井の頭歯科

「私、オルガ・ヘプナロヴァー」を観ました

2023年5月15日 (月) 09:11

 

トマーシュ・ヴァインレプ、ペトル・カズダ監督   crepuscule films   シアター・イメージフォーラム

1973年に実際にあった事件を基にした映画です。どこまで事実に即しているのか?は不明ですけれど、かなり忠実な監督の意図を感じる事が出来たのが、この作品の評価に普遍性を持たせていると思います。

学校へ行かねばならない朝に気分が優れないオルガ(ミハリナ・オルシャニスカ)は・・・というのが冒頭です。

ネタバレではないと思われますし、私もだから観に行こうと思ったので、宣伝にも使われていますけれど、チェコ最後の女性死刑囚22歳、の話しです。

ネタバレは避けての感想ですけれど、かなり好感持ちました。

非常に特異なキャラクターである、ある種恵まれた環境に生きる20代の女性が、どのような経緯で事件を起こしたのか?という事を、恐らくかなり忠実に映画化しています。そして無駄にセンセーショナルにしようとしていない、恐らく盛りは少なめだと感じました。何を見せたいのか?という監督の意匠を感じられます。

裕福な家に生まれ、しかし、自尊心を満たす事が出来ず、コミュニケーション力の低い女性であるオルガの、何をもって自尊心を満たせるのか?をまず描いていくのですが、これもwiki調べではありますが、ある程度事実のようです。学校になじめず、家でも疎外感を募り、病院、職場を転々とするものの、家族からの援助なくては生きていけないオルガ。そして、自らの置かれた状況を自ら好転させようとしているのか?という部分を嫌が応にも見せつける監督の視点、カメラワークや画角含めて、客観性を感じました。

観た人が、どのように判断するのか?意見が分かれる可能性も含みつつ、しかし丹念に描いています。

ある場面で、この映画を終わらせる事も出来たと思うのです。

しかし、監督はその後まで映画化している。

この点から、私はこの監督は、観客に判断を任せていると感じましたし、事実、オルガは手紙を残しているのですが、その言葉をどのように受け取るのか?も判断を保留していると思いますし、観客に委ねています。

いくらでも、センセーショナルに出来たと思うのです。

しかし、そうはしなかった点を、個人的には評価したいし、好感を持ちました。

いわゆる犯人への共感を基にした映画的なカタルシスを求めなかった映画ですけれど、もちろん、物凄くスリリングです。

しかし言葉の強さ、選び方、凄くイイです。予告で使われているので引用しますけれど、

「サイコパスでも、私には見識がある」

こういうのは見事。フックとしても上手いです。でも本当にこの言葉を使ったのか、は不明。

何故人が人に危害を加えてしまうのか?が気になる方に、オススメ致します。

 

 

アテンション・プリーズ!

 

ココからはネタバレありの感想です。未見の方はご遠慮くださいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、オルガの言い分は何処まで信憑性があるのか?について、事件が起こるまでをかなり時間をかけて描いているのですが、理由は判然としない虐めや疎外感があるのですが、確かに、そうオルガが受け取っても仕方ない部分もあると思いますけれど、逆に、え、なんで?という事も多かったと思います。

 

 

 

 

特に、最初のガールフレンドであるイトカとの出会いも含めて象徴的なんですけれど、彼女の気を引こうとする手段のヤバさを含めてオカシイですし、関係を継続させるための手段として家をプレゼント、というのも重すぎますし、別れた後もイトカの家の扉の前で待ち伏せって、相当怖いです。

 

 

 

 

オルガ自身も、周囲を受け入れてないですし、歩み寄ろうともしていない。

 

 

 

 

そして当然家族の中で異常に奇異な存在なんですけれど、どこまで、実際の所父親からの暴力があったのか?疑問に感じる事が出来るようになっています。

 

 

 

 

確かに、映画の中で父は一言も発していないどころか、オルガを心配する素振りも感じない為に、オルガが拒絶するに十分ですけれど、そこまでに何があったのか?実際に子供への暴力があったのか?はたまたいわゆる家父長制家庭の中で父親が娘の教育を全て母親に丸投げしていたかのようにも取れる演出になっていて、疑問を挟めます。

 

 

 

 

つまり、映画の主人公ですし、一挙手一投足が全て映し出されているオルガの語り手としての信憑性、については疑問を挟める作りにしてあるのです。 特に、事件の後、弁護士との会話で、強く意識させられるのですが、家族からの暴力や職場の疎外感は、自らの行動の結果でもあったのでは?という部分、さらに統合失調症や精神疾患についての詳しい精査がなされていない事も、とても重要だと思います。

 

 

 

 

極めつけがラストの面談での自らの名乗り、そして執行に向かう際の態度ですね。 この突き放した、エモーショナルにしない作り方に、この映画の意義を感じました。

 

 

 

 

仮に、の話しですけれど、私には、オルガが確かに精神的な問題を抱えた人間であり、サポートが及ばない孤立をさせてしまうと、社会に対して強い憤りを感じ、中には事件を起こす人が存在しうる、という事なのでは無いか?と思ったのです。

 

 

 

 

もちろん、実際に虐待を受けて、職場や病院内でも疎外感、そしていじめを受けた、とも取れる作りにはなっています。 しかし、ここまで映画を観た方ならば、それがどの程度の信憑性があったのか?は不明ですし、これは映画であって、ドキュメンタリーですらなく、演者を使った作り話である、しかしより忠実に作り上げ、この事件から学ぶべき事がたくさんある、という監督の意図を感じました。

 

 

 

 

死刑制度についても、考えさせられますし、本人が望んでいる事を行うのは如何なものかな?という事についても考えさせられます。

 

 

 

 

と、いろいろ客観的な事を言ってますけれど、まず、主演のミハリナ・オルシャニスカさんの魅力だけで引っ張ってるのが凄い事です。十分に主演の眼差しと力があります。いくら猫背で歩こうとも、タバコを吸う眼差しや手つき、主演の凄みを感じましたし、実際のオルガに何処まで人間としての魅力があったのか?は結局不明なんですよね。でも、映画を観ている時はオルガにくぎ付けです、素晴らしかった。

 

 

 

 

あと弁護士の人もイイ演技でした。

 

 

 

 

父の不在という観点からも映画を解釈出来るような気がするんですけれど、どちらかと言えば母親との関係性の方が深いし問題を孕んでいるように見えました。良くも悪くも父は不在過ぎるし、完全に関係ない人に見えますね、この辺は違う解釈の人と話してみたい。

 

 

 

 

オルガを脱社会的存在、と捉えられる部分もありますし、そこを興味本位に取り上げるのも分からないではないのですが、監督はそれを意図していないと思いますし、治療を受けるべきだったし、都合3回ほど医師と向き合うチャンスがあったのですが、うまく行かなかったですし、そう言う意味で言えば不運。

 

 

 

 

出来れば死刑ではなく、もっと治療をしたり分析しなければならなかったと思います。

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