井の頭歯科

「山本 五十六」を読みました

2012年3月23日 (金) 09:34

阿川 弘之著        新潮社文庫

私は全く知らなかった山本 五十六海軍連合艦隊海軍大将の評伝です。名前を聞いたことがある、くらいでして、先入観を持つことも無く、普通に知らなかったです。

先の戦争について少し興味が沸き、何故負けると理解していながら、しかも終着点をゴールを考えないままに泥沼化したのか?が知りたくて本を手に取っているのですが、中でもこの本については特に、「負けると理解していながら開戦の火ぶたを切った男」という宣伝コピーに興味が湧き、尚且つ著者が阿川さんであったので読みました。阿川」さんの言葉はなかなか鋭い部分ありますし、処女作であった「春の城」(の感想はこちら)は素晴らしい小説でしたから。

私はどちらかというと海軍史観の立場で先の戦争を見ているとは思いますが、それは物事を知らないだけで、事実を知れば変わる可能性あります。ただ、なんにしろ、どのような立場にしろ、現実に日本は戦争に負けた(無条件降伏し、ポツダム宣言を受諾し、サンフランシスコ講和条約に調印した)わけで、その結果このような事態に陥っていることがリアルであり、そこは変わりようが無いと思います。無条件降伏に陥った過程を、知ることは開戦に至った過程をも含んで考えなければいけない大きな問題であり、多分一生結論は出ないでしょうし、人によって違っても良いとは思いますが、客観的事実に基づくものであって欲しいです。また、その辺の未だ知らない事実を、あるいは歴史の中に埋もれてしまっている重要な何かが存在したかも知れない、という中腰力(精神科医春日 武彦先生の名言で、判断の保留をしたまま思考停止ではない状態を耐え忍ぶこと)を持って考え続け、何処かで納得できたらなぁ、と漠然と考えています。

結構ぶ厚い上下巻で海軍の将であった山本 五十六を描いていますが、私の全く知らない様々なことを前提で話されるのでなかなか理解するのに苦しみましたが、かなり山本を好意的に見ているというのはよく分かりました。また、並行して読んだ漫画「最終戦争論 石原莞爾と宮沢賢治」(江川達也著)と個人的には対で読んで良かったと思ってます(次回はこの漫画の感想です)。

海軍に所属し、軍縮会議にも参加、海外での評価も高い人物で論理的な部分も大きく先見性も高いが、とことん嫌った相手を許さずに、女性関係にも甘い男であるというイメージを本書を読んで持ちました。私が最も知りたかった「負けると理解していながらも何故開戦の火ぶたを切ったのか?」が今ひとつ理解出来ませんでした。言葉としてはやはり何とか三国同盟を阻止し、講和を早めにしたかった、というのは理解できますけれど、それが突然言葉は悪いんですが「どうしても開戦するなら、開戦と同時にやるだけやりますよ、ただし、1年後はわかりませんけれどね・・・」という、およそ先の予測があまりない言葉にびっくりでした。先見性を持つ男の、責任ある立場がそこまで追い込まれていた、と見るべきか?はたまたどちらかと言えば自暴自棄になっての発言なのか?その点が著者の阿川さんも想像に頼っていて、阿川さんの推察では、今まで散々慎重過ぎる、あるいは弱腰の、親米派的な立場を取っていたところへ、いわゆる右翼的な立場の人々からの讒言に反発して「やってやろうじゃないか」と考えたのではないか?と考えているようです。私はこの本を読んだ限りに於いては、その阿川さんの説にもうひとつ納得出来ませんでした。かなり論理的思考の持ち主であり、いわゆる国家の行く末を考えていたであろう山本がそんなに簡単に考えを180度変換するとは考え難いと感じました。もちろん緒戦に叩けるだけ叩いて講和、という考えを持ったのかもしれませんが、米国民や英国民の考え方や、その指導者の徹底性を知っている山本からすると、個人的には信じがたい部分を感じます。やはりまだ個人的には分からない、という事ですね。

また、何故戦死する際の視察にあれだけの拘りをみせたのか?という事です。そんなに重要な感じもしないのですが、視察はやはり重要な任務なのでしょうか?また早期決戦の後の講和を有利に、というのは分からないでもないのですが、それを実行できる政治的勢力との承諾なり契約について全く行動を起こしていないところも気になりました。そして真珠湾攻撃時に自身は艦隊に同行していなかったのは何故なんでしょうかね?現場に近い方がより的確な指示を出せたような気がします。また、航空勢力の充実をこれだけ訴えつつも、艦隊戦による早期決着を考える、ということに矛盾があるようにも感じますが、しかしこれらは全て私が後から勝手な疑問を抱いているだけなのかも知れません。当時の中ではコレが精一杯の抵抗だったのかも、とも思います。

海軍大将山本 五十六の人物像が気になる方にオススメ致します。なんとなく、もうひとつ興味惹かれる人物ではなかった感じがしました。

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