井の頭歯科

「ゴルディアスの結び目」を読みました

2014年1月31日 (金) 08:02

小松 左京著    ハルキ文庫

初めて読む小松 左京作品です。なんとなく知っている「日本沈没」の人として知っている小松 左京さんですが、良く考えると読むのが初めてです、本当に読まずにいたのを後悔するレベルの作品でした。
気になる人物であるフィリッポスⅡ世(を知ったのは岩明 均著「ヒストリエ」でしたが、結局アレクサンドロスⅢ世よりもエウメネスよりも、ずっと、フィリッポスⅡ世が気になりますし、偉大な人物であると思います)の息子、アレクサンドロスⅢ世が断ち切った「ゴルディアスの結び目」という文言が出てくる(このアレクサンドロスⅢ世の感想はこちら )ので興味を持ったので手に取りました。
SFの巨匠ですから、当然SFを予想して読んだのですが、ただの空想科学ものではなく、心理描写、抽象描写の、そして文体のクオリティの高さが素晴らしかったです。びっくりしました。なんとなく、日本のSF作家で「日本沈没」というタイトルだけで想像してしまってたんですが、とても凄い作家さんなのですね・・・無知は恐ろしいですし、恥ずかしい事です。
4つの短編集です。そのどれも完成度高く、魔術的で中島 らも的であってなお完成度が高い「岬にて」、表題作で導入といい、結末といい、精神世界と物理学、宇宙と魂を同時に扱いつつ、精神世界に潜るという筒井 康孝的な「ゴルディアスの結び目」、漂流物であり、船長であり、キャプテンの意義を魅せる星 新一をもっとロジック仕立てにした「すぺるむ・さぴえんすの冒険」、なんというか阿部 公房の世界をぐっとSFの世界に近づけたかのような「あなろぐ・らゔ」です。似ていると感じるのはおそらく、小松さんの方が先なんでしょうけれど(星 新一さんは年長者かも知れませんが・・・)私個人の読書歴から感じた方のお名前を出させていただきました、それくらい衝撃的でした。
ネタバレなしでの感想ですが、どれも非常に計算された展開でして、しかし、読み手の予想の上をいく設定が素晴らしい。風呂敷を広げておいて、読み手に予想させて置き、しかし実際にはその風呂敷をさらに包み込むかのようなもっと大きな風呂敷が下にあった!みたいな衝撃が大きいです。
「岬にて」における輪廻性(なんて言葉があるのか知りませんが、そう名付けたくなる何かがあります)をトリップと交え、しかもすべてを明らかにしない部分の上手さが光ります。
「すぺるす・さぴえんすの冒険」における主人公の行動原理、そして「問い」そのものの面白さ、その面白さをロジックで表しつつ、乗り越えた上でのある決断が面白いのです。ここまで短い作品であっても、広げる風呂敷の大きさはちょっと味わった事がない読後感でした。
「あなろぐ・らゔ」における世界観の逆転、普通女性的な視点からを連想させるものであるのを、男性目線に変換する面白さもちょっと無い感覚でした。
ただ、この中でもやはり表題作「ゴルディアスの結び目」の面白さは飛び抜けていて、無垢なる少女の精神世界の話であるんですが、その主題を、くるっと物理学的な事象でくるんだ作中作的な扱いをしていて、さらなる入れ子構造を取っています。しかも日本人の配役といいますか、この世界でのリアルさを感じさせますし、現実世界との地続き感があって怖さを際立てます。
SF作品に興味のある方にオススメ致します。
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