井の頭歯科

「日本のいちばん長い日」を観ました

2020年9月15日 (火) 09:30

岡本喜八監督     東宝

「激動の昭和史 沖縄決戦」(の感想は こちら )も本当に凄い映画体験になりましたが、今作も凄く考えさせられます。流石岡本喜八監督、と思ったのですが、この作品は最初は小林正樹監督が内定していたようですが、降りられたので岡本喜八監督になったそうです。

ポツダム宣言 その内容を文章で簡潔に表記し、昭和20年7月26日にそのポツダム宣言を外務省が受信する場面から始まります。翌27日、首相官邸閣議室にて内閣全員が出席の基に、伝えられます。国民にポツダム宣言をどう発表するのか?で議会は揺れます。そして閣議は積極的に報道しない事で決着。しかし、否定も肯定もしない事に陸軍内から反撥意見が出る事で、首相が記者会見を開き、重要視しない、と発言。しかしこれを繰り返してる事から記事は黙殺へと変容、その記事を海外メディアは黙殺から、無視になり、そして無視が拒絶へと変容していきます。8月6日、広島に原子爆弾投下。20万人の命が奪われる。8月8日ソ連が参戦、8月9日宮城内地下防空壕にて最高司令会議が開かれる最中に長崎に原子爆弾投下の報が入る。結論を得ないまま首相官邸にて閣議会議が開かれ、戦争継続か終結かと言う議論が交わされ続けます。しかしまたもや結論が出ず、御前会議を行いご聖断を仰ぐこととなる。ここで天皇陛下は速やかなる終結を指示されます。8月10日、条件的宣言受諾をスイス大使を通じて伝えます。8月12日条件的受諾の回答が得られ、有名なSubject toの解釈をめぐって論争になります。その上で、再度天皇陛下のご聖断を仰ぐこととなります。8月13日陸軍大臣へ天皇を隔離し東京に戒厳令を引くという陸軍部のクーデターとも言える立案です。8月14日午前、2回目の御前会議が開かれ・・・というのが冒頭です。このアバンタイトルまで、大変重みのある演出、画像が続き、いよいよタイトルが出る事で、動き出す、いや映画が走り出す瞬間の演出が見事です。

この昭和20年の7月末から8月14日2度目のご聖断までも、様々なドラマや紆余曲折があったと思います。もっと言えば、昭和天皇陛下の心情を考えると、その前の小磯内閣組閣時よりも、恐らく敗戦にもっと踏み込んだ意識があったのではないかと個人的には思います。

史実に基づく作品ですから、そしてノンフィクションの映画化ですから、おおよそ一次資料を基に作られていると思います。最近はとても歴史修正主義的な動きを肌で感じますけれど、あくまで映画ではありますが、史実に近かったのであろうと、個人的には推察します。

先ず何と言っても、鈴木貫太郎内閣総理大臣の笠智衆が、素晴らしかったです。飄々としているにもかかわらず、重みで言えば、三船敏郎扮する阿南惟幾陸軍大臣を軽くあしらえる、凄み、を感じさせてくれて、本当に素晴らしかったです。なかなか出せるものでは無いと思います。年齢的にも説得力がありました。画面に現れるだけで、その存在感が凄いです。

そして、三船扮する阿南惟幾陸軍大臣の、凄み、部下数万人の命を預かっているという重み、大変説得力があります。以前、先にリメイク版を見てしまっているのですが、そちらでは役所広司さんが演じていらっしゃるのですが、もちろん、役所広司さんの魅力は大変なものがありますし、重みも感じましたけれど、これは三船敏郎の生きざま含めた説得力、修羅場をくぐっている、と感じさせる目のチカラが、そして笠智衆にいなされる、その素直さまで含めて、凄かったです。役者さんって本当に凄いです。

これに対して海軍大臣米内を演じる山村さんのある種の洒脱さ、ある種の軽さ、は対照的に感じました。この対称性もいい演出、キャスティングの妙だと思います。

そして陸軍の、とてつもなく観念に偏った、これまでの被害や今後の行く末よりも、観念にこだわった考え方の恐ろしさを感じます。

最近よく考えるのは、<観念>について、です。大変日本的な考えだと思います。私が観念で最初に思いだすのは高山彦九郎です。彼は大変な人物ではありますし、その行動も、思想的な影響も大きいと思います。が、観念として日本、それも天皇というモノを捉え、考え、敬い、尊ぶわけです。その人として、それで良かったし、同志を募るのも重要だったと思います。が、この思想、観念に同意しない人への攻撃性が恐ろしいと思うのです。凄く一神教が邪教と言って敵視するかのような感覚があります。

そういう意味での観念を持った軍部が、自らお守りする天皇陛下を拉致し、周囲の人間に敗戦を言いくるめられているという非常に不敬な行動を取ってでも、自らの観念の正しさをより重要視する考え方が、恐ろしいと思います。

「昭和16年の敗戦」猪瀬直樹著に詳しいのですが、軍部だって観念の世界に居るわけではなく、現実的に机上の計算はした上で、東條は、あくまで机上の空論、として片づける辺りの、罪(と言っていいと個人的には思うんですけれど)はいかように後に検証され、批判されたのか?とつくづく思います。

映画は8月15日の正午を持って終わるのですが、その後のナレーションと字幕で表される、観念とは違う、数字で示される、圧倒的な敗戦の結果を、どう考えたらよいのか?私はまだ答えが見つかりません。

いわゆる左派の言うところの戦争を避けたい、という観念で日本国憲法を堅持する、というくらいにショックを与えるに十分だったと思います。

また右派の中でも、勝つ事が出来た、などと簡単に言いだせる非常に自己愛の強い観念に捕らわれた人の発言には、恐ろしくなります。陸軍の暴発した青年将校のような不敬さを感じます。

大変重い映画ですけれど、傑作でした。

日本の国籍を持つ人や、日本に住んだ事がある人に、オススメ致します。

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