井の頭歯科

「北方 三国志」の続き 10~13巻最終巻読みました。

2014年2月21日 (金) 08:58

北方 謙三著      角川春樹事務所

1~3巻の感想はこちら

4~6巻の感想はこちら

7~9巻の感想はこちら

一気に最終巻完結までです。

夷陵の戦いが始まるのですが、その前にかなりの分量を割いて描かれるのが張飛の死です。

北方三国志は、その人物の散り際を描くことに長けた魅せ方をするのが特徴なんですが、中でも張飛、そして呂布には特別の思い入れを感じました。張飛のキャラクターもそうですが、三国志演義よりもずっと正史寄りで、なおかつ現代的でロマンティシズムに特別な価値を見いだす人物に描かれています。

この張飛の最期はとても丁寧に描かれています。愛嬌のある力持ち、怪力で部下思い、兄である劉備を立て、汚名を着ることも厭わない。まさに漢(とかいてオトコと読ませる)の中の漢です。

そしてついに劉備の最期が描かれます。私が初めて三国志に触れた際も(中学生向けの三国志演義でした)義兄弟3人のうち、生き残るのが劉備とは思わなかったので、驚いたのをよく覚えています。その劉備の散り際もまた非常に丁寧に描かれます。ついに北方三国志で作者の思い入れを感じさせる主要人物は諸葛亮たった一人になってしまうのです。

この後、北方三国志の勢いは残念ながらとても削がれていると私は感じました。そしてここから諸葛亮を主人公に、その対抗に魏の司馬懿、呉は基本的にほぼ脇役でチラリと陸遜が出てくるくらいです。諸葛亮の南蛮遠征の大舞台はかなり縮小、孟獲を7度捕まえる話しもとても短く、彩り豊かな異国情緒もありません。しかし、その代わりにとても趣向をこらしてくれる部分があります。それは玉璽(皇帝の印)の行方と馬超の行く末です。

三国志の正史でも演義でも、好きな人にとって割合気になって謎な部分に玉璽の行方があります。董卓の洛陽炎上の際に孫堅が持ち帰り、孫策が遠術に質草として兵を借り入れる際のあの玉璽です。その後玉璽がどうなったのか?を描いた話しは見たことが無かったのでとても新鮮でした。その上、この話しに張衞と馬超を絡め、遠術の娘を出すのはとても面白いと思いました。とても細やかな配慮と独自演出が光る場面だったと思います。

そして馬超の視線はこれまでの三国志には無い視点でした。読者の視線をもとめるのに上手い演出だったと思います。ひっそりと亡くなっていく馬超の意味を、斬新な演出で魅せてくれます。こういうのは大好きですし、物語の奥行きを広げてくれます。

ついに諸葛亮の最期。ここで物語は終わります。それは切り方としてなかなか上手いとも思えますし、物足りなさも感じてしまう部分でもあります。三国志の世界をどう描くか?というのは、それこそ様々なやり方がありますし、それぞれの作者の演出や重点にお置き方が存在します。それを、漢の三国志に、それも正史に近い立場で行うのであれば正しい選択だったかも知れません。そういう意味では北方三国志を読まれるのであれば、個人的には既に三国志の世界をある程度知っている人向けなのではないか?という印象を持ちました。

長い物語のざっくりした感想としては、あくまで人物に光を当て、その中でもロマンティシズムに、ハードボイルドに、重きを置いた三国志だと思います。勢いと汗臭さは十分ですけれど、群像劇で13巻という事を考えると、少し登場人物に少なさを感じましたし、もう少し人物の意外な面、多面性を出して欲しかったです。あくまで蜀漢を主人公に扱い、三国志の一つを担う呉の存在が魏と蜀に比べて少なさを感じてしまいました。三つ巴の面白さをもう少し出してくれても良かったのではないか?とも思います。男臭さを感じさせるキャラクターの膨らませ方はとても工夫感じるのに、それ以外との格差をあまりに感じてしまうのもちょっと。多分趙雲が少なかった私の恨み節かも知れませんけれど(笑)。諸葛亮の能力や先見性を司馬懿との対比だけで描くのもちょっと無理があったとは思いますが、諸葛亮にはあまり思い入れが無かったのではないか?とも思います。やはりダントツで呂布なんでしょう。そして周瑜と張飛が続いていて、それ以外にはちょっと距離を感じました。それはそれで構わないのですが、大変大きな物語、しかも群像劇という事を考えると、もう少し配慮して欲しかった部分です。それでも補ってあまりある馬超や玉璽の扱いや諜報戦の描き方があるのですが。

三国志の世界を既にある程度知っている方で、とくにロマンティシズムに親和性のある方にオススメ致します。

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