井の頭歯科

「ディミター」を読みました

2013年1月11日 (金) 09:14

ウィリアム・ピーター・ブラッディ著    白石 朗訳   創元推理文庫

有名な映画「エクソシスト」の原作者が80歳を過ぎて完成させた、構想30数年という力作です。ただし、単純なホラーではないミステリー仕立てのミステリーでもない不思議な作品です。

1973年のアルバニアは「神」という概念を国家的に否定して(もちろん「キリスト教」を弾圧)いたのですが、そこに現れた正体不明の男に当局が事件への関与の疑惑を深め、拷問を加えます。その拷問の指揮を執り、男の名前や過去を探す拷問者ヴロラと謎の男の関係を描く1部、その翌年である1974年のエルサレムの病院で起こる奇跡に接する医師メイヨーとある事件を追いかける刑事メラルの2部、そして終章である3部という構成になっています。

ミステリなんでネタバレなしですが、かなり面白かったです。アルバニアにおける宗教史や因習、鎖国状態に置かれていた事実にもびっくりしましたが、単純なミステリでない、スパイモノを注入し、さらに哲学的な問いかけをまぶすことで、個人的にはかなり好みの作風になっています。さらにその東欧からイスラエルのエルサレムに移るのも納得の展開。

その上描写やプロットの見せ方がいちいち憎らしいくらいでして、物語の緩急の付け方が玄人好みです。一見何の変哲も無いように見せかけて実は・・・という部分や、クライマックスでの盛り上がり結末を早く知りたいという欲求を押さえつけながらページをめくることこそ読書の究極の楽しみのひとつですし、最後のカタルシスも素晴らしく、もうひとつの究極の読書の楽しみである読後の余韻もばっちりです。

とりあえず、あまり知識を入れないで読まれた方が楽しめる作品であることは間違いないと思います。

スティーブン・キング作品が好きな方にオススメ致します。

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