井の頭歯科

「オネーギン」を、パリ・オペラ座 東京公演 で、観ました

2020年3月10日 (火) 11:16

ジョン・クランコ 振付   パリ・オペラ座

シュツットガルトバレエ団のジョン・クランコが振付した名作ですが、最近パリ・オペラ座のレパートリィにも入ったようです。そういえばノーブルの代名詞マニュエル・ルグリがアデュー公演で最期に踊ったのも「オネーギン」でしたね。私も昔にシュツットガルト・バレエの東京公演を観に行きました(の感想は こちら )けれど、その時のオネーギンを演じたエヴァン・マッキーの素晴らしさは、決してパリ・オペラ座のエトワールに勝るとも劣らない輝きがありました。

今回の主役オネーギンを演じるには、日本人に大人気!マチュー・ガニオさんです、もちろんエトワール(パリ・オペラ座の最高位のダンサー)ですし、そして私個人が思う日本人にとっての人気の理由は、2世である、という事だと思ってます。つまり、お父様であるデニス・ガニオがこれまた素晴らしいダンサーで、もちろんパリ・オペラ座のエトワールだったことに加えて、お母様はドミニク・カルフーニです。私の中で今までで1番面白かった、興味深かった、心動かされたのが、ローラン・プティ振付 『失われた時を求めて』で、その中でも、デニス・ガニオとドミニク・カルフーニが出演している版が最高傑作だと思っています。その舞台はつまりマチューにとっての父と母が出演しているわけです。ですので、大変期待しているわけですが、なんとなく、マチューさんは、すごく優しくて、坊ちゃん、な感じがします。その辺が日本人に好かれているのかも、とも思う訳ですが、何といってもパリ・オペラ座のエトワール。それはパリ・オペラ座の期待も大きいでしょうし、2世の方の大変さを想像すると、尊敬に値します。でも私はお父様のデニス・ガニオが好きなんですけれど。それに2世とか関係なくて、バレエの表現、舞台の上で何をしたか?が全ての世界だと思います。(蛇足の蛇足ですが、2世が好きなのってそこに物語が入ってくるからで、しかも血脈という物語は大変強い作用がありますよね、日本人ってこういうの好きなんだと思います。)

恥ずかしながらオネーギンの小説を読んだ事が無いので、話しのあらすじしか分からないのですが、やはり主役オネーギンの心の動きが、その機微がテーマになっていると思います。そういう意味で、男性が主役のバレエ。とても珍しいと思います、普通女性が主役ですから、ジゼルにしても、白鳥にしても、眠りにしても。それでも、だからこそ、の面白さがあると思います。オネーギンのヒロインであるタチアーナはあくまでオネーギンという軸に影響を与える人物でしかない、とも言えるキャラクターです。今回はアマンディーヌ・アルビッソンさんが踊られました。

アマンディーヌさんは私はあまり良い印象を持っていなかったんですけれど、そしてそれは、やや大柄な、という印象だけだからなんですが、踊りは大変美しかったですし、大変大きい空間を支配する感じ、ありました。まるで舞台が狭く感じるかのような、という事です。もっと陽気な、キトリとかだとどうなんだろう?と想像してしまいます。タチアーナとしては、やや大柄、と思いましたけれど、とても良かったです。もちろん好みとしては、もう少し小柄な方であれば、最後の腕と反対に顔を向けて「Get Out」の鋭さが出たように思いますけれど、その辺は好みの問題だと思います。

もちろんマチューさんの雰囲気、オーラは、どちらかと言えば、王子向きだと思います。王子という事は結婚前のナイーブさを内包しているからこその、ダメな選択を選んでしまうからこそ、物語が動く、という大変重要かつ少し抜けている、でも美しい、という難しい注文に答えられるキャラクター、そうはいないと思います。そういう意味ではマチューの王子の説得力は極めて高いと思います。が、オネーギンとなると、1幕では都会の紳士が都会にも飽きて田舎に来てはみたものの、もっと飽きている、なんなら全てに飽きて、虚無さえ感じている若い男を表現しつつ、3幕では、ついに、初めて、心の底から手に入れたい、と思えたのは既婚者でありかつて自分が何とも思わなかったからこそ手紙を目の前で破いて捨てる行為までして去った女性タチアーナであった、という不幸、というか自業自得ではありますけれど、しかし、頽廃した男性であるオネーギンにとってはこの順序でなければ欲しえなかった理由にも配慮がなされた演出でもあり、大変難しい役どころが求められます。

1幕のオネーギンの冷たさ、すべてに飽き飽きしている熱の少なさには、マチューの今までの雰囲気とは異なる、大人の感じ、あったと思います。しかし、3幕でギャップを感じるほどでは無かった、と感じました。1幕と3幕のギャップこそ、オネーギンのオネーギン性なるものの中枢だと思っているので。あくまでマチューが演じているオネーギン、という感じがするのです。これは役者さんでも同じですが、どんな役を演じていても、その人に見えるという役者よりも、様々な役を演じ分ける事が出来る役者を「表現のある」と形容する事と一緒だと思うのです。それでもマチューさんは素晴らしかったです、少しよろける感じを受けたのも、コンディションのせいかも知れませんし、私の思い過ごしかも、とも思いましたし。

公演の最後、カーテンコールで何度もたくさんの拍手を浴びたあと、何度目かの幕が上がってびっくりしたのは、ダンサーや指揮者だけでなく、私は初めて、関係者が私服で舞台袖から出てきて観客席に手を振る、という場面に出会いました。とても暖かな対応だったと思います!そして私服のドロテ・ジルベールさんが観られたのは嬉しかった!彼女の輝きが、例え今では少し陰りがみられたとしても、かつての、あの特別な、神に愛されたかのような、笑顔と踊りには、いつまでも称賛すべき価値がある、と思います。マニュエル・ルグリのスーパーバレエ・レッスンで見せた、まだエトワールになる前の、ロメオとジュリエットの演技の凄さは驚嘆としか言えなかったです。そして相手役はエルベ・モロー!個人的にはかなり好みの人選です!

最後に、コロナウィルスの影響で、舞台芸術は多大なる損害を受けていると思います。政府からは不要不急の外出や不特定多数の集会を自粛要請のある中ではありますが、不要不急とは人によって違う事も理解出来ます。それぞれの判断も重要だと思います。また、ライブハウスに音楽を聴きに行った方が、さも、ライブハウスで、感染した、かのような報道がありますけれど、それを証明するには、その方の行動、その方の近くを通った、同じ公共交通機関を使った人全員が、もっとはっきり言えば確定診断をしないと言えないと思います。恐らく既に多数の無自覚の感染者がいると思われますから。冷静に、そしてそれぞれの判断で、それぞれの行動をすべきです。私は公演を行ってくれたパリ・オペラ座に、NBS(日本舞台芸術振興会)に感謝したいです。

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