井樫彩監督 CULTURE PUBLISHERS 新宿ピカデリー
2025年公開映画/2025年に観た映画 目標52/120 25/68
観れる時間でこの映画にしました。この後にスーパーマンを観る予定で、その前の時間で観たい作品の中でこのタイトルに惹かれたからです。そして観て良かった。
映画の作品としての完成度、演出、ストーリーと、どれを取っても、とても優れた作品と言い切るのは難しい。そして、だからダメな作品というわけではない、というのがある事を気づかせてくれる作品でした、私にとって。
人はどれほど恵まれた環境にいても、欲望は尽きないし、本人がツライのであれば精神的にも肉体的にも、負荷がかかった状態だと思います。どんな人にもその人なりの困難があり、状況だけで恵まれているとは言えないと私は思います。ラジオでどなたかが言っていましたが「その人なりの地獄がある」は言いえて妙だと思います。
私は私の困難に立ち向かうしかないし、それは生活の中で起こる。
母子家庭で母親から依存されている宮田(南沙良)は大学とバイトの掛け持ちで・・・というのが冒頭です。
若い監督と若いキャストで作られた作品の、その勢いみたいな熱はあまり感じられませんし扱っているテーマもかなり重いのでそれは仕方が無いけれど、決して完成度の高い作品では無いけれど、観て良かったです。
ある意味、ラストは大変心地の良いモノだと思います。
主人公は比較的受動の人なので、この映画のエンジンは江永(馬場ふみか)が担っているのですが、このキャラクターが素晴らしかった。
毒親という単語も凄いんですけれど、過干渉、そして共依存を求めてくる人の加害性は一考の価値があると思います。そしてそこから自由になる事で、得られるモノ、捨てなければならないモノ、が峻別されていくわけです。その選択をいつ行うのか?それもその人の決定であり、外野が口をはさむ事ではないのかも。
劇中、宗教のようなモノが出てくるんですけれど、果たしてこの行動はどうだったのか?無宗教というか神はいないし、なんなら人間が神がいる、と思わないと理不尽な事が多すぎて精神的に耐えられないから作った、という説を信仰している私からしても、本人の自由なのでは?とは思いますけど、違和感はありました。
馬場ふみかさんを観たのは「ひとりぼっちじゃない」ですけれど、ホモサピエンスの造形として素敵。今作の服装はどれも良かったし似合ってる。ただ、ホモサピエンスの造形が素晴らしければ、くたびれたTシャツでも美しく見えるのはしょうがないので。
それと役者さんって本当に凄いなとおもうのですが、全然違ったキャラクターを演じていて、そのキャラクターに現実味を持たせられるの、凄いです。
特に今作の江永というキャラクターはかなり現実味が薄く、特異なキャラクター像なんですけれど、説得力がある。一見自暴自棄に見えて、それなりの境遇にいて、それでも自分を持っている。
そんな彼女が自らを肯定する言葉に対しての返答が素晴らしかった。
私は基本的に家族というのは檻であり、澱が溜まる存在機構だと感じていて、血の繋がりってそんなに大切なのか?非常に疑問を感じます。それがどんなに魅力的に見えたり、恵まれているように見えても、それだけじゃない。もちろん世界を知れば知るほど謙虚にならざるを得ないけど、それでも澱は溜まる。
孤独の方がずっと自然なのだが、それは自分が決める事で家族がいない孤独な人であれば家族という形態に希望を見出すでしょうし、人それぞれ。
トルストイの「アンナカレーニナ」の冒頭、あの有名言葉はある意味正しい。それでも家族という血のつながった他者は圧力にもなりうる。
家族という幻想に違和感を持ったことがある人にオススメします。