井の頭歯科

「ローリング・サンダー」を観ました     Rolling Thunder

2025年9月3日 (水) 09:33
https://www.youtube.com/watch?v=oZLGWRI169k
ジョン・フリン監督     アメリカンインターナショナルピクチャーズ     シネマート新宿
2025年公開映画/2025年に観た映画   目標52/120   33/86
ポールといえば、マッカートニーではなく、シュレイダーでございます。
そのポールが脚本をしている作品で、タランティーノ監督が大好きという名作と言われていますけれど、サブスクには何処にも入ってない作品・・・とても見にくい状況にあります。
それがシネマート新宿さんでやっているので、観に来ました。観れるの嬉しいです。
飛行機をバックに、デニー・ブルックスの「わが町サン・アントニオ」といういわゆるカントリーミュージックが流れ・・・というのが冒頭です。
確かにポールの仕事で、ポールの作品でした。現代2025年の感覚で捉えると、つまり2025年で解釈すると、違和感のある部分もあります。しかし、それでも、ポールの映画。
1973年を舞台にしたベトナム帰還兵を扱った映画で、公開は1977年。ベトナム戦争にアメリカが軍事介入しだしたのは1961年とされていますけれど、1975年まで戦争は続いていますから、いかにベトナム戦争が長かったのか?を感じます。
そんな状況の中、ベトナムで捕虜生活を7年続けて故郷サン・アントニオに戻ってきたレーン少佐(ウィリアム・ディヴェイン)はまさに軍人の鑑ですし、故郷の英雄なのですが、もちろん7年の捕虜生活で心身共に深い傷を負っています。
まだPTSDという言葉すらなく、帰還兵の苦しみさえ理解が遠かったであろう1977年にこの映画を作っているのは凄い事だと思います。
そこには、故郷の英雄だったり、軍人の鑑としての男ではなく、常に周囲との壁、それも説明出来ない、経験した人にしか分からない壁、外からの他者の目のギャップと、内なる自身からの現実 感 の遠のいたかつての感覚が戻らない壁があるように、私には見えました。ここの部分、観た人それぞれに違った印象で、解釈も開かれています。
あまりに深い傷なので、普通の生活に戻れない、しかしそれでも生きて行かねばならないレーン少佐の、厳しい、厳しすぎる現実。
唯一、同じ生活を送った部下のジョニー伍長(トミー・リー・ジョーンズ!が若い!)だけが正直に話せる人です、同じ経験を負っているから。
そんなベトナム帰還兵にさらなる追い打ちがあり・・・とまるで昭和残侠伝シリーズのような、鬱屈が溜まる様が続くのですが、これがなかなかヘヴィーです・・・
そしてもっとヘヴィーなのが、非常に厳しく、苦しく、ヘヴィーであるのに、その事実から眼を背けているわけではないけれど、全く、レーン少佐には、響かなくなってしまっている、という事実が重いんです。
ここは受け手である観客に、委ねられていると思いますし、この映画を観ても、ヒロイックでカッコイイ、となる人もいれば、ストレスがたまる映画、と感じる人もいるでしょう。私は心が完全に死んでしまった場合の恐ろしさを克明に描いた作品と捉えました。
友人であり、しかし妻からの告白の後、単純な友人とは言えなくなってしまったクリフに言う拷問に勝つ方法を話すレーン少佐の目、その言葉の重さ、観ている、作り物の映画を観ている観客にも、のし掛かってきます。
個人的に、最も違和感があったのが、リンダの存在、です。このキャラクターの扱い、難しいでしょうけれど結構重要です。池のシーン、どのような状況でリンダが生きてきたのか?が分かるのですが、何故レーン少佐だったのか?が、どうしてももう少し何かが欲しかったです。もし悪く解釈すると、完全に巻き込んだ、使えそうだったから、で終わってしまうし、妻ジャネットとの対比であったはず。
ネタバレにならない範囲でなのでここくらいまで、ですが、ジョニー伍長の、一家団欒からの父の言葉、発せられる家族構成の中で、ただ、父だけがジョニーが何処に向かうのかは分からないけれど、挨拶をしている言葉に、真摯な挨拶を返すシーン、見事。
世界がある種無音になってしまった男が、心動かされ、ただ1人だけ、かすかな繋がりを感じる友人と、決着を付けに行く。確かにベトナム戦争を扱った映画は多いですし、その心理的傷までを扱うモノも多い中、確かに異色の映画ではありますが、めちゃくちゃにヘヴィーでした。
私が観に行った回の、観客の濃さ、ちょっと異常な感覚ありました。完全な好事家が集まって、終始無言、ほとんどの人が個人の男性オジサン、稀に女性二人組がいるくらい。そして、まぁ分かるけれど、私的には全然違う鬱屈の作品で、個人的にはさほど面白味を感じない「狂い咲きサンダーロード」ファンも結構いました。全然違う映画だと思うんだけど・・・
