井の頭歯科

「aftersun/アフターサン」を観ました

2023年6月20日 (火) 09:29

 

シャーロット・ウェルズ監督   ハピネット A24   吉祥寺アップリンク

映画好きの友人、そして様々な人が絶賛、いや大絶賛している作品なので、予告編も見ないで行きました。かなり解釈の開かれた、それでいて芳醇な101分。初監督作品とは驚きです。最近の初監督作品の水準が高すぎませんか?というくらい凄いです。

 

 

何度も、恐らくはビデオテープの巻き戻し、それもビデオカメラのような今では見かけなくなったテープのビデオを巻き戻し、再生を繰り返す機械音が鳴る中で、様々な場面がザッピングしたりデジタル上で混ざったりしています。今から20年くらい前でしょうか?そんな感じの中、ビデオは11歳の少女ソフィ(フランキー・コリオ)が空港と思われるところで手を振っています・・・というのが冒頭です。

 

 

この作品は、11歳の少女ソフィと、その父カラム(ポール・メスカル)がヴァカンスにトルコに行った際のビデオ撮影と、ソフィの想像、空想で成り立っている映画、と解釈しました。

 

 

 

実際のビデオに収まっているのは、恐らく事実。それ以外の場面は空想、妄想の可能性がある、と言えると思います。

 

 

 

まず日常の場面の切り取り方がとにかく上手いです。光の加減、その空気感まで、非常にリアル、そして何処か、確かに、懐かしさ、ノスタルジーを感じさせるのです。

 

 

 

もちろん、恐らくは1990年代後半?辺りの世界を描いているので、小物や美術がそうなのだと思いますが、ノスタルジックに感じられるのだと思います。スマートフォンなんて無い時代の話し。それだけで新鮮に感じます。

 

 

 

 

その1990年代くらいのトルコのリゾート地での、ソフィと、そしてソフィの母とは離婚した父カラムの数日間を描いています。

 

 

 

多分、初見ではワカラナイ仕掛けがいろいろと張り巡らされているでしょう、そしてどちらかと言えば、何度も鑑賞させる、という事ももちろん視座の中にあると思いますが、多分、いや個人的には、この映画が何だったのか?を思い出しながら思索する事を目指している作品なのでは?と感じました。その方がこの作品の、思い出す、という構造に合っていると思います。

 

 

 

なので、ある種の信用できない語り手、であるソフィの、それも自身も当時の父と似た境遇になった事で思い当たる、もしかして、という部分について思いを巡らせているのではないか?と感じました。

 

 

 

これは、父カラムをどのような状態であるのか?を考えないと、なかなか解釈が開かれ過ぎている、と取る人いらっしゃるのかも知れません。そして私も、観終わった最初はそう感じました。しかし、あれ?とかこれ?とか思い巡らせていると、何となく、こういう事なのかな?という部分が出てきた気がします。

 

 

 

これは解釈が様々に存在して良い作品。そう言う意味で大変面白い、誰かとまた話したくなる作品であるのは間違いないです。それもかなり緻密に積み上げられ、組み込まれ、あれ、この順番で!という驚きがあります。

 

 

 

あなたの11歳の頃ともう1度巡り合えるかもしれない作品。

 

 

 

私が11歳の時は、本当に何も思い出が無いです、特に普通の日常を過ごしていたのでしょう。本当に記憶が無い・・・

 

 

 

すべての11歳を過ごしたことがる、31歳以上の人に、出来れば娘さんのいるお父さんには是非のオススメです。

 

 

 

凄く、思い出す、行為そのものを描いた傑作。

 

 

 

 

アテンション・プリーズ!

 

ここからは、ネタバレを含んだ、感想というよりは、私の妄想です。映画の感想は間違い含めて、自分だけのモノ。特に今作はそれが非常に開かれている。だからこそ、私の解釈じゃなく、妄想です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、カラムはどのような状況に置かれていたのか?について、あまりやらないのですが、いろいろな人の考察を読みに行きました。 そのほとんどが、性的マイノリティ、もしくは自身の性自認に問題を抱えていたのではないか?という感じでした。確かにソフィも大人になっていると、パートナーは同性のように見える。 その解釈は全然納得出来ますし、音楽からの解釈もある種納得です。

 

 

 

 

納得なんですけれど、個人的には、映画は映画に中の情報で完結したい、と考えています。あくまで私個人の解釈の仕方が、という事です。

 

 

 

 

