井の頭歯科

「TAR」を観ました

2023年6月6日 (火) 09:07

 

トッド・フィールド監督   ギャガ    吉祥寺オデヲン
ケイト・ガラドリエル・ブランシェットが主演なのと、クラッシック音楽に興味があるので観に行きました。ただ、何にも情報を入れてないので、ただ指揮者の話しだと思ってましたけど、全然違った。それと最近なかなか眠れなくて、そのせいで予告編で寝落ちしそうになったのですが、本編が始まると(ちょっと驚愕の、スタッフロールの長さ!)全然眠気が吹っ飛ぶ面白さ!
ベルリン・フィルの首席指揮者であるTAR(ケイト・ブランシェット)はEGOT(エミー賞、グラミー賞、オスカー、トニー賞)の4つすべて受賞している今まで20名程度のうちの1名であり、現代のクラッシック会を牽引する女性指揮者です。タイトなスケジュールの中で仕事をしているのですが・・・というのが冒頭です。
凄く見終わった後に誰かと話したくなる、そんな映画です。すっごく面白かったですし、ずっと考えさせられます、私はこういう映画が好きです。ただ、今作はクラッシック音楽の世界の話しなので、全然知識が無い部分もありますけれど。ですので、伏線や細かな暗喩など、分からない部分もかなりあります、が、それを別にしても大変面白く、ぐるぐると考えられ続けられる映画です。
ネタバレなしの感想ですけれど、監督のトッド・フィールド作品は観た事が無いので不安はありましたけれど、音楽が好きな、特にクラッシックが好きな方なら、オススメ出来る作品。音楽だけでなく、音、に非常に気遣いがある作品です。映画館で観たい作品。
それと、この映画の恐らくテーマはいくつもあるとは思いますが、私が気になったのは、作品と作り手の関係性、それと、成功者の傲慢、という所でしょうか。
このケイト・ブランシェット演じるTARというキャラクターは、かなりの完璧主義者ですし、更なる高みを目指して努力も怠らない能力の非常に高い人物です。ケイト・ブランシェットが演じる事で、とても説得力ありました。もちろん映画的な演出なんでしょうけれど。このキャスティングだけで観る価値あります。
ただ、もし男性だったら、と考えると、凄く見た事がある感じになってます。
それと、完成し、提供された作品と、製作者の関係を描いているのですが、この問題についても凄く考えさせられます。ですが、私は基本的に作品は別だと思いたい。しかし、被害者が、精神的にも肉体的にもいるとしたら、それは別、という事だと思います。この辺の線引きが非常に難しいですし、今読んでいる本で、分類、について学んだのですが、確かに非常に難しい問題を感じます。個々に判断するしかないですし、その情報は共有されるべき。
能力のある人の苦悩、という部分もあります。どんな人にもその人なりの苦悩がある。共感はしにくいですけれど。
音に興味のある方にオススメ致します。
アテンション・プリーズ!
ココからネタバレありの感想になりますので、未見の方はご遠慮ください。
まず、TARの能力が高いのは間違いない。そして理解されにくいけれど、作品や音楽に対しても非常に真摯に取り組んでいると思われる。それは特に授業の場面で、説得力を増しました。
生徒に対して、それもある種の趣味趣向や主義を掲げる人の指導の難しさがあるのに、そこを越えようとする正面からの説得、良かったと思います。私は生徒の考え方は狭量な人物なんだと感じました。それと学ぶ者の態度ではないと思います。思いますけれど、もしかするとそこまでの生い立ちや過去があるのかも知れない。でも、事学んでいる音楽について、最初に外側だけで判断するのはあまり良い考えでは無い気がします。私はこの議論だけなら、TARを支持しますし、行き過ぎた発言はあったかも知れませんけれど、正しい。
でも、自分が正しい、と思っている人は、他者に異常に残酷にもなれるのが人の恐ろしい所ですよね。
そしてとても皮肉が効いている。後に、この場面を、歪曲して、切り出して、悪意を持って、広められてしまうのです。指導している側と、受けている側の違いとか、そういう捉え方ではなく、悪意を持っている、という事に対抗する手段のない状況に追い込まれます。凄く皮肉。そしてこの学生をSNSで魂を作られている、とまで言ってしまっていましたし、正直TARでなくとも、日常の何処かの場面を切り取り、悪意を持って晒される危険がある事も示唆されていると思います。そして犯人が誰なのか?ワカラナイ示されません・・・恐ろしい。
しかし、人にカメラを向けるって本当に暴力的ですね。私はいつも思うのですけれど、謝罪会見とか、世間様、に対する記者会見を行う場合は、是非、取材される側からもカメラで納めておくべきだと思います。非常に不公平だと思いますし、正直、世間様に申し開きをするよりも、被害に遭った人に行った方が良いし、それは報道しなくていい。取材される側から見た画像は、相当醜悪なモノになると思いますね、恐ろしい。
