井の頭歯科

吉野朔実さん・・・

2016年5月6日 (金) 11:47

吉野朔実作品はかなり独特だと思います。



絵柄も余白を奇麗に感じさせてくれますし、ある意味独特ではないかも知れませんが万人が奇麗と思える絵に、さらにセンスを感じる構図が多くて好きです。


そして何よりも1番特異であるのはストーリィだと思います。


心理描写に優れ、伏線の貼り方の自然さ、その回収の見事さ、さらにすべてを回収しないで読者にある程度想像の余地を残すバランスが非常に心地よい作家さんであると思います。扱う題材も、とても心理的、精神的な題材を扱っています。代表作である「ジュリエットの卵」は二卵性双生児が主人公でありながら、その人物の二面性や関係性を深く掘り下げる事で、人の心の中の不可思議な部分を、その相反する複雑な心の揺れを丁寧に描き出してくれます。


二面性とか双生児とか、生まれながらの特性、持って生まれて(持たない事でも同じ)しまった欠落感を特徴的なトピックとして扱うのです。ですから因習といっても良い部分もあります。また結末も少々変わっていて、決してアンチクライマックスなわけではありませんが、混沌とした世界を飲み込ませるチカラのある結末が多いと思います。私の最も好きな作品「恋愛的瞬間」は典型的な学園モノと言えますがクライマックスのような出来事が起こるわけでもないのに、ちゃんとしたクライマックスが毎回感じられるカタストロフィある傑作だと思います。人は誰しも幸福にならねばならない、という信念を持つ心理カウンセラーの教授のゼミ生であるハルタくんの話しです。映画で言ったら名作「(500)日のサマー」マーク・ウェブ監督作品のような感じでしょうか?映画より少し哲学寄りな話しではありますが。いつまでも忘れられないセリフ「大丈夫、いつかきっと酷い目にあえるよ」というこの言葉だけ取ってみれば悪意しか感じられないかもしれませんが、このセリフは温かみの基に発せられるセリフなんです。


心理面の機微を描くので、精神や心理にも洞察が鋭いですし、友人に精神科医春日武彦さんや詩人の穂村弘さんがいるのも納得です。だからこそ、ある種の犯罪行為を扱った「記憶の技法」という作品はまるで良質なサスペンススリラーです。映画にしてもきっと素晴らしい作品になると思います、ストーリィにもキャラクターにも、そして絵にもヒロガリ(想像させる余地)があると思います。



また脇のキャラクターのエッジが効いているのも特徴だと思います。大人向けとして青年誌に書かれた「瞳子」という作品の主要な3名の主人公もさることながら、その中のひとりの母親(扇状に広がる読みかけの・・・)がとても印象に残るキャラクターです。主人公のひとりが言う「新譜のレコードを買って、早く家に帰って聞きたい気持ちを抑えて、喫茶店でコーヒーを飲む幸せ」というような主旨の発言が、そのアンビバレントさを表しています。セリフのカッコよさ、センスの良さも吉野朔実作品の特徴だと思います。


などと書き連ねていくときりがないくらい、おそらくほとんどの作品を読みましたが、どの作品もハンコを押してあるくらい吉野朔実作品だと感じさせる何かがあります、好きな人はすごく好きになりますし、そうでない人にはあまり響かないかも。


読書がとても好きな方で、本の雑誌に読書に関するエッセイマンガも連載していました。このシリーズも大好きでした。タイトルが秀逸で、「お父さんは時代小説(チャンバラ)が大好き」とか「お母さんは『赤毛のアン』が大好き」だとか、好きな本で相手の好みが分かってしまうかのような部分をくすぐるタイトルで面白いです。



読書がとても好きな方で、本の雑誌に読書に関するエッセイマンガも連載していました。このシリーズも大好きでした。タイトルが秀逸で、「お父さんは時代小説(チャンバラ)が大好き」とか「お母さんは『赤毛のアン』が大好き」だとか、好きな本で相手の好みが分かってしまうかのような部分をくすぐるタイトルで面白いです。



亡くなられたのが本当に残念です、新作が読めなくなるのかと思うと悲しい。吉野朔実作品に巡り合えたのは本当に良かったです。

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