井の頭歯科

「荒野へ」を読みました

2011年5月12日 (木) 09:20

ジョン・クラカワー著     佐宗 鈴夫訳     集英社文庫

映画「イントゥ・ザ・ワイルド」が凄く面白かったので、原作が読みたくなり、早速購入して読みましたが、非常に面白く映画を補完してくれる作品でした。

ドキュメンタリー調の、著者クラカワーさんがクリス・マッカンドレスの足跡を辿り、資料をあたり、クリスの出合った人々に話を聞き、それを基にクリスが大学を出てからアラスカの森で餓死するまでの道を時系列で表した書です。

1992年の4月に裕福な家庭に育った若者クリス・マッカンドレスがヒッチハイクでアメリカを駆け回り最終的にアラスカの荒野に単身徒歩で分け入って4ヵ月後に餓死しているところをハンターの一団に発見されるというショッキングなニュースの前日譚を出来る限り忠実に(残された日記や出合った人々から話を聞くことで)再現します。

何故クリスがこんなことを行ったのか?どうして学業もスポーツでも優秀な青年が家族との連絡を絶ち、単身自然に立ち向かっていったのか?そして何故餓死という凄惨な結末を迎えたのか?そしてクリスという青年が何を考えていたのか?に迫るノンフィクション、映画よりももっと細かく描かれていて、非常に面白かったです。

映画では割合かっこよく脚色されている部分ももちろんあるだろう、とは思っていましたが、確かにそういう部分もあるものの、人間クリス(といいますか、やはりここではスーパートランプを潜り抜けたクリス)に肉薄できていると思いました。本人が既に亡くなっているわけですから、あくまでクラカワーの想像の世界ではありますが、私には説得力もって響きました。

私個人はクラカワーが言うほどクリスに落ち度が無かったどうかには、比較的興味がありませんでした。恐らく、クラカワーがこれほど擁護しなければならないほどのバッシングがあったのでしょう。しかし、クリスのミスは致命的であり、そして実際に餓死しているわけですから、取り返しの付かないミスであることは明白だと思います。が、それでも、クリスの周りにいた人々との一瞬の火花が散るような濃密な魅力を携えた人物であり、ミスを犯す可能性があっても、いやそれを十分認識していたからこそ、チャレンジする意味を見出していたのではないか?と思うのです。そして、そこまで徹底的に突き詰める様が、滑稽でもありますが、その徹底さが突き抜けているからこそ、クリスに魅力を感じるのだと思います。ストイックで純粋なことは、愚かでもありますし、何もかもを一人のチカラでこなすのは非常に無理があることを理解しつつ、それでも挑戦しなければ生きられなかったクリスの、そこに魅力があるのではないか?と。誰しもが思っても出来ない行動だからこそ、です。

私はアウトドアライフに全くと言っていい程憧れも興味も無い人間として育ちましたが、何かを1人で成し遂げたり孤独と対峙するという姿勢に好感を持ち、そして実行に移したという点においてクリスを尊敬出来ます。非常に苦しい死に方であろうことさえ許容できる覚悟であったのではないか?と感じさせるのです。

ストイックなことに意義があると思える方にオススメ致します。

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