つまり、最初はTARがある種の信頼には値する人物で非常に能力の高い人物である事が示されます。当たり前ですけれど、完璧な人間はいませんから、傲慢に見えますし、強引でもありますし、上に立つ事でしか出来ない、権力を持った人間として描かれています。ですが、権力を持った人間は、必ずと言って良いほど、過信からくる過ち、増長します。
これが男性なら、凄く良く見る古くからいるタイプ。ここで珍しいと思うのは女性だから、ですし、その女性であっても、取り繕う、嘘は上手くないんだな、という事くらいですね。
それまでも似たような話しはたくさんありますし、同じだと言いたいわけではありませんけれど、団員の投票で行われるべき案件にTARが介入して是が非でも新人チェロ奏者を入団させようと言うのは、芸術の世界では、個人的にはあって良いと思います。しかもTARの巧妙な所は(というか悪だくみであろうと成功しなければ意味が無い)他の団員にも納得の実力を見せて、その上でソリストを決めている。これだけなら問題ないです。もし、感情があろうとも(とは言え結構歳は離れているでしょうし、送った先の挨拶で手の甲に、の場面の こぼさないように! の場面はなかなか笑えます)。
ただ、事実としてなんでわざわざNYに連れてったのか?という部分もありますし、結局この後語られるんですけれど、TARだって、コンサートマスターであった付き合う前のシャロンにベッドを共にしたことで教えてもらって、のし上がっていた事が分かるわけです。
凄く男性的なキャラクターで、まさに独善というか、英雄色を好むというか、まぁ権力を握れる状況、絶対的な関係にある人は男女の差が無く、恐らく自身の欲望に忠実になれるのでしょう、私も含めて人間なんてその程度の存在でもあるのだと思います。
けれど、その人間が、美しい音楽を作ってもいるわけで、不思議です。
そんな誠実に見えたTARが、徐々に落ちていく様、それも身から出た錆とも言えるのですが、それまでも同じような手口で、同じように使い捨てられた結果、自殺してしまう女性指揮者クリスタとの関係は、描かれていないのですが、同じアシスタントでもあり女性指揮者でもあるフランチェスカの失踪、そのノートパソコンでのメールでの嫌がらせでも分かるように、かなりのネガティブな執着を見せています。
それなりの関係性があったのでしょう。
このクリスタという人物の自殺がスイッチとなって、TARの凋落が始まります。
これまで、かなり政治的手腕、能力を使って強引にでも操ってきた(とは言えパートナーの薬を黙って拝借する程度には不安定、その自覚もある)権力を握っていたTARが、落ちていく様はこれまでのテンポから考えると、異常な速さです。そういう編集の妙を感じますし明らかなペースチェンジ。
特に神経質になり、聞こえるか聞こえないか?ギリギリの(オーケストラのリハ場面で、指揮者TARが微妙なバスドラのロールを要求している場面との対比!)不協和音に悩まされていきます。冷蔵庫の音や、何故動き出したのか?不明なメトロノーム、果ては車の中の振動音までもが、気に障っている。そして眠れなくなる度合いが高まっていきます。
ついには、マエストロでさえなくなり、ま、映画的には実際の生演奏を邪魔する場面はありますけれど、警備体制含めて、これは私はTARの夢で見た程度の事じゃないか?と推察しました。流石に。
告発を受けた後は、省略に次ぐ省略、という感じで、どんどんと落ちていきますし、実家の兄(?)から衝撃の、TARでさえ偽名で会った事が明かされます・・・ココ結構衝撃的。かなり作られた虚像であった事が明かされるのです。
その後、実家のビデオでバーンスタイン(知らなかったですけれど、パンフレットで説明されています)の子供向け番組を観ます。これが恐らく再生への、底を打った状態なのだと思います。しかし、割合簡単過ぎませんかね・・・
その後、フィリピン?もしくはベトナムの何処かでマッサージをフロントに教えて欲しいと言った先で、これ以上分かりやすく 人身売買 を連想させる場面は無いであろうマッサージ店で、嘔吐するわけですけれど、これもとにかく後半1/3くらいはテンポが速すぎて、理解するだけで細部までワカラナイのですが、恐らく、自分の行動を振り返ったのでしょうけれど、嘔吐するまで、行きますかね?私は案外こういう人物は、ここでも楽しんでるんじゃないか?と思いますね。だって、今までだってそうしてきたし、権力を握り、チカラを持たせれば、人間は欲望に忠実になりますし、それを経験しているわけで、しかも権力志向の強い人物な訳ですから・・・
ラスト、私は分からなかったのですけれど、ゲーム音楽の祭典の場面だったそうです。それならば日本で行うべきだったし、それだと、凋落した感じが出ないのでは、という映画的な配慮があったように感じます。それって凄く、失礼な話しに見えるのは、ちょっと問題。それと、ゲームの音楽はそれなりに難しい劇伴のような難しさがあるので、なかなか簡単にはいかないんじゃないかな?
でも、最初のTV向けインタビューの場面の会話がいちいち伏線になっているように感じたのですが、当たり前ですけれど、ちゃんと練られた脚本で凄い。
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