井の頭歯科

「淵に立つ」を見ました

2019年8月29日 (木) 09:45

深田 晃司監督        エレファントハウス

凄い映画、と噂には聞いていたのですが、なかなか手が出なかったのですが、やはりNetflixで目についたので見ました。物凄い衝撃の高い作品です。

町工場を営むトシオは30代後半、妻アキエも同年代と思われます。2人には子どもがいて、小学校高学年のホタルという女の子で、3人で生活している家族です。妻と子供はクリスチャンな様子が食事の風景から理解出来るのですが、トシオは我関せず、といった具合です。そんなトシオのところに、旧友であろう事を匂わせる、非常に礼儀正しいのに凄みがあるヤサカ(浅野忠信)が現れて・・・というのが冒頭です。

これは筒井康隆の小説で言えば『闖入者』(あれ?安部公房でしたっけ??)のような話しに、ちょっと見えます。しかし、非常に示唆に富んだ、製作者側の意図を読み込みに値する上質な作品に仕上がっています、それも大変衝撃的な、です。

まず、役者陣はすべての人が良かったです。中でも圧倒的な存在感のヤサカ役の浅野忠信さん、暴力的な何かを隠し持っていて、その隠し持っている事を完全に隠しているのではなく、うっすらとは滲みださせておきながら、その事さえも魅力にさせる事が出来る、というのが本当に凄いですね。そして、黒沢清監督作品「岸辺の旅」(の感想は こちら )の役と似て非なる存在ヤサカを演じているのが凄いです、流石役者さん。

またトシオ役の古舘さんも凄かった。主張の無い、ぶっきらぼうで、しかも返事をしない、まさに家父長制の代弁者のようでいながら、しかし心の奥底では何を考えているのか?わからない人間に見えます。そして何処かで観た事ある、と思ったら大九監督作品「勝手に震えてろ」(の感想は こちら )の釣りのおじさんですね!残念ながら、私は映画を観ている途中に思い出してしまって、それでこの映画の没入感が削がれてしましました、思い出したの本当に良くなかった、残念。

アキエ役の女優さんは、初めて見た気がしますけれど、でも何処かで見ているような気もする、大変不思議な感覚があります。多分、この人が本当の主人公なのかも、と思わせますが、製作者側の意図は幾重にも重なっているので、いかようにも取れると思います。

ヤサカ、礼儀正しさと、どことなく恐ろしさを纏った雰囲気が同居する男、その恐ろしささえも魅力に変える事が出来る男が、家族の中に闖入してくることで起こる不協和音。しかし、この映画の中では、はっきりとした『答え』は描き出されません。ここに、この映画に不満を持つ人もいると思います。ちゃんとした結末を見せろ、この中途半端な放り投げを、面白くないと感じる方、居ても良いと思います。映画の見方なんて人それぞれだと思いますし、エンターテイメントに振り切った作品だって私も好きで見ますし。しかし、非常に上質に、この映画は組み立てられていますし、それこそ観客である受け手は想像の翼をどこまでも羽ばたかせる事が出来ると思います。そして自分なりの結末の意味を、そして製作者側の意図を、感じる瞬間、私はとても楽しい事だと思うのです。

特に今作では、オルガンの音、その曲、宗教性、母と子、白と赤、罪と罰の償い、何があったのか?を知りたいと思う気持ち(そう、今のところの今年のベスト「ザ・バニシング 消失」【の感想は こちら 】のレックス!!)様々に解釈が出来るように演出されていて、大変細やかな配慮がされています。

とはいえ、結末は、なかなかに恐ろしいと思います。私は、家族という存在をあまり肯定的に感じていないのですが、そういう私から見ても、なかなかの衝撃作だとおもいます。

果たして、ヤサカは何をしたのか?家族とは何なのか?人によって違う答えがあると思います。

蜘蛛の話しは、まるでカエルとサソリの話しみたいで怖いですね。

ミヒャエル・ハネケ監督作品が好きな方、エンターテイメント作品以外の映画も好きな方に、オススメ致します。

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