井の頭歯科

「デモンズ95」を観ました

2015年7月24日 (金) 11:27

ミケーレ・ソアヴィ監督    コムストック
私はホラー映画弱者です。もちろん有名な作品で人から押されると見てしまうんですが、ホラー映画文脈が分からなかったりします。ゾンビとはこういうモノだ、とかこのシーン(構図、伏線、ガジェット・・・)は○○のオマージュだ、とかやたら3作目や5作目とかありますし。そうは言いながら、見ていないのに結末やストーリィは知ってたりするのでまたたちが悪いんですが。でもこの映画はなかなかに凄い作品でした・・・
フランチェスコ・デラモルテ(ルパート・エヴェレット)はいつの頃からか、埋葬したはずの人が7日後にリターナーとして蘇って人を襲うようになったイタリア(?音声の選択でもワカラナイ英語をしゃべっているようなんですが・・・)墓地の墓守を仕事にして暮らしています。相棒のナギ(フランソワ・ハジー・ラザロ)とリターナーの頭部を物理的に破壊して再埋葬しています。町に雇われているのですが、町の人間は誰も信用してくれませんし、唯一の外部の人間で話せるのは市役所に勤めるさえない男だけで、しかも電話もあまりしてこない。そんなデラモルテの墓地に埋葬される男とその未亡人が現れ・・・というのが冒頭です。
正直、ゾンビものをちゃんと見たことが無いホラー弱者の私でもこの映画の凄さを感じられました。もちろんホラー文脈でないと掬えない『何か』は私は理解出来ていないとは思いますが。とてもスタイルある監督が情熱を持って作り上げ、それに役者の演技が、カメラの映像が、音楽が、背景やライティングを含む関わったすべて熱量が正しい方向に向かった稀有な作品。ゾンビなんて現実に存在しないし、という野暮な現実に引き戻される感覚が生じさせる隙を与えない作品であり、技術の高さから生まれる完成度と未完成だからこそ生まれるチカラ強さの両方を併せ持つ稀有な作品だと感じました。また、いわゆる実在のゆらぎを扱っているのでとても哲学的。そういうところも好みの作品です。

スプラッター作品なのではなく、この世界観を受け手に自然に映画の中に埋没させられるのが本当に素晴らしい。残虐描写はもちろんありますし、かなりキツイ性的描写もあります。決して万人に向けられた作品ではないかも知れませんが『不条理さ』という誰しもが逃れられない現実の世界の、性的な側面を、残虐性という側面を持つ人間のメタファーを、といろいろ十分に感じさせる作品。

死という避けられない状況に慣れ親しむという事がどのような諦観を生むのか?という部分についても考えさせられます。

そして主役フランチェスコ・デラモルテを演じたルパート・エヴェレットのうつろな存在感がタマラナイです。映画そのものを、もし出来るだけ簡潔に形容するのであれば「耽美、倒錯そして実在の不安」と言ったところでしょうか。本当に響く作品でした。そして直にではなく薄い何か越しの、感覚に余計な耽美感があります。
様々な登場人物が様々な行動を起こすのですが、そのどれもが「やむにやまれず」といった自身のアイデンティティに根差した欲望やら承認やら衝動のための行動で、それが余計に悲しみを生んでいると思います。
デラモルテとナギのバディ感もたまりませんし、2つの世界の断絶(生と死、町と墓地、聖者と愚者、男と女、等々)を描いた傑作でもあると思います。

ホラー表現や性的な表現に耐えられる大人、もしくは大人になろうという人にオススメ致します。

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