井の頭歯科

「コンビニ人間」を読みました

2025年6月7日 (土) 09:30

 

 

村田沙耶香著     文春文庫
さて、とても有名な芥川賞を受賞した作品です。村田沙耶香さんの著作の中でも特に有名な作品ですし、売れるきっかけになった作品だと思います。
はい、大変面白かったです。
村田沙耶香さんの作品を読んでいて思い出したのは絲山秋子さんです。絲山秋子作品はその後それなりに読みましたし、ちょっと体温低めの文体、とても好ましく感じましたし、とにかく展開が早い、大変にコスパが良い。だから短編で売れた作家さんだと思います。とても似ている部分があると思いました。
ただ、当然全然違う点も多いです。
村田作品の主人公に共感出来る人はあまりいないのではないか?と思います。たった2編しか読んでないので、何とも言えないのですが、「授乳」と「殺人出産」と比べて完成度めっちゃ上がっている感じがしますし、その上読みやすくなってる。そしてエンタメ性が高い。
だから文学賞も受賞するでしょうし、逆に尖ったものが好きな読者からは丸くなった印象を受けると思いますが、多くの人に読まれる事は良い事だと思います。
コンビニ。凄く利便性の高い、だからこそ商品の価格は一般的に高め、そして現在2025年のコンビニはまるで役所のような存在になりつつありますよね。様々な要求に答える役所の機関を代替わりしているような存在でありつつ、利便性は落とさない。
私もコンビニバイト経験者ですが、それは40年近く前の話しなので、今の、公共料金の支払いとか、宅急便、ネット決済、カード支払い、交通系icカード、ポイントの付与、その種類の多さ、棚だし、商品補給、アルコールの販売、タバコの銘柄番号、等々、どう考えてもかなりの配慮が求められる職種です。非常に専門性が高くなっていると思います。
それなのに、海外の方々が働いている率がかなり高い。これは恐ろしい事だと思いますね。そして恐らくその海外の方々は一時滞在者で、永住権は無い人たちなんだろうとも思いますし、凄く複雑な感情を想起してしまいます。インフラを自国民で賄えない状況はマズいと思いますし、その人たちに権利を与えない場合は、とても危険な気がします。
そんな場所を舞台に選ぶのが面白いです。とても2025年の今読んでも現代的。そして主人公も今まで読んだ中では、同じように共感は全くしないけれど、理解はできるキャラクター造形になっています。人格障害、もしくは行き過ぎた合理性、またはソシオパス気味な感覚。
ただ、この物語を味わうという意味では楽しめたし興味深い感覚はあるのですが、何か示唆があるか?と言えば、あまり無かったように感じました。エンタメ性の消費という感覚に近い。もっと文学ならではの感覚に陥らせて欲しい、というのはあります。
ムラ社会、確かに、とは思えど、それなら逆に避けるで、良い気がしますし、変化を求めるの、白羽さんからの提案ではなく、古倉さんから、なんで、もう少しその動機なり、変化への合理的判断があっても良かったのかな、とは思いましたが、でも物語が動かなくなってしまいますので。それに変化を求めていた、という事実だけで良いのだと思います。
絲山作品よりも、凄く主人公ですら、登場人物のほぼすべてがかなり平坦で凄く役割を演じられているようにも感じられますね。
白羽さんも相当なキャラクターですし、古倉さんも、もちろんですけれど、出てくる人皆一応に、生活感、生きてる感が低く、それよりもまさに登場人物っぽく描かれているように感じました。
白羽さんというキャラクターの禍々しさ、それを指摘できる合理性がある古倉さんでも、変化を求めているという理由だけで、他者との関係を結べるその単略性には驚きがありましたけれど、あまり意味を見出せなかったです。
それと、普通を意識してしまうと、普通が何だか分からなくなるものですが、そもそも普通は基本的に良く分からない、その時々で変化する常識的な何かである場合がほとんどで、時代が違うだけで、もちろん変わりますし、意味合いそのものが変化するので、なかなか扱いにくいですけれど、ムラ解釈は面白いですね。
読みやすい、は大変有用な事ですけれど、読み易いだけが重要視されるのは違う気がしますが、大変コスパの良い作家さんだと感じました。
コンビニにお世話になっている人に、オススメします。
ブログカレンダー
2025年6月
« 5月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  
アーカイブ
ブログページトップへ
地図
ケータイサイト
井の頭歯科ドクターブログ