例えば、監督の自伝的映画、今だと「フェイブルマンズ」でスピルバーグとかでもいいんですけれど、製作者の自伝的な映画だから、この解釈は監督自身がこうなので、こうである、という考え方も良いのですけれど、あくまで映画単体の解釈でもいいんじゃないかな、と思います。映画の中だけで完結して欲しい、という私の勝手な想いこみもあると思います。

 

 

 

 

そして音楽にそこまで詳しくない、というのもあると思いますし、英語歌詞の内容が理解出来ない、というのもあります。

 

 

 

 

なので、私がこの映画から受け取ってカラムの状況は希死願望のある人、という部分までしか分からないし、あくまでぼかされていることは、ぼかしたままでも良いのではないか?と思った、という事です。

 

 

 

 

ある種のうつ傾向のある人、ネガティブな思考の持ち主、しかし、結婚して娘という子供を持った、もう少し踏み込むと、子を持ってしまった、という感覚があるんだと思います。

 

 

 

 

だから、ソフィに対してだけ、大人な、親の顔を見せる事で精一杯な状態なのではないか?と思うのです。

 

 

 

 

だからアンニュイな状況だし、もしかすると、あの海への歩き、は大人になったソフィの想像部分でもありますし、結果、裸でソフィのベッドで、寝ていて締め出している、という状況はかなり親としてアリエナイ行動なんですけれど、その状況をソフィが解釈すると、という事なのだと感じました。

 

 

 

 

だから、あくまで想像だけれど、この11歳の夏の思い出以降、恐らく、ソフィはカラムと会っていない、なんなら、あの空港での別れの直後に自ら命を絶った、という可能性が強く示唆されていると感じるのです。

 

 

 

 

風景は日常のノスタルジックなヴァカンスシーンなのに、BGMが恐ろしいほど悲しいのは、このためなんじゃないか?と感じました。だって、ビデオ映像にBGMは入ってないはず、だから、このBGMが聞こえるのは、全部、ソフィが心の編集として入れているのだと妄想しました。

 

 

 

 

理由は、分からないですし、希死願望の根っこには性自認問題があるかも知れない。けれど、それよりも、もっと強く感じたのは、この11歳の夏で永遠に会えなくなった、愛情があった、あるいは愛情以上の感情があったソフィの、何度も繰り返して考え続けている頭の思考を映画化したんじゃないかな?と思います。あくまで私の解釈、ですけれど。

 

 

 

 

そして11歳のソフィは、ある意味恋も恋愛感情も知らないけれど、恐らく、カラムに、はしかのような恋めいた感情を感じて、それをどう扱って良いのか?困ってるように見えます。

 

 

 

 

ビリヤードが上手い事で、大人っぽく扱われたソフィの感覚が、急に男女の関係性に、多分興味が湧くからこそ、ビデオではない映像で、若い男女のシーン、水中での急な接近をまじまじと観察していたのだと思います。それまでにも、そのように、大人を観察しているように感じました。

 

 

 

 

だからこそ、一緒にカラオケもしたかった。それは叶わなかったけれど、ダンスした、というのがソフィにとってかなり重要な思い出なのだと思います。それこそラストダンスなわけで。

 

 

 

 

だから、夢の中、大人になったソフィは、31歳のカラムと踊る事が出来た。個々にこの映画の救いがあると思います、31歳のあのヴァカンスを一緒に過ごした当時のカラムと、30歳くらいに見える子供を持ったソフィが、夢の中でダンスしている。

 

 

 

 

そして、だからこそあのビデオカメラは、ぐるっと回って、後で思い出せるように、金欠で故郷にも帰れないカラムが、一つは絨毯に、そしてもう一つはビデオに、今、最後の親子を取り貯めておきたかったのではないか?と感じました。きっとこの後に、世界から去っていく決心がついていたかのように。

 

 

 

 

そう言う意味で凄く切なく、そしてそれ以上に、あの時どうしていれば防げたのか?をソフィがずっと、頭の中で考えているのではないか?と、私は受け取ってしまいました。そしてとても納得できるのが、カラムの表情、そしてBGMです。

 

 

 

 

これは私が女じゃないからワカラナイけれど、このソフィは、ある意味、似ていて違うのでしょうけれど、でもそれを言葉だと淡い恋としか表記出来ないです。もちろん親に恋愛感情なんてオカシイのですけれど、ソフィは自分が娘だと理解していても、それ以上の何かしらの親愛なる感情を抱いている、ように私には見えました。

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