ハン・ガン著 きむふな訳 株式会社クオン
初めて読む韓国の作家。もちろんノーベル文学賞をお取りになったから読めるようになったんだと思います。そういう意味でノーベル文学賞はデカいけど、これはどのような賞でも思いますけれど、選考委員の問題を考えてしまいます。が、とにかくうちの国の作品の受け手は『世界の』が付いたり『賞』が付いたりすると観る人が多くなるので、流通するようになるのですが、選考する人の意向が強く反映される場合、歪んだ形になる気がします。
典型的なのが、芥川賞と直木賞ですね。選考委員の、文学ムラへの入村基準だと思ってます。うちのムラに入れて良いかどうか?を決める基準なので、作品の評価では無いと思いますし、アメリカのアカデミー賞はまさに取るべき作品が採らない、もはや何のための賞なのか?関わる人々の関係性の話しに見えます。
それでも、知らない作品、そんな事言ったら、ホモサピエンスの生きていられる時間をいくら使っても、これまでに発表され残ってきた、所謂古典的名作と言われるモノ全てを履修する事はもはや不可能な世界です。出来るだけ吸収したいし味わいたいけれど、ある程度選んでいかないと難しいし、当然受け手にも好みというモノがありますし、この間衝撃を受けたアガサ・クリスティーの「春にして君を離れ」のように人生の経験を積まないと理解出来ない名作もあるわけです。
手に取れる機会を与えてくれた事には感謝しつつ、初めて読む韓国文学でしたが、そういう些末な事よりも、文学作品として、なかなか変わった作品でした。確かに面白い。
連作短編でそれぞれに関わりがあるのですが、恐らく、私が個人的に受け取ったテーマは女性の生き難さ。これに尽きると思いますし、周辺から中心に向けて徐々に語り手が移っていく作品です。
現代の韓国で暮らす会社員の視点から見た妻の変化、それも夢を見た事による変化に戸惑う夫の、一見社会性のある一成人の視点から見た異変なんですけれど、それが如何に一面的であるのか?を考えさせられます。
その後に続く、一般的とは言い難い職種で、しかしだからこそ、かなり踏み込んだ事件が起こるその描写。
最後に明らかになる女性の視点から見た、姉妹から見た場合でも理解不能な中心人物の変化と渇望。
この構成はかなり異質ですし、それなのに気づかされる上手さがあると思います。
文体で言うと、凄く、村上春樹っぽい。言っちゃなんだけど、っぽい。でもそれは翻訳の問題かも知れませんし、もしかするとリーダビリティ高い、という工夫の結果なのかも知れません。
韓国映画は今までにも見てきたけれど文学は初めてだと思いますし、かなりの重さもあり、好みの作家でしたので、もう少し読み込んでみたいです。
コメントを残す