井の頭歯科

「切腹」を見ました

2017年9月22日 (金) 09:25

小林 正樹監督     松竹

今、仲代達也さんが個人的に気になっています。時代劇研究家の春日太一さんが仲代さんにインタビューした書籍も読んでいるのですが、その中に仲代さん自らが自分の出演作を1本を選ぶなら「切腹」です、とおっしゃっている部分を読んで興味が湧きました。

天下分け目の決戦、関ヶ原の戦いから30年後の江戸。赤備えとして武勇の誉れ名高い井伊家の武家屋敷に、一人の武士、津雲半四郎(仲代達也)が戸を叩きます。関ヶ原の戦いの後に主家が没落改易となり、浪人に身を落とし、生活もままならぬ貧窮極めた事から、このまま生き恥を晒すよりは潔く切腹したい、つきましては庭先を貸してはいただけぬか、と。この時代に浪人となった武士のゆすりの手段として横行していた行為ではありますが、井伊家でお目通りが叶い・・・というのが冒頭です。

オープニングの不穏感と重厚感はすさまじいものがあります!武家屋敷でみかける鎧をライトアップしているだけなのですが、不穏感しか感じません・・・タイトルもすさまじいですが、その題字の書にも重々しいものしか感じません。

津雲半四郎の声が最初は聞き取りにくいと思いましたが、聞きなれるとその低い声の迫力、痩せこけた頬とは裏腹に鋭く眼光が光る大きな目がぎょろりとしているだけで圧力があります。生半可の覚悟ではない、生死を賭けた覚悟を感じさせます、なにしろ切腹ですから・・・

津雲半四郎=仲代 達也に相対する井伊家の家老に、全然見ていて気が付かなかったけど、三國 連太郎、その部下にも丹波 哲郎という布陣です。ある若い侍に石濱 朗という方は知らなかったですが、凄く良かったです。

三国さんの演技の老獪さ、非常にクールに見え、いわゆる喰えない感じの人物像なんですが、ここからの変化が素晴らしいです。

丹波さんの非常に鍛錬を受けた剣の使い手だからこその、冷徹な感じがまたイイです。途中にはさまれるとある決闘シーンの、風景もすさまじいですが、すべての侍の決闘シーンの完成形がここにある!と感じてしまいました。それくらい、オーソドックス化されたイメージの原型で完成形だと感じました。

切腹、という概念まで考えさせられるこの重厚な脚本、素晴らしいです。様々な事を考えさせられます。私は単純に江戸時代が素晴らしかったなんて全然思えないのですが、それでも、とても考えさせられます。

苛烈な身分制度、切腹という行為に興味のある方に,、仲代達也さんに興味ある方に、オススメ致します。

アテンション・プリーズ

少しだけネタバレありの感想をまとめたくなりました。映画を未見の形はネタバレがありますのでご注意下さい。

ある程度、本当に僅かですが、切腹について、武士道については理解しているつもりですが、西洋的価値観からはまず生まれない発想だと思っています。潔い最後、武士の矜持を保つために死に際にさえ様式美を持つ(もちろん、私の理解の範囲であって『本当のところ』は違うのかも知れませんが、行為を考えると、いわゆる罪や罰ではなく『恥』を嫌い立場を重んじる事なのでは?と理解しています)わけですし。

武士道の素晴らしい部分もあれば、現代の価値観では理解しえない、そぐわない側面もあるわけで、この辺が全面的な礼賛する事が出来ない部分でもあります。

というような事を観る前までは考えていたのですが、実際は本当にすさまじい映画でした。

厳しい身分階級制度については、社会科で習った知識しか無かった私が、吉村昭や司馬遼太郎の歴史小説を読むことで少し分かりかけてきたところに出会ったのが、みなもと太郎著「風雲児たち」という漫画でした。

正直、江戸時代の歴史を学ぶなら、この漫画を読めば、軸は出来上がるので、後は好きなものをインプットする事で肉付けも比較も出来る優れた歴史漫画です。しかもギャグで行っているわけで、その点も素晴らしいのです。

中でも「宝暦治水事件」の薩摩藩家老・平田靭負の事件を思い起こさせます。

非常に苛烈な身分制度を敷いて、いわゆる封建社会を築き上げた徳川幕府の徹底した管理の結果、何が行われたのか?という事を理解させられますし、正直現代にも通じる問題を扱っていると思います。

そして重要なのが、津雲半四郎の言い分も理解出来るが、家老の判断にも一定の理解すべき部分がある、という事です。津雲は、自らが天涯孤独になった事で、この行動が取れる部分が大きく、だからこその最期なのですが、家老の立場であれば、津雲を認める訳には絶対にできません。
死を持って償う、という重いテーマを扱いつつ、考えさせられる作品に仕上がっています、見て良かったですし、もっと仲代達也を見たくなりました。

“「切腹」を見ました” への1件のコメント

  1. […] これは小林正樹監督「切腹」(の感想は こちら […]

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