井の頭歯科

「大澤真幸THINKING『0』第8号 『正義』について論じます」を読みました

2010年12月28日 (火) 08:53

大澤 真幸、宮台 真司著             左右社

やはり、今年面白かった本の中でも、上位に食い込むこと間違いなしは「これからの『正義』の話をしようーいまを生き延びるための哲学」(講義の方が面白かったとはいえ!)マイケル・サンデル著です。その『正義』について社会学者の宮台さんが、やはり社会学者の大澤さんとの対談まとめた本です。かなり薄いですし、正直便乗している部分も相当に感じますけど、しかし『正義』うんぬんというより、自分の知らないこと、考えもしなかったことや思考実験、読み終わった後に考えさせられたり、今まで見えていた景色と同じものなのに違って見えるかのようなセンスオブワンダーのようなものが詰まっています。その部分に、私は非常に面白さを感じさせます。やはり当然ですが、『正義』には人を惹きつけるチカラもありますが、妄信させるチカラもありますし、「人の数だけ『正義』は存在する(知り合いのお言葉ですが、確かに!)」のですから。そこをどうすり合わせたり、干渉しないように立ち回れるルール(道徳やモラル、法律から生理的嫌悪を感じさせるテクニック等含む)を作れるか?だと思うので。

いつもどおりの宮台さんの語り口ですし、またまた難しい単語や用語も多くて完全に理解出来ているのか?は微妙なのですが、新鮮で面白いと思ったのはフリーライダーというか過剰依存の問題とミメーシス(模倣、感染的模倣)という問題です。

行政に過剰に期待、依存することが普通になってしまったという問題は確かに違和感が凄く大きかったです。自分から問題を投げ出しているかのように感じさせますし、ニュースみ切り口としての欺瞞を感じさせますし、行政側への「監視行為」と「監視してくれてなかった」の両方に責任を求める都合の良さを感じさせますが、これよりもっと面白いと思ったのが、ミメーシスという話題です。

社会的に行き詰った状況を打破するのは計算されたチカラではなく(損得という利害で動くだけではない)、スゴイ人(利他的に見える)を真似てみたいと思うことから始まるのではないか?ということです。利己的ではないけれど、カリスマ性があって(それも特に非常時に)価値ある行動が取れる人を真似たく、協力したくなることが大きいのではないか?という宮台さんの考えの更に先を大澤さんが言及しています。それはキリスト教の「善きサマリア人の喩え」という話しの怪我をした人というカリスマ性を持たない人が起こしたミメーシスにならないか?という議論です。これはかなり面白い考え方だと思いました。確かにカリスマ性を持たない人を契機にして利他的行動が起こっています。

また、この話題を受けて「無痛文明論」森岡 正博著(かなり前に読みましたが、非常に面白い本です!)に話しが及んだり、政治家という平時でない時の覚悟を試される職業としての話し(マイケル・ウォルツァーの先制攻撃容認論)に及んだりする部分も非常にスリリングで面白かったです。さらに進めた「理想自我」と「自我理想」という概念もかなり考えさせられました。大澤さんという方は非常に柔軟かつ、キリスト教的な考え方を下地に持っている方なのではないか?と考えさせられました。

「正義」よりも「考える」ということに興味のある方にオススメ致します。

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