、その手段だけ模倣されて、規模を大きくしたり、その結果に熟慮したわけでは無い輩が輩出されるんですよね・・・
実在の人物ですが、この映画すべてが現実のものでは無い、とは思います。特に狙撃者との対決、という部分はとてもエンターテイメントな脚色のような気がしました。またエンドロール前のエピローグにあたる部分の実際の映像のように見えるのも(実際の映像だとしても)なんとなく作品のトーンがズレてしまっているとは思います。ただし、最後のエンドロールのヘヴィさは、ちょっと無い作品だと思います。エンドロールの静寂さは、私には思考する事への催促だと感じられました。

まだ終わってないですし、終わらないんでしょうが、だからこそ考えなければいけないような気になりました。

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