井の頭歯科

「デトロイト」を見ました

2018年12月3日 (月) 09:14

キャサリン・ビグロー監督     ロングライド
キャサリン・ビグロー監督作品とは、やや相性悪い気がします。扱っているテーマが個人的に好きになれない部分がありますし、あまりに、あまりな展開も、なんですけど、良い映画でもある気がするし、まさに現代的な監督だと思います。ややマッチョよりな部分が鼻につくのかも、ですけど。でも、過去作の「ハート・ブルー」は良い意味でスリル・ジャンキーの存在を知れたり、「ストレンジ・デイズ/1999年12月31日」の脳内再生機能という面白さ、「ハート・ロッカー」(の感想は こちら )の人の慣れの為に崩れてゆく感覚の怖さ、「ゼロ・ダーク・サーティ」(の感想は こちら )での正義のあり方への描写、と本当に現代性の高い監督さんだと思います。
そんな監督の最新作、しかもジョン・ボイエガが出演と聞いて見に行くつもりだったのですが、忙しかったのと、公開期間がかなり短かったのが影響して見逃してしまったのでDVDで見ました。
2018年見逃し後追い作品その5です。
1967年、デトロイト。その当時はどのような状況であったのか?を2、3分のアニメーションで描いてくれます。この部分はとても重要な舞台設定で、史実的にどうなのか?分かりませんが(私が生まれるたった3年前の出来事です)、とても厳しい状況に置かれている黒人たちの状況を理解させてくれます。そんな1967年のデトロイトにある酒場に、警察が捜査をしに来ます。そこでは裏口から容疑者を運ぶつもりが・・・・というのが冒頭です。
大変難しく根深い問題を、ある事件と絡めながら、しかも当時の映像も差し込む、とてもドキュメンタリータッチで描かれた作品です。人種差別問題とも言えますし、猜疑心と混乱の中での暴力の恐ろしさを描いた作品でもあります。
実際に起きた事件アルジェ・モーテル事件を扱った映画です。ですが、このアルジェ・モーテル事件には様々な要素が深く絡み合い、しかもアメリカの、今でも続く問題がにじみ出ている事件でもあります。
とても説明するのが難しい映画ですし、物凄い緊張感があり、緊迫感が持続して途切れません。まさに生死の境を垣間見ます。
差別の問題も、もちろん重要ですし、なくなれば良いとは思いますけど、大変難しい事だと思います。また、暴力を持つ者と持たざる者の意識の違いを、大変強烈に見せつけてくれます。
無意識の差別、偏見がある事も、強烈なメッセージとして含んでいる作品です。
しかも、1967年、たった50年前の出来事で、しかもまだ、今も解決していません。
今までのキャサリン・ビグロー監督作品の中で、最も面白く、好みで、そして重たく、キツイ現実を向き合わされる映画でした。これは2018年公開作品としてはかなり上位に来る作品だと思います。
警官を演じているウィル・ポールターさん、初めて見ましたけど、もうこの作品の印象しか残らないくらいの強烈な演技だと思います。そして演技だとしても、この人の事を嫌悪しそうなくらいに鬼気迫る演技でした。
そして、ジョン・ボイエガの、まっとうさを、強く感じました。大変難しい立場に立たされ、孤軍奮闘しているのに、それなのに・・・ジョン・ボイエガさんの出演作の中では最も良かった、と思います。非常に厳しい立場に立たされ、それでも何とか『命』を救うための行為を諦めない人物の目の演技が素晴らしかったです。
人種差別という大変根深い問題、そして暴力の問題に興味がある方にオススメ致します。
アテンション・プリーズ!
ここからネタバレありの感想です。未見の方はご遠慮ください。
フィリップ・クラウスを演じたウィル・ポールターが本当にすさまじい、もう悪い人にしか見えません・・・大変な差別主義者で利己的、かつ、他人に罪を擦り付ける事も、事実を捻じ曲げる事も、そして心底白人と黒人の間に「人間」である/ないのラインを引いている男として描かれています。怖いのは、この男が特殊なのではなく、特殊な状況に置かれたら、この男と同じ行動を取りそうな人間がいっぱいいるし、今もいる、場合によっては自分もかも、という事実が恐ろしいです。
だからこそ、ディスミュークスを演じたジョン・ボイエガの、命を救う為に白人と黒人の間を行き来する行為が英雄的にさえ見えました。自らが危険な場面に陥りかねない、恣意的な判断を下しかねない相手に、黒人として立ち向かう事の恐怖たるや、私の目には英雄的行為に映りました。
クラウスに従う2人の警察官のうち、心変わりをするデメンズを演じているが、あの名作「シング・ストリート」のジャック・レイナー!あのお兄ちゃん!!全然分からなかったです、役者さんってスゴイです。で、このデメンズも、結局真実を話したにも拘らず、その後証言を変えて、無罪になっているのが本当に悲しい気持ちになります。司法制度の問題も大いにあると思いますけれど、それにしても、という他ないです。
確かに、警察官としてクラウスの行動は独善的過ぎますけれど、一瞬でも気を抜けば暴徒に襲われる可能性もある街=戦場と考えるのは分かる気がします。でも、その場でも警察官は公権力側なので、十分に法律は守って欲しいです。絶対的な銃という装備をしているのですから。
銃がある、という思い込みに支配されてしまうには、その前にとても緊迫した空気に支配されているからこそだと思います。しかし、そのような状況を作ったのも、ある種の対立が原因です。スターターで黒人の立場を女の子に説明したクーパーのセリフは非常によく分かると感じました。多分、本当に、そう感じているのでしょう。
本当のところは分かりませんけれど、この映画の冒頭の酒場への捜査、捜査している側の警察官も、表通りではいけないという後ろ暗さがある、しかも内部通報者を使っているし、脅しとしても利用している、という事を考えると、いかに状況が悪かったのか、警察側も危ないと思っていたし、危険だとも考えていたわけで、根深いですね。
また、デトロイト出身のボーカルグループ『ザ・ドラマティックス』のリードボーカルをラリー・リードを演じているアルジー・スミスの演技も素晴らしかったです。
恐ろしいまでに緊張を強いられる一夜を過ごしたことで、その後の人生までも狂わされてしまった人々。その後もすさまじいですね。特に裁判結果、さらに、クラウスに話しかけられたディスミュークスの行動、本当に全然終わってないです。
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