ベトナム戦争に、男性の狂気に、そしてある種の愛に興味のある方にオススメします。
アテンション・プリーズ!
ここからはネタバレありの感想です、未見の方はご遠慮くださいませ。
ネタバレありとしては、
とにかくなんでこんなにてんこ盛りにしたのか?ってくらいなんですけれど、7年の捕虜生活、身体も精神もボロボロだけれど、軍人としての動きだけ条件反射で、出来る。しかし本当は何も感じなくなってしまったレーン少佐の唯一のかすかな気がかり、心の動きとしての息子だったのに、その息子、そして妻ジャネットもクリフに懐いている、邪魔者は自分、という状況です。しかも故郷の人たち、サン・アントニオの人々は、何も考えずに、故郷の英雄として、その振る舞いを期待されている事をレーン少佐も理解していると思います。だからこそ、その場合に出せるカードが、軍人としての規範的行動、しかない・・・それしか出来ない、日常の、普通の父、夫、男、人という行動が出来ないレーン少佐の苦悩・・・妻に裏切られ、その友人にも、仕方のない出来事だとしても傷つけられ、街の人々からは英雄としての行動を勝手に期待され、賞金を贈られたら(それもわざわざ捕虜生活と同じだけの日数の銀貨・・・悪気は無いにしろ、それは傷つくだろう・・・)、それが強盗を家に呼びこみ、拷問生活が長く、拷問を愛する手段で乗り切ったレーン少佐が、メキシコ人相手の拷問で音を上げるわけもなく、右手首を失う・・・
この際も、決して右手首が失っても構わない、というのではなく、私個人の見解ですが、拷問をする相手を愛しているから、答えられない、と言う感じがするのです。
そして自らも銃撃され、妻、子供も亡くなり、自分だけが生き残る・・・
リハビリをし、それこそ唯一の気がかりであった息子の仇を討つ為に、と言いつつ、私には、仇が討ちたい、というよりも、それ以外に何をすれば良いのか?ワカラナイという風に見えるのです。ここに最大の悲劇性を感じます。
ここでリンダを連れていくのは、確かに打算はあったと思いますが、巻き込む事へ感覚すら麻痺しているように見えます。(勝手に)近くに居て、話しかけやすく、いう事を聞いてくれそうだから、なだけで、リンダでなくても良かった。
だからこそ、リンダの個人的な生い立ちを池で射撃練習をしながら聞き、個人として向き合ったから、だから置いてきたんだと思います。ここはあくまでそう感じた、くらいですけれど。
ジョニー伍長の家には、娘が二人、良くしゃべり、生活している。そして未成熟な弟、恐らくそれなりの死地を経験した父との会話と、突然、制服を着て少佐とビールを買いに行くというジョニー伍長の父との会話の質の違い、弟とは世間話であり、保護者の会話をしているのに対して、ジョニーとは、ある種の今生の分かれすら滲ませる短い会話・・・ココが泣けます。父は分かって送り出している気がするのです。
そこからは、ついにこれまでのスラストレーションを爆発させるかのようなアクション。しかし、ここでも、そしてジョニー伍長に仕事を頼む時も、嬉々として行っているのではなく、あくまで兵士として、何も考えずにいられる事を、喜んでいるように見えるんです。なんなら死んでしまっても構わない、という風に。どこまで精神を損なえばこの境地に立つことになるのか?全く分かりませんけれど、大変に苦しい事だと思います。
ラストは唐突に訪れ、家に帰ろう、で終劇。そこにオープニングと同じカントリーミュージックである(日本で言えば、間違いなく演歌です)わが町サン・アントニオが流れる。
不覚にも目から水が出てしまいました。何でかワカラナイ。何故だかわからないけれど、目から水が数的こぼれました。恐らく、存在を自らもどう扱って良いか?分からなくなってしまった男の、兵士としての役割を終えた、という仕事を全うした、というだけの感覚なんだと思います。仇を成した、とか、そういうのでもなく、ジョニー伍長というこの世界で唯一の理解者で同じ被害者との共同作業。
消化しきれない作品でした。
同じ劇場に居た人たちの、ちょっといわゆるダンディズムやこの映画の影響を語られている「狂い咲きサンダーロード」との関連性は私には全然感じないんですけれど、いわゆる浸っている人、結構居たな・・・
でも私はそういうのとちょっと違うと思うんだけど・・・
サンダーロードの主人公って、結局死を厭わなければ、というただそれだけで、イキがっている、頭が悪い人、に見えるんですね・・・駄々っ子に見える。この映画のテーマともアクションとも全然違うと思うんですが・・・

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