井の頭歯科

「殺人出産」を読みました

2025年5月26日 (月) 09:40
村田沙耶香著     講談社文庫
かなり売れている作家さんだと思いますし、私も数名の方からオススメされたので、処女作「授乳」を読んだのですが、もうひとつ好みでは無かったのですが、もう少し読んでみようと思って手に取ったのがこちらです。
タイトルの言葉が強すぎますね。
短編4つの短編集です。
んんん、なるほど。
まず、SFの形を取って、現代とは違う『普通』を示し、そこに対抗する主人公、という形を取っています。これは表題作「殺人出産」でも続く「トリプル」でも「清潔な結婚」でも、です。ま、途中の段階のモノもありますけれど。
まだ私がこの作家を理解出来ていないから仕方ないですし、そもそも作家性を理解出来るか?と問われたら出来ないですよね、誰も。作家本人でも怪しい人いると思いますし、だからこそ、文芸評論家がいると思います。
だから私ごときが分かるわけないのですが、どこかに私が納得するポイントがあり、そこが掴めたら、ある程度私なりに理解出来た、と思うのですが、まだ2冊で全然分からないし、そもそもこの村田さんは、恐らくですけれど、女性に向けてしか書いていないのではないか?と思います。
そしてそういう事をしている人はいますし、それでも男性である私も楽しめるモノもあると思います。例えば金井美恵子もくらもちふさこも女性に向けてしか書いていないし、でも男性である私が読んでも面白い作品が多いです。
私の好みだと、そのSF的設定、現代と違った『普通』に対してのロジック、理屈が欲しいです。でないと、その先、物語の進む先の出来事に対して、え、でもこうすれば、的な思考の雑念を排除出来るから。でも村田さんは、そこは些細な事、魅せたいのはそこじゃない、という事のようにわたしにはかんじました。
で、殺人出産に絞って話を進めると、この作品世界では10人産めば1名を殺す事が出来るというルール、というか規範でもあり、法律がある。誰も異議を唱えていない中、唯一のルドベキア会(花言葉で正義とか)という描き方がカルトっぽい組織が出てくるのですが、こちらが普通に見えるのですけれど、この世界では異端とされています。
SF設定で思い出したのが栗本薫「メディア9」とその後と思われる世界の話し「レダ」です。この遠未来世界の秩序とか、出産とか、人口とか、宇宙との交流、その為の、という設定に説得力があり、大変に面白く、今読んでも名作だと思いますが、そういう架空の設定の妙とか現代社会へのテーゼとかでも無い感じなんですよ、村田沙耶香さんの場合。
この物語で何を見せたいのか?現代の違和感、理不尽を暗喩しているのか?考えて観たのですが、よく分からなかった。
そして主人公の行動の原理、何故その行動を起こすのか?もよく分からなかった・・・なんでなのか?殺したいほどの相手がいるわけでもないのに。堕胎している医者への反発とかでも無い気がします。殺される側の権利や主張に、全く相手にしていないし、なんなら指名されたら、仮に良い事をしていてもダメで、出産でしか叶えられない権利、どう考えても強権過ぎるし対抗手段が無いのも変。
さらに報復権が存在するのも、奇妙。普通国家権力が代行するからこそ、万人の闘争状態を防ぐことができるはず。でも、とにかく、凄く鬱屈とした暗い感情が蓄積されてて、身をもって対象を排除、駆除、滅したい、という感覚を感じます。理屈や制度や設計とか、どうでもいい。それよりも私のこの感情を発露させたい、という願望を感じます。
なんというか、思考実験でもないし、いきなりルールが変わった世界で、それでも100年以上先じゃない世界なので、どうしても、そんなに変わるかな?とか、殺人を許せるのか?とか血のつながりを重要視する人たちはどうなんでしょう?とかなんで10名なの?とかあるんですけれど、多分、うっすらと、産む性別、器官に対する強い憎悪のようなモノを感じます。そして強い、衝動を抱えてこの文章や物語を書いているのではないか?と感じました・・・
確かにクレイジーと称されるの理解出来る気がします。生まれてきた状況、それも比較的普遍的な器官に対しての拒絶。
何というか、そういう病気があるとして、もちろん詐病もあると思いますし、単に病名が付いただけで、科学的に両性具有というのであればともかく、どのように何を持って自身の性別に対しての違和感なのか?気になります。もちろんそういう病気がある事は理解しているけれど、遺伝子的に何か違いはあるのか?私は知らないし、性的嗜好にホモとヘテロがあるのは、または両方とか両方ない可能性もあるのは理解出来るけれど、自身の性自認が身体と違っても仕方ない、と私ならあきらめると思いますし、なんなら性転換手術という方法が無い時代であれば、ほとんどの人が諦めるどころか知らない可能性もある。恐らくは性転換手術が出来る事になったので、願望が生まれたのではないか?と考えてしまうのです。そのような方の苦労とか辛さについて軽んじているわけではなく、どういう事なのか?理解したいと思います。現段階では、少し調べてみても、科学的根拠がまだ不明のようです。当然、私の考えも現時点のモノで変わる可能性あります。
村田沙耶香さんに共感する人、多いのでしょう、これだけ読まれているわけですから。でもまだ私には理解出来ないし、何が面白い興味深い所なのか?ワカラナイです。
ワカラナイだけでこれから面白味や興味深い点が出てくるかも。もう1冊有名なアレを読んで決めようと思います。
次の短編トリプルも、そういう概念があっても良いし、とにかく変化が早くて、それに適応している人が正しい訳じゃなく、何故そう感じるのか?の部分が全然わからず、ただの排除とか逃走になるので、ちょっと・・・トリプルが流行る過程に説得力があれば、もう少し飲み込めるんですけれど、多分、いやむしろ、この理屈を排除して、それでもついてこれる人に、ターゲットを絞っている、もしくは自分がそういう人、と言う感じがしました。
清潔な結婚は、多分、ギャグとして書いてるんじゃないのかな。渡辺ペコ著「1122」は婚外恋愛を認める代わりに自由を手に入れられるか?結婚という制度は新しくなれるか?その最初の方は制度を変えずとも運用で変化が起こる、というかなり突っ込んだ漫画でしたけれど、全然消化不良に終わった作品でしたが、制度があったり運用の中で、なんでもオープンにしないでも良くないか、とは思います。漫画「1122」は作者としても不満の残る結果だったと思います。清潔な結婚は多分ギャグの感覚なんだと思います、あまり面白く感じなかったのが、まぁちょっと。この話しで思い出すのは江國香織著「きらきらひかる」です。だから設定という意味でも全然新しくないし、どちらかと言えば葛藤が全然出てこない感覚。ただ単に、結局夫を受け入れない、話し。
余命については野崎まど著「バビロン」で、まぁバビロンも荒唐無稽な話しなんですけれど、バビロンの方が面白味を感じました。
余命はちょっと枚数が少ない中でいかにショックを作れるかという秀作な気がしました。
総じて、ネガティヴというよりは怒りの感情を隠しつつ文章でならぶちまけられる、という傾向を感じました。
多分女性に向けてだけ書いているし、読まれているので、そういう作品を読みたい方にオススメします。

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