小津安二郎監督 松竹 DVD
2026年公開映画/2026年に観た映画 目標52/120 1/6
とある映画友人から大量の、ちょっと考えられないくらい大量のDVDを頂きました。かなりの貴重な品です。しかも友人のchoiceが素晴らしく好みである私にはご褒美。その中の最初の1本はこれにしました。
小津安二郎監督作品にヤラレている人はたくさんいらっしゃいますし、それくらい強い作品で強い監督です。ローアングルと切り返しで(ぱっと見でもこの2つが分かりますが、もちろんそれ以外にも素晴らしい魅力ある監督と作品です)ここまでは凄いけど、もちろん好きではない人もいらっしゃるとは思いますが。普通にかなり視点の低いある種の温かみのある眼差しであり映像作品。
小料理屋に入る周吉(笠智衆)は酒をたしなみつつ、小料理屋のおかみさんから、沼田先生が帽子を忘れた話しを聞かされ家に戻ると・・・というのが冒頭です。
父と娘たち、上の姉が結婚していて子供もいるタカコを原節子が、短大を卒業後に英語の速記を習っている次女を有馬稲子が、それぞれ演じています。
で、ここまで寒々しい映画だとは思ってなかったです、そんなに小津作品を観ているわけではないですけれど、何というか、凄く醒めた目線に感じましたけれど、恐らく、当時は病死や老衰以外の死が街に溢れていたんだと思います。そういうモノだ、と受け止められていて、その上で、頑張るみたいな皮膚感覚なんだと思います。
色々な見方が出来る脚本ですし、当時の感覚としては普通でしょうけれど、それなりのドラマがあって。
父である笠智衆の扱いはいつも同じですし、まぁそういうモノです、小津作品ですし。何と言っても笠智衆ですから。
ただ、男やもめであっても、それなりの生活をしているのは、やはり家政婦さんの存在が大きいし、家政婦さんの給料を払える稼ぎがあるのも事実。そして洋服で仕事に行き、帰ってきたら和服になる、いいなぁ。あれなんとか私もやってみたい、浴衣じゃなく。お高いんでしょうねぇ・・・
娘たちの父、母不在、という家庭での男の身の処し方はかなり難しいでしょうし、生涯で1度だけ、お付き合いしていた女性の実父と彼女のお宅で食事をしたことがあったのですが、私はまだ20歳で本当に無礼な事をしていたでしょうし、今思い返してもいたたまれない気持ちになりますし、娘を持つ父の気持ちを想像するに、どんな男であっても、物足りなく、役不足に見えるでしょうし、まぁ仕方ないけど。当然その父も妻の父から見たら能力不足で頼りなく見えたでしょうし。
この父の所在無さげ、家での居心地よりも(とはいえ娘には異常に、今の2025年の感覚からしたら異常に 父を敬っている ので)仕事場の居心地の方が良さそうに見えます。父権が相対的に高かった当時と比べても、その父権を上手く使えていないし、居心地もそれほど心地よさそうにも見えないのが、凄く不思議で面白いというか、興味深い。もちろん優しい方の父像ではありましょうけれど。
姉娘の置かれた存在も、なかなかに厳しくて、1回しか出てこないんですけれどその夫、そこまで悪くは無いかも知れないが、典型的な内弁慶のようです。で、恐らくこの姉娘が主人公だったはず。この夫婦関係、なんならその間の娘の将来がテーマだったと思われます。キャスティングの順番観ても、多分。
原節子さんの立ち位置も相当に難しい事やってて、その中で芯が通っているけれど儚げ、というかなり難しい事やってますね。そして十分に機能していますし、背中で見せるの本当に凄いなぁ。
とは言え完全にこの原節子を抑えたのが、この時だけの魅力なのかも知れませんが、妹娘です。
脚本段階で相当に揉めたみたいですし、共同脚本の方はかなり心地よくないみたいのようです(wiki調べなんで信憑性もそこそこです)、が、映画としては、妹娘におおよそ丸っともてかれてますね。
妹娘を演じた有馬稲子さんの、物憂げ、アンニュイ、な佇まいに魅力を感じない男性は稀有なんじゃないでしょうか?そもそもポスターもジャケも、おおよそ有馬稲子さんの、あの不安定感漂うタバコを持った手を頬に沿えている写真が使われている事でも理解出来ますが、凄い魅力的。
役柄も、逃れられない状況ですし、この切羽詰まった状況こそ、この映画のエンジンなわけで、小津監督作品でこんな成瀬己喜男っぽいテーマを扱っているとは知りませんでした。
ただ、私、有馬稲子さん、あまり映画で観てないんですよね・・・もう少し他の作品でも観てみたいと思わせるに十分。どの時代にもいる恐ろしくも悲しい境遇ではある。
ただ、これだけで終わらないのがこの映画の凄い所で、まず、また、というか笠智衆の妹と言えば、な杉村春子が、もう杉村春子劇場と言わんばかりに大活躍。エンジンは妹娘なんだけど、この杉村春子がエンジンにどんどんガソリンを入れていく。要所にしか出てこないのに、この迫力、もの言わせぬ場の支配、とある食事、というか食事に誘うシーンからして、もう凄い。そして食事をしつつも常に動き回り気を回し、腕力での場の支配。もう本当に凄いけど、昭和をある程度生きていた人なら見た事ある、おばちゃんパワーが全開な妙齢の女性の典型です。すげぇ金稼いでそうですよね。
さらにさらに、ここに初めて、小津作品で観た気がしますけど、山田五十鈴が出てくる。結構衝撃的に、出てくる。wiki調べですが、唯一の作品みたいですね。
山田五十鈴の、この配役も異常にキツいんですけれど、まぁエンジンが妹娘、ガソリンが杉村春子なら、そのエンジンとガソリンを購入したのは、山田五十鈴な訳です。だから、相当にヘヴィー。そして、この配役の中で最も難しい事にチャレンジしている。ちょっとどうかと思う程の挑戦です。ですが、監督の要求以上の仕事をしている。すげぇ。
東京の、1957年当時の、街並みを観られるタイムマシンのような映画です。
1964年に成瀬己喜男監督が撮る名作「乱れる」の前、1957年に撮られている「東京暮色」素晴らしかったですが、小津作品とは思えない程の哀しみ。
有馬稲子のジャケを観た事がある人で、まだ観ていない人にオススメします。
とは言え、病室のシーンは丸々カット出来た気もします、でも、これは尺の問題ではなく、丁寧さの問題なんだと思います。
それとBGMというか劇伴、恐らくもっと明るくせい、と上層部から言われたんだろうなぁ、もしくは言われそうだから先に入れておくか、ちょっとでも明るくなるように・・・というような顛末なんじゃないかと思うくらい、合ってない。生活音から周囲の音まであるんだから、そこまで入れなくても、と思うくらい、終始、なんとか明るい音を!みたいになってて、これはちょっとあってないと思います。
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